第20話「旅立ち」

「エルク、起きてるかい?」


 出発前日。いつも通り夕食を食べて、お風呂から出て後は寝るだけになった。

 少し興奮して寝付けない僕に、父が話しかけてきた。


「ここ数年、親子らしい会話が出来てなかったが、ここ数日は色々と話せて楽しかったよ」


「父さん……僕冒険者になって、初めてお金を稼ぐ事がいかに大切かわかったんだ。今まで学園に行かせてもらった上に引き籠ってばかりで、その、ごめんなさい」


「いや、良いんだ。私もちゃんとお前と向き合えてなかったからね。あの子達には感謝しないとな」


「うん」


「迷惑かけないように、一生懸命頑張るんだぞ」


「はい」


「頑張った結果、迷惑をかけてしまう事もあるかもしれない。その時はちゃんと謝ることを忘れずにな」


「はい」


 いつ以来だろう、こうやって父に言われるのは。

 本当はもっと早く話をするべきだったんだと思う。でもあの頃には帰れないから、せめてこれからを頑張ろう、彼女たちと。



 ☆ ☆ ☆



 翌日。

 冒険者ギルドの前に行くと、馬車が2台停まっていた、僕達の護衛依頼の馬車だ。

 2台のうち1台は依頼主さん達が乗り込み、もう1台に僕達が乗り込む。

 僕達の馬車の御者ぎょしゃはアリアとリンが出来るので、それぞれ交代でやってもらう予定だ。


「ボウズ、冒険者ギルドは世界中で繋がっててすぐに連絡が取れるようになってっから。もし何か連絡を入れてぇ時はギルド職員に頼めばいつでも連絡できる。たまには父ちゃんに近況報告の手紙くらいくれてやれよ」


 見送りに来たチャラい職員さんにお礼を言って、僕らは出発する。

 ゴロゴロと車輪が回りだす。町中なのでゆっくりと、依頼主の馬車の後ろについて。


 商店の前についた、ここから荷物運びだ。

 護衛とはいったものの、この辺ではモンスターはゴブリン程度で、野盗も特に居ない。

 どちらかと言うとメインの仕事は荷物運びの手伝いで、護衛はあくまで何かあった場合の保険程度のものだ。


「初めまして。道中の護衛、よろしくお願いします」


 店の中から出て来たのは、女の子ばかりだった。

 確か他の護衛依頼を受けた冒険者が男ばかりのパーティで怖いから、若い女性達は僕たちのパーティが見る事になったそうだ。


「初めまして。冒険者ギルドより依頼で魔法都市ヴェルまで護衛につかせて頂きます。しばらくの間、よろしくお願いします」


 僕が挨拶したのを見て、慌ててサラも同じような挨拶をするが、アリアとリンは「よろしく」と言うだけだった。

 アリアはそういう性格だとわかっていたけど、リンは僕らの中で一番の常識人だと思っていたのに。もしかして、人見知りするタイプなのだろうか?

 リンは目を合わせないようにそっぽを向いているが、女の子達はそんなリンを可愛いものを見つけたような目で見ている。一緒の馬車に入れたら可愛がられるだろうなぁ。



 ☆ ☆ ☆



 荷物を載せた馬車を走らせ、門までついた。

 ここから馬車で、魔法都市ヴェルまでは7日程だ。


 門番さんに冒険者カードを見せて、魔法都市ヴェルへの護衛依頼の為に外に出る事を伝えるのだが。

 前会った時に僕に注意してきた門番さんだ。また何か言われるのかな? 

 そう思ってたら僕を見てやっぱり話しかけてきた。


「キミ、勇者イジメを体を張って辞めさせたそうだね。凄いじゃないか。この前は変な事言って本当にすまなかった。気を付けて行くんだぞ」 


 門番さんが軽く頭を下げ、笑顔で見送ってくれた。


「え……あっ、はい!」


 5年間引き籠って何も変わらなかった僕が、勇気を出したこの数日間で沢山の物を得られたと思う。

 今はまだ僅かな変化かもしれないけど、頑張れば変わっていく事を学べた。

 

 ここに戻ってくるときは、立派な自分になって戻ってこよう。これが変わるための最初の一歩だ。

 馬車に揺られながら、僕は一人誓った。



 ☆ ☆ ☆



 門から、遠ざかっていく馬車を見送る三つの影。

 いかにもチャラそうな男と、筋肉を着て歩いているような男と、決して高くはないが、小奇麗な衣類を身にまとった男の3人だ。


「あーあ、行っちまったな。アレクよぉ、本当に良かったんかぁ? 別に仕事なんざ、探しゃあいっくらでもあんだろ?」

 

 チャラそうな男の問いに、アレクと呼ばれた小奇麗な衣類を身に纏った男が答える。


「チャラー。あの子をあのまま働かせたとしても、負い目を感じたまま成長してしまうだろう」


「そうか、親ってのは、色々考える事があって大変なこった。なぁダール?」


 ダールと呼ばれた筋肉を着て歩いているような男は、遠ざかっていく馬車をまだ見つめている。


「さぁな。そんなのは親になってみないとわからん」 


「親か……私は、あの子が学園に通いたいと言った時に、近いからなんて理由で魔法都市ヴェルの学園に通わせたが、本当はかつて魔導士だった妻の姿を追ってしまったのかもしれない。その結果イジメによるトラウマを抱えて引き籠ってしまった。どうにかするための荒治療が冒険者にするなんて、私は親として失格かもしれないな」


「そんなこたぁねぇさ。何があったか知らんが、立ち上がるための手を引いてくれる仲間が出来たんだ。これでダメならテメェの問題だ。親としての問題じゃねぇさ」


「俺たちに出来る事は、陰ながら見守ってやる位だ。ふっ、しかしあんなに小さかったエルクが、冒険者か」


「すまないな、二人には色々手を回して貰って」


「なぁに、気にするこたぁねぇ。むしろアイツが揉め事を解決してくれて助かったくれぇだ。んなことよりも、久しぶりにパーティが揃ったんだ。たまには『4人で』飲まねぇか?」


「そうだな、久しぶりに『4人で』飲むか」


 男達3人は笑いながら肩を組み、歩いて行く。

 今はもう居ない、女性の事を思い出しながら。

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