第14話
最初に動いたのは──
俺だ。
『体術』スキルの武技である“正拳突き”を放つ。
サラさんは目を見開き、拳を避ける。
それもそうだろう。
昼ご飯の時に恥ずかしかったが、職業を明かしている。サラさんも確認していた。
その時、俺には戦闘で使えそうなスキルが紐魔法以外記載されていなかった。
解放されたスキルが反映されていないのもその時に知ったが……。
ちなみに封印中のスキルによる“スキル補正”で身体能力が上がった感じはしないので働いてなさそうだ。
そして、全然関係ないが──
ヒメの
正直、こいつに
『やっぱ、楽に生きるには周りに働いてもらわないとね★』
ヒメは間違いなく邪神の類だな。これで女神とかであるなら、この世界は終わってるな。
さて、ヒメは置いておいておく。
『体術』スキルは訓練さえ積めば誰でも習得出来るスキルだが、俺にその記載はなかった。
しかも、その“体技”を放った俺にサラさんは驚いているわけだ。
体技とは体を武器にした技だ。剣を使う場合は“剣技”、槍なら“槍技”となる。それらを総称して“武技”と言う。
試したかったのはこの“武技”だ。
ゲームで培った経験が本当に全て無駄になったかどうか──これを確認したかった。
オークとの戦闘前、ミカに殴られた時に感じた違和感──
それは
確かに今放った“正拳突き”の威力は無いし、遅い。
だが、動きは俺の体は覚えているように思う。
スキル補正や
しかも武技を放った後のクールタイムが必要無いのが1番のメリットだ。
これはとても大事な情報だ。
地力を鍛えていけば質はかなり劣るがゲームで習得したスキルの武技が使える。
この先の可能性を考え、ニヤついていると──
「中々良い拳ですが──脇が甘いですよッ!」
「へぶッ」
横腹に蹴りが当たり地面を転がる。
それはもう盛大に。
サラさん……細身の貴女にどこにそんな力があるんだ……とても
戦う前に鑑定しとけば良かった……。
ゴブリンやオークを手玉に取れたから大丈夫だろうと完全に舐めてた……というか失念していた。
この人はこの異常な孤児院の大人という事を……。
油断したら死ぬ可能性がある。
適当な所で吹っ飛ばされて終わりにしたい。
『おっぱいを縛れッ! これは模擬戦──許されるッ!』
ヒメは相変わらず変態思考のようだ。
痛い目に合ったし、それぐらいの報酬は欲しいところではあるが──
素手の模擬戦だから縛るのは無理だ。
せめて、懐に入ってその豊満な胸を触るか、顔を埋めるのを目標にしようと思う。
子供だから許されるはずだ。
中身がおっさんでも外見が子供なら許される。
そう、今の年齢でしか許されないのだ。
……って、俺は何を考えているんだ……なんかヒメに毒されてきた気がするな……。
早く負けて終わろう。
さぁ、我が天使よ行くぞ──
盛大に負けるから、かかってこいッ!
そう意気込んで顔を上げると──
「──?! ふぉッ?!」
「ロキ君、モンスターは止まってくれませんよ? さぁ、楽しみましょう♪ うふふふ──」
サラさんから追い討ちで踏みつけに来たので、即座に立ち上がり、再度構える。
尚、踏みつけた地面は凹んでいる。
やだ、この天使超怖い……というか雰囲気変わってね?!
