第35話

 アルベルトさんが早く帰って来て欲しいと切に願った日から1週間ほど経過したが──


 そのアルベルトさんはまだ帰って来ていない。


 あれ以降、マッサージをする人数が増えた。


 ティリー、シェリー、カオルさんの3人は毎晩マッサージを受けに来る……。


 お陰で俺の鉄壁の精神はボロボロだ!


 若いって素晴らしい事だと思っていたが、何回抜いてもエロい声と柔らかい感触で「無駄無駄無駄無駄──」と直ぐに復活してくるので精神だけが削られているのだ。


 ちなみにカオルさん達はけっこう重症だったので安静にしていたせいで筋力が低下している。なので最近リハビリを開始した。



 そんな3人の為に──


 現在、俺は合格祝いと復活祝いを料理でお祝いしようと買い物に出ている所だ。


 また“盗聴紐”を使って情報収集をしながらと一緒に買い物に出掛けている。


 ミーヤとは料理をよくするので最近ではよく買い物に出掛けている。


 歩きながら“盗聴紐”が使えるのかって?


 実は使えたんだよね!


 紐を伸ばして盗聴するのは流石に道の邪魔になるので、目的地に紐だけを出現させてみたら──


 それでも効果があった。そして、他にもマップにピンを差し込めばそこに紐を出現出来たんだ。


 凄い便利だ!



 さてさて、肝心の情報収集の成果だが──


 ダンジョン内のモンスターが増え過ぎており、攻略が出来ていないらしい。


 貴族のまとまりも無いようで、溢れたモンスターを冒険者が倒しているそうだ。


 それでも撃ち漏らしたモンスターがこちらにまで影響を与えている状態だ。


 今回の卒業試験のトラブルもこれが関係しているっぽい気がする。



 この1週間は衛兵さんや残っている兵隊さんが街の防衛に駆り出されている。



 更に深刻なのが──


 問題だ。



 モンスターの出現頻度が上がり、行商人が減った。


 それに伴い、仕入れていた食料が手に入り辛くなり、値上がりが始まっている。



 早くダンジョンの件が片付けば解決するのだが、目処が立っていない。



 サラさんもお金の心配をしていた。


 この調子で値上がりし続ければ──


 1週間ぐらいしかもたない、そう言っていた。



 かと言って、モンスターのお肉をゲットしようにもダンジョンから溢れたモンスターがいるので危険度が高い。


 それに狩りに出れるエリザベスはまだ地中にいるし、カオルさんも満足に動けない状況だ。


 俺もカオルさんが危機に陥るようなモンスターと相対したいとは思っていない。



 食事の品数と量が減り、サラさんは領主邸に助けを訴えているらしいが旗色は良くないようだ。


 アルベルトさんの伝言とやらはちゃんと伝わっているのだろうか?


 相当参っているみたいだった。


 元気のないサラさんを見るのは辛い。


 だから、今回──お祝いとサラさんを笑顔にする為に出来る事をしようと思う。


 というか、最近満足にからなんとかするッ!


 ヒメも食事が減って辛いからなんとかするように言われているしな!


 それに伴い、マップ機能の便利な使い方も教えてもらった。


 後は行動あるのみッ!



 街を歩きながらそんな事を考えていると──


「ロキ君、何買うの? 値段見た感じ──預かったお金じゃ、この先の事を考えたら贅沢出来ないよ? 最近品数が減ってきてるし、小さい子供が文句言ってる……どうしよ?」

「大丈夫さ、俺に良い案がある。任せてくれ」

「……でも、合格祝いとかもするんでしょ? あんまり豪華に出来ないよ?」

「まぁ、豪華なのはアルベルトさんが帰ってからで良いんじゃないかな? 今回は3人が無事帰ってきたお祝いだから気持ちが大事なのさ」

「そう、だよね! 喜んで貰えるように頑張ろうね!」


 ミーアから話しかけられたが、とても不安そうにしていたので安心するように自信満々に答える。



 出来る事それは──


 節約だッ!


