第6話
球技大会なんてものは滅んでしまえばいいと常々思う。
どうせ何を選んでも球に遊ばれるのがオチなので、なるべく人に迷惑をかけない個人戦の卓球を選んで初戦敗退を狙う。
本当は敗退した者は応援に回らなければいけないけど、僕は第二の隠れ家、体育倉庫の裏で本を読んでいた。
「いたいた。応援サボったら駄目だよ」
逆光を背に、丈の高い身体が僕の手元に影を作る。黒のハーフパンツとクラスカラーの青いTシャツを着たオミが立っていた。
最近どこに隠れても見つかってしまう。わざわざ探しに来るなんて委員長も律儀な事だ。
「見逃して」
「ええ〜。次、俺の出番なのに応援来ないの?」
オミは僕の隣にドサリと腰を落として肩を寄せてくる。だから近いってば。僕は本のページに栞を挟んで少し距離を開けた。
「何出るの?」
「本当に俺に興味ないね。結構活躍してんのに」
「自分で言う?」
どうして僕の周りには無駄に自信満々な人間が多いんだろう。多いと言ってもハナとオミだけだけど。
「バスケ。次勝ったら優勝」
「へえ…すごいね」
「思ってないだろ」
オミは少し拗ねたように足元の草をむしった。その長い指先が草の汁で汚れるのをぼーっと見ていると、急にこちらを振り向いたオミと眼が合った。やけに真剣な口調で彼が言う。
「興味ないだろうけど応援来て」
「ええ…ヤ」
ヤダ、と言いかけた口を緑色に染まった硬い指先が塞ぐ。それ口に入っても大丈夫な草?と思っていると、彼の人差し指と中指が僕の唇をなぞった。
くすぐったくて顔を背けると、頬肉を摘まれた。手加減するように注意深く摘まれた頬は痛くはないけどなんだかムズムズする。
「いいから来て」
いつの間にかまた近付いた僕より一回りは大きな身体が覆い被さるように迫る。また一つ発見。意外と強引。
そんな必要はないのに、何故か声を潜めるオミに釣られて僕も囁くように答えた。
「分かった。何時?」
「昼休憩終わってから1時半。体育館西側コートな」
オミはようやく頬から手を離して爽やかに白い歯を見せた。その鋭角の多い顔を見ていたら、なんだか無性に嫌味の一つも言ってやりたくなってポツリと呟いた。
「僕よりハナに筋肉見せてあげれば?」
「ハナは時間被るし。ヨウに見てもらいたいよう」
「さむ…」
つまらないオヤジギャグを言いながら、フザケて肩をぶつけてくるオミに肩をぶつけ返して、僕も少し笑った。
その日僕のクラスの男子バスケ部門は学年優勝した。オミはコートの中を縦横無尽に走り回り、スポーツに疎い僕にはなんて言うのか分からなかったけど、時間ギリギリで一番遠い所からシュートを打って見事に得点を入れていた。
大声の声援は恥ずかしいので、2階の観覧席からペチペチ拍手をしていると、何かを探すように振り向いたオミが僕を見つけてガッツポーズをした。近くにいた女子がキャーキャー言っている。
―あれ?あの子達にやったのかな?モテそうだもんなー。
僕は自分の勘違いが恥ずかしくて眼鏡のフレームを弄る。
「ヨウちゃん、草でも食べた?」
いつの間にか隣に来ていたハナが、首に掛けていたタオルで僕の頬と唇を拭いてくれた。タオルから石鹸とハナの香りがして僕は更に赤くなる。
「オミに食わされた。応援来ないと草食わすって」
「なんだと」
「ウソだよ」
下を睨むハナと一緒に見下ろすと、少し寂しそうな顔をしたオミがこちらを見上げていた。
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