第15話「ヴェル魔法大会 3」
これが僕の答えです!
今までは自分の力を抑えて、場外に出ないようにしていた。
それでも上手く抑えきれないので、相手が向かってくるか、離れて距離を取ってくれるのを待っていた。
だけど今は状況が違う、ヴァレミー園長は僕に向かってくるつもりは無い。距離を取ってくれるわけでもない。
もしかしたら、僕の試合を見て分析していたのかもしれない。
だから、僕は力を抑えるのをやめた。
足に力を入れ、一気に飛ぶ。今までとは比較にならない速度、もはや『瞬歩』の域まで達しているであろう速度。
だが、僕が力を入れるタイミングで制御するのをやめた事に気づいたのか、ヴァレミー園長が大きく飛びのく。
園長が飛びのいた事により、『混沌』であり得ないほどに上がった身体能力で僕は真っ直ぐ飛んでいく。このままでは着地をしたとしても制動距離で場外に落ちるだけだ。
そう、そのまま着地するならね。
必死に足を延ばし、着地するのではなくジャンプ。軌道を斜め上に修正。目指すは観客席。
そして僕は、足をついた。観客席を守るバリアに。
観客席のバリアに着地と同時に曲げた両足をバネに、ヴァレミー園長に向かい三角飛び。
必死に避けるヴァレミー園長に、制御を掛けず縦横無尽に飛びかかる。
右から左へ、左から右へ、上から下へ、下から上へ。とにかく動き回る。リングの外へ出ても観客を守るためのバリアがある、それを足場にして。
さっきのマーキンさんの試合中、リングの外に出てても空中だからか失格にはならないのを見て思いついた。バリア足場にするのもセーフじゃないか? と。
僕の行動にヴァレミー園長が驚愕な表情を見せている。そりゃそうか、バリアを足場にヤケクソで突っ込んでくるなんて思わなかっただろうし。
何度目の突撃になるだろうか、一度リングに降りたった際に、必死に逃げ回ったヴァレミー園長の額から、ポタリポタリと汗が流れるのが見えた。
僕も大分汗をかいたけど、ヴァレミー園長も同じくらい汗をかいている。この状況でリングを冷やせばヴァレミー園長も僕と同じように寒さでまともに動けなくなる。
息一つ切らしていない僕に対して、ヴァレミー校長は既に息を切らしながらしんどそうな顔をしている。このまま捕まえるのが先か、僕の魔力切れが先かの勝負になった。状況としては明らかに僕の方が有利だ。
「ぜぇぜぇ……ちょ……ちょっと待った。……場外で……ぜぇぜぇ……場外で、ルール違反じゃ、ないのか?」
杖に体重をかけて縋るように立ち、息を切らしながら、当然の異議を唱えるヴァレミー園長。やっておいてなんだけど、これってダメなのかな?
ざわめく観客の声、そして視線は一点に注がれる。皆が司会者に注目した。
「地面じゃないので、セエエエエエエエエエエフ!!!!!!!」
セーフの後に、両手で頭の上に大きい丸を作り笑顔を見せる司会者。歓声と共に笑いの声も聞こえる。「良いぞ! もっとやれ!」とゲラゲラ笑いながら叫んでいる最強の男キースさんの姿が見えた。
ヴァレミー園長が「なんじゃそりゃあああああああああああ!」と叫んでいる。って今さっきまで息切れしてたはずなのに元気過ぎじゃない?
「ふぅ。治療魔術って疲労回復にも使えて便利じゃろ?」
ずるい! 園長ずるい!
