第21話「アインへ向かって」
アリアが僕に告白して、その後特に変わった様子はない。
いつも通りの日常を過ごしている。
(そもそも、告白する前から抱いていた感情だとしたら、変わらないのも当然か)
逆に僕、サラ、リンがアリアを意識しすぎているかな。
リンはアリアの前で頭を撫でられると、スッと僕の手の届かない場所に移動するし。
サラは何かとつけてアリアの隣に僕を立たせようとしたりして、正直ちょっとしつこい。
そんな中、全くブレないフレイヤさんは大物だな。相変わらず僕に抱きついたり、歩く時に手を握ったりしてくる。
とはいえ、そんな緊張感がずっと続くわけもなく、10日もしない内にいつも通りになった。
サラやリンがあの手この手で僕らをくっつけようとしたが、当のアリアは照れる事も恥ずかしがる事もせず、ただいつも通りの反応を示すだけだった。ここまで徹底していたら、さぞやりがいがなかっただろうな。
だからといって、このまま関係をうやむやにするのも良いとは思えない。
アインに行って、サラとリンの問題が終わったら、ちゃんと僕の気持ちを伝えよう。
そう決心して疑問が湧いた。僕は僕の気持ちがわからない。
☆ ☆ ☆
依頼が終わり、宿に戻ってきた。
帰り道に自分の気持ちを考えてみたけど、何一つわからなかった。
部屋に入り窓から外を眺める。酒場などの一部の店の灯りが見えるだけで、外はもう真っ暗だ。寒くなるにしたがい、日没までの時間が前よりも早くなった。
振り返り、アリア達を見る。何もしてないわけじゃないけど、特に何かしているわけでもない。それぞれが適当にすごしている。
もう少ししたら、アリアが「お腹を空いた」と言い出すんだろうな。
「どうしたのよ。そんな所で黄昏ちゃって」
サラはきょとんとした表情で、僕を見ていた。
「えっと、僕なりにアリアに対しての気持ちを整理していたんだ」
隠すべきか悩んだけど、正直に言った。
サラに言っただけなのに、アリア達も言葉に反応し黙って僕をみた。
「へぇ、アンタの事だからアリアが返事を急かさないのを良い事に、先送りにしてるものだと思ってたけど」
サラが僕を少し感心したような目で見てるけど、実際の所は先送りだったりする。
「それで、どうなのよ?」
「実は、僕自身もどう思ってるのかよくわからないんだ」
「はぁあああああ?」
驚きと呆れが混ざったような声だ。
そう言われても、僕自身がわからないんだからどうしようもない。
「僕はアリアは可愛いと思うし、大事な仲間だと思ってる」
「なによ、それなら」
「でもサラも同じように可愛いと思ってるし、大事な仲間だと思ってる」
「はぁ?」
「リンとフレイヤさんだって同じだ」
見ればサラは頭を抱えていた。
流石に「なんで頭抱えているんだろう?」などと言うほど、僕は鈍感ではない。
「だから僕は皆の事が好きだ。でもこの感情は、多分アリアの好きとは違うと思うと思うんだ」
「そう……言いたい事が山ほどあるけど。その前にアリア、アンタは良いの? エルクが返事は保留って言ってるけど」
呆れ気味に言うサラの言葉に、頭に「?」を浮かべ首をかしげるアリア。
その仕草を見て、サラは脱力して壁にもたれかかっている。一々仕草がオーバーだな。
そこまでされるとムッとなる。
「そういうサラこそ、アリアのように本気で好きだって言える相手は居るの?」
「え? 私?」
イラっとして口走ったけど、よくよく考えてみればそんな出会い無いのだから、居るわけがないか。
「うん。サラは誰か居るの?」
苦笑いを浮かべ、サラの目線が宙を漂って居る。
僕はサラの前まで歩いて、もう一度問い詰める。
「むぅ」
「ほら、居ないじゃないか」
ちょっと言い過ぎたかもしれない。けれど、たまには僕だって言い返すさ。
確かに優柔不断で気持ちはブレブレさ。それでも僕なりに悩んで考えてたんだ。いや、アリアもアリアなりに考えてそう結論付けているんだ。
それを小馬鹿にしてさ。
後ろからクイっと裾を引っ張られた。
振り返り、引っ張った主を見る。引っ張った主はリンだ。
リンは神妙な表情で僕を見上げた。。
「エルク。サラはエルクの心配をして言ってただけです」
「えっ……」
「サラとリンは、もしかしたらアインでお別れになるかもしれないです。だから『自分達がいる間に、あの2人の関係はなんとかしてあげたいわね』とサラは言ってたです」
「……そうなんだ」
「確かに今のサラの態度は良くなかったです。でもエルク達の事を考えての事なのです。出来ればあまりサラを責めないでやってほしいです」
