第7話「シオン戦&フルフル戦」
「年に一度のヴェル魔法大会の予選1回戦はまだまだ続いていきます」
司会の男性がリングの上で喋るたびに歓声が上がる。選手よりも人気があるんじゃないか、この人。
そういえば街の審判の人も、決闘が始まる際に人混み整理する時、皆素直に言うこと聞いていたっけ。
もしかしたら審判ってのは、周りから信頼と尊敬をされている職業なのかもしれない。
「次の試合は皆様ご注目のこのカード! 噂ではドラゴンを倒したと言われる
入場用の門から、いつも通りの足取りで出てくるシオンさん。
「シオン、やってしまうのじゃ!」
イルナさんの言葉に反応し、膝を折り、右手を胸に当て頭を下げる。
敬礼的な物だろう。
「「「キャー、シオン様ステキー!!!!」」」
シオン派の女生徒からは黄色い声援が、一部の観客はそれが気に入らないのか「フン」と鼻で笑っている。
「対するは、剣も魔法もお手の物! 俺が居れば全て解決、
入場用の門から、その長い金髪の髪を棚引かせ、まるで『優雅だ』と言わんばかりの歩き方で出て来た男は、ナルシストだった。
「神よ。私は美しい」
盛り上がっていた会場が、彼の発言で一気に冷めた。ばっかじゃねぇの!?
リングの上で、謎のポーズを次々と決めている。
確かに顔は良いんだけど、何というか凄く残念な人だ。
えっと、メモ帳に書いてあった彼の評価はAって……頭のおかしさの評価じゃないよね?
剣も魔法も達人の域で、弓だろうが楽器だろうが何をやらせてもすぐに上達する天才タイプ。
「自分と同じくらい美しい者としかパーティを組まない」を信条にしているソロ専。実力も頭もぶっ飛んでいる。と書かれている。
「……それでは気を取り直して、始めたいと思います」
そう言って上着の赤いスーツを脱ぎ捨てる司会者。周りを盛り上げるためのパフォーマンスだろう。
冷めた観客も、司会者がスーツを脱ぎ捨てただけだというのに、かなりの盛り上がりを見せている。何でそんなので盛り上がるのかわからないけど。
暗黙のルールみたいなものだろうか? スーツ脱いだら盛り上がってね? みたいな。
「お互いがリングに上がりました、それでは準備は宜しいですね! 魔法大会、レディー」
「「「「「「ゴー!!!!!!!」」」」」」
開始の合図が鳴る。が互いに構えただけで動かず見つめ合っている。
まるで先に動いたほうが死ぬような、真剣勝負のような緊張感。
観客も察したのか、会場が徐々に静けさを増していく。
「どうしたんだい? 動かなくても良いのかい?」
「あぁ、お前の全力でかかって来い。俺が受け止めてやる」
シオンさん余裕を見せ過ぎじゃないのか!?
「なんと! その心意気! 美しいいいいいいいいいいい!!!」
バーナードさんが気持ち悪い動きと共に、土の上級魔法――ヘブンズフォール――を発動させた。
シオンさんの足元が急速に盛り上がり、彼は打ち上げられた。
宙を舞うシオンさん。地面からは土の槍が次々と襲いかかる。
空中でくるりと回転しながら全てを振り払い、着地する。
すると、今度は足元からファイヤピラーが噴出する。
バーナードさんの気持ち悪い動きに合わせて、次々と魔法が放たれる。A評価というのは伊達じゃないようだ。
シオンさんはというと、すべての攻撃を紙一重で避けてはいるが、1回戦の学園長とランドルさんの試合の時のように、一方的な展開で防戦一方だ。
「シオンさん大丈夫かな?」
「大丈夫じゃろ。この程度」
イルナさんは興味無さげに、僕の持ってきたサンドウィッチを食べている。
どう見ても大丈夫じゃない気がするのに。
あれ? さっきからバーナードさんが気持ち悪い動きをしながら口を動かしているように見えるけど。
「偉大なる水神エーギル、美しいこの私が力を迎え入れる事を許したまえ! ストームガスト」
上級魔法を連発しながら、特級魔法を詠唱していたのか!?
リングの上では竜巻が吹き荒れ、雨が、雷が、氷がシオンさんを襲った。シオンさんはそのまま竜巻に巻き込まれ、どうなっているのか目視できない状況だ。
と言うかこんな所で特級魔法なんて使って大丈夫なのかと思ったけど、バリアがバーナードさんの魔法から観客を守っている。相当頑丈なバリアだな。
観客からは狼狽えるような声が上がり始める。そりゃそうだ、特級魔法直撃なんて普通なら死ぬレベルだ。
誰もが青い顔をしていて見ていたが、突如竜巻が割け、ストームガストが消えた。
そこには、五体満足の姿で剣を構えるシオンさんの姿が。
「ははっ、キミは化け物かい?」
バーナードさんは冷や汗を浮かべ、口角をピクピクさせながらストームガストを消したシオンさんを見ていた。
シオンさんは体中にキズがあるものの、どれもかすり傷程度だ。
「いいや。フロストダイバーで足元を凍らされていたら流石に危なかったかもしれん」
「なるほど。私の詰めが甘かったようだ」
「それで、これがお前の全力か?」
「私は剣の腕前も天才ですよ?」
お互いが顔を見合わせて、フッと笑った。それが合図だったのだろう。
剣を構え走り出し、そしてお互いの構えた腕がブレて見える。
勝負は一瞬でついた。
「素直に負けを認めないのは美しくない。降参です」
見るとバーナードさんの持っている剣は折れて、刃が離れた場所に落ちている。
折れた剣を鞘にしまうバーナードさんに、シオンさんは近づき手を差し出し、二人は握手を交わしていた。
「特級魔法をものともしない強靭な肉体で勝負を制したのは、シオン選手!」
歓声の中、イルナ様にもう一度礼をして入場の門へ戻っていくシオンさん。
さっきよりも黄色い声援が増えてる気がするけど。
「なっ? 妾の言った通りじゃろ?」
「そうですね」
その割には、手に持っていたサンドウィッチを落としておりますが。
彼女は落としたサンドウィッチにハッと気がつき、拾い上げ、手でパッパと埃を払って……そのまま食べだした……
高貴な貴族か何かだと思ったけど違うのかな? サイドテールを揺らし、満足そうな顔でサンドウィッチを頬張っている。
☆ ☆ ☆
次の試合はフルフルさんか。
対戦相手は、メモ帳に名前が書かれていない。
「お互いがリングに上がりました、それでは準備は宜しいですね! 魔法大会、レディー」
「「「「「「ゴー!!!!!!!」」」」」」
試合は一瞬だった、フルフルさんが開幕からフロストダイバーを無詠唱で発動させたものの相手はそれを回避、しかし避けた先にもあらかじめフロストダイバーがを発動していたようだ。
膝まで凍らされ、即座に割って出ようとするが、割った瞬間に次のフロストダイバーが発動され足を固定されてしまう。
「偉大なる水神エーギル、力を迎え入れる事を許したまえ! ストームガスト」
フロストダイバーを継続で発動させながら、ほぼ無詠唱によるストームガストを相手に当たらない位置で発動。
「降参しないなら、そのまま当てますが、どうします?」
彼女の言葉に、相手は心が折れたようだ。
「降参だ」
歓声が上がる暇がないくらい、一瞬の試合展開だった。
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