 なんせ、孤児院には20人以上の子供がいるからね。


 ここ最近は物価が高騰した事により、品数と量が確かに減っている。


 それを補うには節約が必須だ。


 だから俺は料理当番と買い出し当番を俺とミーアにするとサラさんに告げて、許可をもらった。


 こうする事で俺が買い出しの調整をしながら、節約する事が出来る。


 食費は既にサラさんから預かっている。金額から贅沢すれば直ぐに無くなるだろう。


 だから無駄遣いはしない。


 出来るだけ、安い材料を買って満腹感のある料理を作る。



 後は──


 安い物と無料で手に入りそうな食べ物の調達だろう。


 俺は店で必要は物を調達した後、店が並ぶ通りから外れる。


 ミーアは「これだけしか買わないの?」「え? これ食べれるの?」とか言っていたが、放置しながら色々と材料を集めていった。


 そして、頃にミーアが話しかけてくる。


「──ちょ、ちょっと待って! まだ小麦や廃棄寸前の材料はわかるけど、さっきから肉屋に言っても肉を買わないし、さっきから根っことか掘り起こしたり、草を取ってるのはなんで?!」


 まぁ、側から見たら異常な光景だよな……。

 また変人みたいなレッテルを貼られたら、たまらないので説明した方が良いだろう。


「よし、なら一つ一つ説明していくぞ? まず、パンは高い。それなら自分達でパンを作るか、他の料理にして使った方が安く済む。廃棄寸前の野菜も見た感じ、今日中に食べれば大丈夫なはずだ」

「野菜はギリギリ食べれるだろうし、小麦を他の料理に使うっていうのはわかるけど……肉屋で肉を買わずに骨だけ貰ったのは何で?? ロキ君が夜中に食べるの?」


 ……おやつ代わりに骨を食べる事などするわけがないだろうが!


 やはり、しっかり説明をするべきだな。このままだと本当に夜中に骨を食べる変人だと認識されそうだ。


 当然理由はある──


「ミーヤ、料理人を目指すなら覚えておくんだぞ? 骨からは旨味成分であるダシが取れるんだ。それを使って料理すれば貴重な塩や胡椒などの調味料の節約になるし、十分美味しい料理が作れる」

「そうなの? じゃあ、何で根っこや草もその為に取ってたの?」

「根っこや草はから取ったに決まってるじゃないか」

「え?」


 ミーヤの時が止まった気がした。


 というか固まっているし──


 その「こいつマジで? 頭のおかしいんじゃね?」みたいな目やめてくれないかな?


「……ミーヤ、これもちゃんと覚えておけよ? 例えばこの草はな……俺の故郷ではハーブと呼ばれる薬味の一種で食べる事が出来るんだ。そして、こっちは調理すれば食べられる野草なんだ。この根っこも俺の故郷じゃ一般的に食べられているものだぞ?」

「……そう、なの? ──ロキ君詳しいね! 凄いよ!」


 俺が説明し終わる頃には疑いの目は無くなり、称賛してくれた。


 子供というのは純粋で良いな……一部はマッサージに沼って汚れさせたが……。



 ちなみに根っこというのは“ごぼう”の事だ。

 どうやらこの世界では一般的な物ではないようで売っているのを見た事がなかった。


 まぁ、食材を見つけられたのはヒメから教えてもらったゲーム機能の鑑定とマップ機能の合わせ技のお陰なんだけどね……。



 こうして、俺達は食材を調達して、孤児院に戻ってミーヤに色々と教えながら調理をした。



 その日、皆は久しぶりに品数が増えて、喜んでいた。


『家事万能』様々だ。



 これは余談だが、街の治安は以前よりも超悪くなっている。

 帰るまでに何度もカツアゲに合ったので全部縛り上げて放置してきた。


 当然逆恨みが怖いので、ミーヤを先に行かせて──



 社会的に抹殺した形だ。



 でも、この状況が続けば──



 そう思うと、不安が込み上げてきた。

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