避けて良かった……あのままだったらペシャンコだよ……。
どうしよ? 吹き飛ばされて終わりにしようかと思っていたけど、追い討ちをしてくるぐらいだから止まる事はない気がする。
かと言って俺が勝てる気もしない……だってこの人──
オークぐらいなら普通に倒せるだろうし……。
アルベルトさんは弱いと言っていたが、あれは自分よりは弱いという意味だな。
「おっと、ロキ君言い忘れてましたが──サラは手加減が下手ですので即死だけは避けて下さいね?」
「え?! 何、その今更な情報?!」
「大丈夫です。私に数分も持たせた貴方ならなんとか生き延びれますとも。あ、紐使っていいですよ?」
つまり──
全力で足掻かなければ即死するって事ですね? わかります。
即死さえ回避出来ればアルベルトさんが助けてくれると信じよう。
というか止める気はないのね……。
せめて、一部解放されたスキルの『身体強化』さえ使えればな……ゲーム内と同じ1.5倍の強化率だったから今よりはもっとマシになるんだが。
ちなみにサラさんに“正拳突き”をした時に『身体強化』を意識してみたが、動きは変わらなかった。
一部解放とはいったい……。
とりあえず紐を使うにしても──
森では無いのであの時みたいに紐を巻きつけて移動するのは不可能だ。
つまり、オークより速く、オーク並の威力がある我が天使の拳を防ぎ切るのは無理だ。
圧倒的武力の前では模倣の武技も小手先も無力だろう。アルベルトさんで実感した。
「ふふふ、あははは──さぁ、綺麗な血飛沫を散らして下さいね?」
もう全力で逃げ出したい。サラさん……完全に別人じゃん……二重人格っぽくないか?
これじゃあ、堕天使だよ!
可愛いけどさッ!
「んふふ──それッ」
「──痛ッ、やっぱ身体能力に差があり過ぎて完全に避けるのは無理だな」
とっさに体技の“回し受け”を行うが、完全には避け切れずに掠った場所に痛みが走る。
掠っただけでこのダメージか……防御した腕も痛い。
しかも下手に紐を絡ませると引っ張られるから出せない。
「さぁ、逃げてばかりいないで──もっと楽しませて下さい♪」
「──よッと──ふぉッ?!」
次々と連打が襲ってくるので“回し受け”や“受け流し”をした後に遠心力と体重を乗せた“回し蹴り”をするがパワー負けして吹き飛ばされる。
空中で身動きが取れない状態でサラさんは追い討ちに“遠当て”の構えを取る。
これは空気の拳の振動を魔力に乗せる武技だ。
このままだと肉塊になるッ!
「──これでどうだ!?」
遠当てを放たれると同時にサラさんの周囲に紐を大量に出して絡ませ、攻撃を逸らす事に成功する。
オークの足止めにも使った技だ。これぞ“紐技”ッ!
“紐技”【蛇】と名付けよう。
距離を取って【蛇】を使い続けているものの、あまり効果は無いな……時間稼ぎで精一杯か……。
何か使えるスキルは──
『ロキ兄にはマッサージがあるじゃないか★ 胸をマッサージするんだ☆』
ヒメのメールに一瞬、はッ!? となる。
胸を鷲掴みにしてマッサージでしたら無力化出来るかも?!
なんせ快感増進があるからなッ!
……いや、無理か。そもそも使った事も無いからどれだけ効果があるのかも不明だし、乱打の中を特攻する勇気は無い。
アァァァ──
近接系のスキル補正と
そもそも、このヒモという
養われる事でスキルを得るだけの
しかも他のスキルが使えなくなる上に習得不可なんてデメリットしかない。
そうなのであれば何故、紐魔法なんて関係の無いスキルがあるのか──だ。
救済処置があるとすれば紐魔法しかない。
何か特殊な使い方があるはずだ。
確か、スキルlvも養われた事によって上がっていたはず。確かめるか。
ポチッとな──
──?!
あぁ、なるほど──
そういう事か。
「よそ見なんて余裕ですね────?!」
顔面に容赦無い拳が迫り来るが掴み取る。
そして──
「よそ見なんかしてませんよ?」
「──こ、これは?!」
驚くサラさんに今度は俺が笑う。
「さぁ、楽しみましょう。俺も少しわくわくしてきました」
ゼロ距離から武技である“正拳突き”を放つ。
今放った“正拳突き”はさっきよりも威力が高い。
本来の威力ぐらいはあるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます