第14話「正義の理由」

「さて、次はジーンさんの番ですよ。悪いのですがエルク君、そこを退いてもらえますか?」


「嫌です、退きません」


「俺を助けようとしてくれたエルク君に危害を加える気もないし、加えたくないんですよ。だから退いてください!」


「退きません、僕はジーンさんも見捨てる気は無いですから」


 ジーンさんがやった事は許されないとは思う、だからって彼を見捨てて良いなんて考えは、したくなかった。

 

「エルク君、キミは良いさ。可愛い女の子のパーティに囲まれて、勇者であるにも関わらず対等に扱って貰えて。だからわからないんだ! 不当な暴力を受ける痛みを! 嘲笑われる悲しみを!」


「わかるよ。僕も昔、学園に通っていたころに、イジメられていたから」


「じゃあ、なんで!」 


「だからと言って、イジメの報復をすれば解決するわけじゃないです。話し合いましょう?」


 悪い事をした奴は、どうなっても良い。そんな考えに染まりたくなかった。

 それは、あいつが悪いからイジメて良いと言っているのと変わらない。


「そんな、幼稚な正義感で!」


 叫びながらアルフさんが突進してくる。『瞬歩』は使ってこないのか? その方が僕としてはやりやすいからありがたい。

 それでも力の差は歴然だった。一方的に打ち込んでくるアルフさんに対して、僕はまともに捌くことすら出来ない。

 彼が剣を振るうたびに僕は体制を崩し、目の前に剣を突き付けられる。それがもう何度も続いた。


「もう十分過ぎるほど実力差がわかったはずだ。いい加減諦めてくれ。じゃないと本当にキミを斬らないといけなくなる」


 わかっている。けど勝てないからって、諦めるわけにはいかない。

 このままアルフさんに正面から打ち合っても勝てない、それならイチかバチかだ。


「ウンディーネよ、潤しの水を与えたまえ」


 家庭用水魔法の詠唱、コップ一杯程度の水が出せる魔法だ。

 練習ではまだ上手くいったことは無いけど……出来た!

 目の前に、拳よりちょっと小さい水の塊がふよふよ浮いている。このままほっておけばすぐに落ちてしまう。


 僕はその水の塊が腰元付近まで落ちてきた所で、刀身を振り上げて水の塊にぶつける。軽い水しぶきがアルフさんの顔にかかる。

 一瞬、本当に一瞬だけ水しぶきでアルフさんの視界を奪った隙に、僕は振り上げた刀身をアルフさんの剣にめがけて振り下ろす。

 アルフさんの手から、剣を払う事が目的だ。


 振り下ろし、アルフさんの剣を捉えた! しかし、感触がおかしい。

 気づいたころにはもう遅かった。これはリンとゴブリンの模擬戦で散々やられたカウンター、確か海剣術「無手」と言ったっけ。

 相手の攻撃を受け止める瞬間に、あえて自分の武器を手放しカウンターを打ち込む技だ。


 勢いよく振り下ろした剣を止める事は出来ず、武器を手放したアルフさんの拳が僕の顔面に吸い込まれていく。

 覚えているのはここまでだ。そこで気を失ってしまったらしい。



 ☆ ☆ ☆



 目が覚めた時にはもう夕方になっていた。僕は寝かされていたようだ。

 そのまま起き上がろうとするけど、まだ頭がクラクラする。

 一旦起き上がるのはやめよう。もう一度頭を寝かせようとして気づいた。何かぷにっと柔らかい感触が後頭部に感じる。手で触ってみる、ほどよく柔らかい何かだ。見上げるとアリアの豊かな胸が見える。アリアが僕に膝枕してくれていたのか。


「あっ、ごめん」


 慌てて起き上がろうとする僕に対し、アリアが両手で抑える。

 しばらく無表情のまま僕を見ている。


「勝てない相手に、無茶し過ぎ」


「ごめんなさい」


 言い訳しても仕方ない。まずは謝ろう。

 全くその通りなわけだし、こうやって気を失って介抱されて、パーティに迷惑をかけてるわけだし。

 アリアの説教が始まるのかと思ったけど、アリアはそれ以上は何も言わず、ただ無表情で僕を見つめている。

 しばらくしてから、ひょっこりとサラとリンが顔を出してきた。


「アルフが復讐するのは当然の権利だったんだから、止める必要なかったんじゃない?」


「あの後、ジーンはボコボコにされて、エルクが出た意味無かったです」


 実際アルフさんとジーンさんの問題だから、僕が出る方がおかしいとわかってる。

 それでも必死に助けをこうジーンさんを、無視できなかった。


「まぁ今回はイジメた、イジメられた程度の関係だったから良いけど。これが盗賊で誰か殺された復讐ですって言っても、アンタは助けた?」


 何も言えなかった、アルフさんの言った「幼稚な正義」と言う言葉が胸に刺さる。

 イジメ規模じゃなく、死人が出てても同じ事が出来たかか。


「今回の件は、もう少し考えなさい。何で助けたかったか、助けてどうしたかったか」


「リンが思うに、エルクは弱い者いじめに過敏に反応し過ぎです」


「とりあえず、アンタが寝てる間に依頼の分は終わらせたから。さっさと帰るわよ」


 弱い者いじめに敏感、か。

 昔イジメられてた事で、イジメを見ると冷静になれないのかもしれない。

 

 さてと、そろそろ起き上がるかな。殴られた箇所以外に大きなケガはない。

 アルフさんと打ち合った時に、いくつか軽い切り傷をつけられたはずだけど、治っているのを見るとサラ達が治療魔法をかけてくれたようだ。感謝しないと。

 アリアの膝枕は名残惜しいけど。起きるかな。

 

「アリア。ありがとう」


「うん」


 起き上がり、体についた葉っぱや土埃を払う。


「エルク、これ」


 ふと、アリアから装飾のついた剣が渡される。全体的に赤い、柄の部分には大きな宝石? 魔石? が埋まっている。


「これは?」


「エルクが持ってて」


「はい……? わかりました」


 よくわからないけど剣を渡された。さっき無茶し過ぎと叱られたので、その罰の荷物持ちだろうか?

 見た目からして高そうな物だし、とりあえず大事に持っておこう。

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