第4話「誤解」
宿に戻る前に、ランベルトさんから貰ったメモを暗記しておこう。
実は本とかの内容を、僕は一回見れば大体覚えれる。だけど念のためにもう1回見て、確実に覚えておく。
覚えたらメモは証拠隠滅。
彼女達が勝つために僕が勝手にやっていることだ、もしこのメモを見られたらどう思われるかわからない。
下手をすれば「もしかして信頼されていない?」なんて思われかねない。
暗記ついでに内容を確認。
ふむふむ。メモに書かれている、評価が高い上位5人は、最初の週にそれぞれ別の予選会場で参加すると書かれている。
―――中央予選会場―――
バン 評価S
キースの弟にして空剣術の使い手。全ての魔法を中級まで使いこなす魔法戦士型。
「実はこっちのが最強じゃないか?」と言われるくらい強いが、キースを兄として、エンターテイナーとして尊敬しているので、キースと当たるといつもすぐに降参している。
キースが途中で敗退した場合は、バンかマーキンが優勝している。
―――西予選会場―――
マーキン 評価S+
キースとは旧知の仲で空剣術、地剣術、補助魔法の使い手。
冒険者にしては珍しい理論派。全ての行動が理に適っているが、プレッシャーに弱い。
理論的に動いてるため、予想外の行動にはトコトン弱いらしく、一度ペースが崩れるとコロリと負けてしまう事も。
ふむ。それなのに評価がS+って、この人どれだけ強いんだ。
それとメモに『ゴチンコとマーキン両名が本戦に出場すると???』と書かれているけど、何があるんだろう。
―――東予選会場―――
ゴチンコ 評価A
剣術、棒術、徒手空拳、その他色々な武器を状況に合わせて使い分ける戦士型。
理論はわからないが、魔法を素手でかき消したりしている。脳筋を突き詰めたタイプ。
補助魔法は使えないが、気功とやらで自己強化が出来る。マーキンとはライバル関係にある(本人談)
気功か、確か東洋で使われる魔法とは似て非なる術だっけ。
厳しい修行が必要だけど、誰でも体得できる魔法のような物らしい。
魔法が使えない僕としては、かなり興味のある話だ。
―――北予選会場―――
ゼクス 評価A+
かつてはSランク冒険者、現在は冒険者ギルドのマスターを務めている。
地剣術の腕前は達人クラスだが、歳のせいか全盛期と比べれば相当衰えている。と本人は言っている。
―――南予選会場―――
ヴァレミー 評価A+
ヴェル魔法学園の学園長にして、かつてはゼクスと共にSランク冒険者。
全ての魔法が上級まで無詠唱で使える上に、補助魔法の効果が高く近接戦闘もこなす魔法戦士型。
最強の男キースさんは前回の優勝者なので、予選が免除されているので出場する事はない。彼の評価はSと書かれている。
他の選手はA評価とB+が10人づつで、残りがB~Dが均等に分けられている。
ちなみにアリアとサラの評価も書かれているが、評価はCだった、彼女達の評価が低くないか?
そう思ってメモを見ると、C以上の選手は1次予選を抜けた事があると書かれた選手ばかりだった。
彼女達は1次予選突破程度の実力はあるという評価なら、別に評価が低いというわけでは無さそうだ。
他の出場予定の選手を見る限り、最初の週の予選が激戦区になっている。
予選に出て負けたらすぐに街を出るという人が多いのだろう。大会の時期は宿代高くなるし。
狙い目は2週目の東予選会場が殆どC以下、3周目の北予選会場もBとCばかりでA以上の選手は居ない。
もちろん絶対にメモの通りになるとは限らないし、評価通りの実力とも限らない。
一応もう少し情報を調べてから、問題なさそうならこの2つの予選に彼女達がそれぞれ出場する方向になるよう、さりげなく話を進めてみよう。
☆ ☆ ☆
「ただいま」
宿に戻ると、彼女達は何やら不機嫌な顔をしている。何かあったのだろうか?