「うん。そっか。……サラ、ごめん」
「私も言いすぎたから……その、ごめんなさい」
サラに頭を下げられ、いたたまれない気持ちになった。
アリアのことを考えて、自分の気持ちがわからずモヤモヤしていた。だからいつものサラの行動にカチンときてしまい、サラに当たるような物言いになってしまった。
微妙な空気が流れた。
何か言おうにも、何も言い出せない。
「私はエルク君も、サラちゃんも好きだよ」
唐突にフレイヤさんが僕とサラを両手で抱きしめてきた。
アリアとリンを見て「もちろんリンちゃんもアリアちゃんも好きだよ」と付け足して。
「お腹が空くとイライラっとしちゃうんだよ。ご飯食べに行こう」
全く、空気がここまで読めないのは逆に尊敬する。今回はそれが有難いわけだけど。
「うん。そうだね。ご飯食べに行こうか」
「ええ。そうね」
一度ネガティブになると、イライラしてしまい、衝突して、またイライラの悪循環に陥ってしまう。
ここは美味しいものを食べて、笑いあって、反省をして、そしてなかったことにしよう。
「行こうか」
「あっ……」
そう言って僕はフレイヤさんの手を取った。その時のフレイヤさんの手は、小さく震えていた。
もしかしてフレイヤさんは空気を読めなかったんじゃなく、空気を読んだ上であんな行動に出たのか。僕とサラのために。
「フレイヤさん」
ごめんと言おうとして、言葉を必死に飲み込む。
「ありがとう」
「えへへ。どういたしまして」
「エルク。早く行くです」
アリアとサラは先に出たようで、ドアの前でリンが呼んでいた。
「行こうか」
「あの、エルク君。ひとつ良いかな?」
なんだろう?
もじもじしながら、僕を見上げている。
「フレイヤって呼んで欲しいの。ダメかな?」
あまり気にしてなかったけど、アリア達は呼び捨てに対し、フレイヤさんだけさん付けは余所余所しく感じるな。
フレイヤさんが、いや、フレイヤがそう言うならそうしよう。
「フレイヤ。行こうか」
「うん」
☆ ☆ ☆
さらに寒くなり、雪が降り出し、辺り一面は銀世界になった。
やがて雪が溶けるに従い、暖かくなり始めた。
ついにアインに行く日が来た。
街から少し離れた、だだっ広い平原の真っ只中に、高い塀で囲まれた場所。
その塀に囲まれた場所に一つ、関所を思わせるような大きな入り口がある。
僕たちは入り口から入る。中も関所と変わらないような作りだ。
「乗船券の確認をさせて頂きます」
カウンターのような場所で女性の職員さんに僕ら5人分の乗船券を確認してもらい、荷物のチェックを受ける。
問題はなかったのだろう。「素敵な旅を」と言われ、出口に手を向けて案内された。
出口から出ると、そこには大きな船がそびえ立っていた。
船の上には細長いボールのようなものが浮いている。まさか、あれで船を持ち上げて空を飛ぶのだろうか?
船には、いたるところに巨大な棒が十字に付いている。
本気でこんな物が空を飛ぶのだろうか? 今から不安になって来た。
振り返ると、アリア達も少々顔色が悪い。そりゃあこんな物に乗って空を飛んでいきましょうと言われたらそうなるよね。
でも街からこの船が飛んでいる姿は何度か見たし、多分大丈夫なのだろうとは思うけど……。
不安に駆られながらも僕らは船に乗り込んだ。
「アイン行き飛空船、ただいま発進いたします。離陸時には大変揺れますので、お気をつけください」
どこからともなく、そんな声が聞こえて来た。
ヴェル魔法大会で使われたマイクの魔道具のようなもので、周りに聞こえるようにしているのだろう。
直後、一瞬激しく揺れたと思ったら、窓から見える景色が下に落ちていった。
本当に空に浮かび出した証拠だ。
「部屋から出ても良いんでしょ!? 外の様子見に行こう!」
フレイヤが勢いよくドアを開けて出て行く。
「全く。はしゃいじゃって恥ずかしい」
サラが何か言ってるけど、ここは無視だ。
僕だって空からの景色が見てみたい!
アリアとリンも同じ考えなのだろう。僕らは我先にと走り出した。
後ろからサラが叫ぶ声が聞こえるけど、今はそんなものどうでも良い。
「凄い」
甲板に出て外を見渡す。
船はゆっくりと、僕らを乗せて空高く登って行く。
イリスの街が段々と小さくなって、そして見えなくなった。
しばらく上昇を続けた後、甲高い音が鳴り響いたと思ったら、船についてる十字の棒が次々と回り出し、船は真っ直ぐに進み出した。
アインに向かって、僕らの旅は続く。
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