さっきまで顔を真っ青にして、今にも死にそうだったのに。別人のようにニカっと笑顔を見せてくる。
異議を唱えたのは時間稼ぎだったのか、完全にやられた。
なら、次は休む暇も無く一気に決める。一度『混沌』を解除してから、発動し直す。
疲れを回復されたのは痛いけど、だからと言ってヴァレミー園長の状況が良くなったわけではない。
相変わらず僕の突撃に対して避けるのが精いっぱいで、時折アイスウォールで氷の壁を出たり、ヘブンズドライブで足場を不安定にしてくるけど、『混沌』が全ての魔法を無効化してくれる。
そして何度目かの突撃。
バリアに足をついた際に、勢い余ってそのまま手をついた。
その瞬間「バリン」と大きな音を立て、透明な『何か』が音を立てて崩れていった。多分観客を守っていたバリアなのだろう。
もっとよく考えるべきだった。観客を守るバリア、それが何で出来ているか。
超級魔法ですら防げるであろうバリア、そんなバリアをどうやって発生させるか? それは魔力だ。
魔法を無効化する力で徐々にバリアとしての機能が失われていったのが原因か、それとも手をついた際に手から出ている精気を吸収する力が原因か。もしかしたら両方かもしれない。
結果、バリアが壊れた事により、僕はその場から真っ逆さまに落ちた。そしてまともに受け身が取れず背中から地面に叩きつけられる。
結構な高さはあったものの、『混沌』による身体強化で大したダメージは無かったのは不幸中の幸いか。
「まさかまさかの結末! 超級魔法ですら防ぐと言われているバリアを足場にし、あまつさえ壊してしまいリングアウトによる決着! このような結果を誰が予想できたでしょうか!?」
『混沌』を解く。そして反動で一気に吐き気に襲われる。2分なんて時間はとうに過ぎていた。
終わった。正直ここまでこれただけでも十分じゃないか。仕方ないさ。
「勝者は、古参の意地を見せたというよりも、ラッキーで勝ち星を挙げたヴァレミィィィ選手!」
笑い声と共に拍手が聞こえる。
こうして僕の魔法大会は終わった。
「良い試合だったぞ、勇者マスクマン!」
えっ?
仰向けのまま、まだ起き上がれない僕に向かって、観客が叫んでいる。
「会場のバリアを壊す試合なんて初めてみたわ! 私、あなたのファンになっちゃった!」「ふざけた格好のクセにやるじゃねぇか!」「来年こそは優勝しろよ! お前なら出来るって信じてるからな!」「お前の優勝に1ゴールドかけて、有り金すっちまったけど、後悔はしてねぇぜ!」
他にも子供たちが必死に叫んでいる姿も見える。気がつけば会場は僕の応援をしてくれる人たちだらけだ。
気怠い体を必死に起こし、立ち上がって自分の両頬をパシンと叩き気合いを入れる。
「ありがとうございました!」
観客に向かって頭を下げてから、笑顔で手を振る。
司会者が申し訳なさそうな顔で「そろそろ退場していただけますか?」と言うまで、僕は観客に手を振っていた。
観客席に戻った僕を見て、アリアがサラの時と同じように、挙動不審になりながら口を開けては何も言えずにいるを繰り返していた。
「大丈夫だよ」
そんなアリアの頭に手を置いて、優しい口調で語りかける。大丈夫だから、と。
一瞬アリアの、はにかんだような笑顔が見えたが、すぐにいつもの無表情に変わっていた。
「負けたと言うのに、良い顔をしておるではないか」
「うん。イルナちゃんのおかげだよ。ありがとう」
「また前みたいに思い詰めて、強くなるために学園で文献を漁るのに逆戻りしないか心配しておったが、大丈夫なようじゃな」
「別に思いつめてたわけじゃ……」
そんな風に見えたのかな?
僕なりに出来る事を探していただけなんだけど。
不意に頭を撫でられる。撫でている主はリンだ。
「エルクはすぐにネガネガするから。しょうがない子です」
ネガネガって、別に僕はそんなキャラじゃないと思うんだけどな。
反論してみるも、リンは小さい子をあやすように「はいはい、良い子良い子です」と言いながら僕の頭を撫でてくる。
えー。と言った感じでイルナちゃんやフルフルさんに助けを求めるが、二人も一緒になって僕の頭を「はいはい、良い子良い子」と言いながら撫でてくる。
最終的にサラとアリアも一緒になって僕の頭を撫でてきた。もう良いや。彼女達の好きにさせよう。
自分ではポジティブな方だと思うんだけどなぁ。
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