アリアは僕をチラっと見ては俯き、サラとリンは明らかにむくれた顔をしている。
「どうかしたの?」
「どうかしたの? じゃないわよ!」
僕の質問に対し、サラが若干キレ気味だ。
もしかしてメモの件がばれたか? でもバレるには流石に早すぎる。
かと言って他に思い当たる事もないんだけど。
何のことかと考え込む僕に、ムッとした顔でリンが聞いてくる。
「昼間、どこに行ってたですか?」
「昼間はグレンって子達と、ゴブリン討伐の依頼をしてたけど?」
街の外には出たけど、変な所には行っていない。
ゴブリン退治をしてただけだ。
「なんで私達じゃなくて、そのグレンって子達と依頼に行ったの?」
「ランベルトさんに、実際のEランク冒険者がどんなものなのか体験するために紹介して貰ったですよ。サラ達と他のパーティではどれだけ実力が違うのか分かって参考になったよ」
メモの事は隠して説明する。
うん。嘘は言っていないぞ。
「ふぅん」
しかし僕の返事が気に入らないのか、サラは腕を組み半眼で見てくる。
リンがため息をつき、アリアはそっぽを向く。なんだこれ?
彼女達は何か煮え切らない様子だ。
言いたい事があるなら言ってくれれば良いのに。
理由も言わずに「不機嫌です」アピールをし続けるのは、流石にどうかと思う。
やましい事なんて何もしていないわけだし。
あ、いや、メモの件はやましい事か。まいいや、それ以外はやましい事は何もない。
「結局、何が言いたいの?」
今日はグレンの事もあり、僕も少しイライラしてたのだろう、言葉が硬くなったのを自分でも感じた。
僕の態度にサラは一瞬ビクっと身を震わせ、目線を逸らす。
何だろう?
今の彼女の反応、僕の心の中で何かが引っかかったような感覚がした。
「アンタ。パーティから抜けたいの?」
ギリっと歯を食いしばり俯く彼女の口から、そんな言葉が出て来た。
「はい?」
今パーティから抜けたら、勇者の僕では仕事が出来なくなるのに何を言っているんだ?
もしかして、彼女達は僕がパーティを抜けたいから、グレン達と臨時パーティを組んだと思っているのだろうか。
そう思うとさっきの彼女の反応も何だったかわかる。あれは拒絶されることに対する恐怖だ。
学園でイジメられ始めた時期に、友達に話しかけたら冷たい態度で拒絶された時の僕があんな感じだったと思う。
「そ、それは誤解だよ。でもCランクになったら僕はパーティから追い出されるだろ? その時のために、実際の駆け出し冒険者がどんな感じか体験するために、グレン達とゴブリン討伐に行っただけだよ?」
「なんで私たちがアンタを追い出さないといけないのよ!」
「Cランク以上は、勇者必須の依頼無いんですよ?」
「だから何よ?」
だから何って、お荷物な訳だし?
今でも僕はゴブリン相手に一杯一杯なわけだし。
「そしたら僕、お荷物になるわけじゃないですか?」
「誰が! いつ! どこで! アンタの事をお荷物って言ったのよ!」
「いや、その」
いつと言われても、直接言われたわけじゃないけど。
自分から「僕ってお荷物ですよね」なんて言うと、ただ慰めて欲しいだけの人みたいだし。
「エルクが居ないと、美味しいご飯が食べれない」
う~ん。それは他に料理が出来る人を誘えば良い気がしないでもないけど。
「そもそも、サラとアリアがエルク無しでやっていけると思うですか?」
僕が抜けた後の彼女達か。
ちょっと想像してみた、僕の居なくなったパーティ……アリアとサラの仲裁でリンの気苦労が絶えない気がする。
食事、依頼、その他揉め事とか、少し考えただけでも問題だらけだった。
初めて彼女達と出会った時、パーティの雰囲気もそんなに良くなかったし、リンも疲れ気味の様子だったっけな。
「それじゃあCランクに上がったとしても、僕は居ても良いの?」
「そんな先の事はわからないわよ」
今までの流れなんだったの!?
明らかにここは「もちろん、良いよ」って言うところじゃないの?
「ただ、今はCランクになってもアンタをパーティから追い出すつもりは私は無いわ」
「うん。ご飯美味しいから居て欲しい」
「リンもです」
三者三様、それぞれが懇願するような目で僕を見てくる。
普通は勇者が懇願する立場だと思うんだけど。
「うん。それなら改めてよろしくね」
機嫌の直った彼女達を見てホッとする。
そうか、僕は彼女たちがCランクになっても一緒に居て良いんだ。
安心したらなんだか笑えてきたので、笑ってみよう。わっはっは。
良い話っぽくなってるけど、よくよく考えたらランベルトさんと取引して、グレン達と組んだ僕が原因なんだよね。
不安にさせてしまった事に対し、すごく申し訳ない気持ちになった。ごめん。
「そうだ。魔法大会にいつ参加するか決めましょうか」
その分、彼女達を応援することを頑張るとしましょうか。
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