永遠の三角
鳥尾巻
第1話
彼女は彼を見ている。
癖のある前髪を眉で切り揃えた幼さの残る白い横顔は、丸い額に自然にカールした長い睫毛、ツンと尖った鼻と瑞々しい苺のような紅い唇、意志の強そうなきゅっと締まった顎から続く細い首のラインが綺麗だ。
解くと腰まで届くくらいの波打つ長い黒髪を一つに纏め、黒の3本ラインのセーラー襟にサテンの黒いタイ、膝丈のプリーツスカートに身を包んでいる。
すんなり伸びたふくらはぎはくるぶし辺りで短い白の靴下の中に消え、彼女は学校指定の赤いサンダルをぶらぶらさせながら、熱心に彼を見て、手元のノートに何か書き込んでいる。
どこにでも持ち歩いていつも何か書いている分厚いリングノートは、幼馴染みの僕も中身を見せて貰った事はないが、気になる物を見つけると書き付けるメモ代わりのようだ。一度だけチラッと見えた紙面には、細かい文字と絵がびっしり書き込まれていた。
変わり者と噂されても誰にも媚びない彼女はクラスでは浮いた存在だったが、僕はその強さと潔さを好ましく思っていた。
彼は同級生と話している。
男性的な鋭角の多い顔や身体つきはまだ成長途中だが、既に背も高く細身ながら筋肉質だ。短く刈った黒髪から見える秀でた額や切れ長の黒い瞳は知性を感じさせ、実際成績も良くて友人や教師の人望も厚い。長い指で窮屈そうな黒の詰襟の首元を緩めながら、楽しそうに友達と笑い合っている。
普段の彼女なら気にも留めないタイプの優等生だけど、今日は何故かじっと見ているのが気にかかる。
陰キャなんて言葉は嫌いだけど、いつもクラスの片隅で本を読んでいるひょろっとして存在感の薄い僕が張り合う相手ではない。
それでも彼女の視線を独り占めにしているヤツが少し憎らしい。2人の視線が交わる事がないのが唯一の救い。
意地でも見るつもりはなかったのに、彼女の視線の先が気になって、読んでいるふりをしていた文庫本から眼を上げて彼の方をちらりと覗い見た。
眼が合った。邪気もなく澄んだ切れ長の涼し気な瞳が僕を見ていた。
―ひえぇ…
変な声が漏れそうになった僕は、慌てて眼鏡を直すフリをして文庫本に目線を戻したけれど、内容が1つも頭に入って来ない。その間もずっと俯いた頬の辺りにちらちらと視線を感じる。
いたたまれず席を立とうとすると、彼女とも眼が合った。変わり者の美麗な幼馴染みは僕と眼が合うとにっこり微笑んだ。彼を観察していて目線を辿り僕に気付いたのだろう。何故か頬に当たる横からの視線は肌を突き破らんばかりだ。
―2人とも何考えてるか分からないけど、怖い。
僕は彼女に引き攣った笑みを返し、逃げるように教室を後にした。
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