これが最強の“紐ムーブ”だ♡〜職業“ヒモ”で少しエッチぃ“紐魔法”が使える俺は戦闘面でもゲーム知識を駆使して強いんですが、紐で縛るせいか周りからは特殊な性癖待ちだと思われているようです〜
トロ
第1話
「「「ゴブ〜ゴブ〜────」」」
「はぁ……せっかくの異世界なのに何が悲しくて亀甲縛りで宙吊りされたゴブリンなんかを見なきゃならんのだ……」
俺は現在、森の中にいる。
そして視線を上げると亀甲縛りの状態で宙吊りされたゴブリンが複数いた。
亀甲縛りとはあれだ……特殊な性癖の人が特殊な縛り方をして興奮するあれだ……。
俺がやったわけではない。いや、俺なのか?
ただ──
『チュートリアル完了だよ♪ やり方は覚えましたかな?? 次はご自身でやってみましょう♪』
このフランクな感じのチュートリアルさんが俺の体を操って紐魔法で勝手にやったのだ。
「やらねぇよ……覚える必要無いだろ……というか、チュートリアルで亀甲縛りとか色々とおかしいだろ……」
俺はここに来る直前まではMMORPG『ワールド・ディスニー』でシークレットクエストで手に入れたユニーク級アイテム『紐で出来たミサンガ』を使って効果を確かめていた。
この『紐で出来たミサンガ』の効果は紐使いというユニーク職業になれるというアイテムだった。
『紐使い』は紐を操るという職業で戦闘を楽しみにゲームをしている俺には必要の無い職業だが、色々と転職してスキルを身につけて行くと新しいスキルや職業が解放される事がある。
それにユニーク職業はどれも何かしらに特化して強力だったので期待していたのだが、MP消費して紐を具現化させて操る『紐魔法』を習得しただけだった。
他にも何故かユニークスキル欄に『家事万能』とかあったが……。確かにこのゲームは自由度が高くて生産職も充実しているが、戦闘をメインで楽しんでいる俺にはあまり必要なかった。
裏クエストのボスを苦労して倒したのになぁーと、紐を出して遊んでいると──
メールが届いた。
『クエスト達成報酬があります。能力をそのままで異世界へ渡る事が出来ます。YES・NO』
と記載されていたので、シークレットクエストの発生かと思ってYESを押すと──
森の中に転移した。
さすがに疲れたのでログアウトしようとアイコンを押そうとしたら、あるべき場所にアイコンはなかった。
最初はバグかと思ったが、自分の体の感覚が現実と変わらない事に気付いた。
ここは──
現実? あのメールには異世界と書いてあったような?
そんな事が頭を過った。
ふと、周りを見渡すと動物──いや、モンスターがいた。
ホーンラビットと呼ばれる角の生えた兎だ。直ぐにどこかへ去ったが、あまりにもリアルだった。
シークレットクエストではなく、更に未実装地帯でもない。
更にここに来る前に見たメールが真実であるとした場合、これらから導き出された答えは──
異世界しかなかった。
通常であればパニックになるだろう。
だが、異世界転生や転移系のラノベの物語ような出来事が起こってわくわくした気持ちの方が強かった。
本当にゲームの能力を引き継いでいるなら間違いなく俺は最強クラスの強さだ。
ご都合主義展開やテンプレ展開が俺を待っているッ!
色々と想像してテンションが爆上がりしていた。
この気持ちが一瞬で現実に引き戻されたのは自分のステータス画面を見た時だった。
スンッてなった。
名前:ロキ
年齢:10歳
職業:ヒモ見習い
ユニークスキル:紐魔法Lv1、家事万能
スキル:【封印中】
称号:『賢帝の心得』
パッと見た感じ、ステータス表示が無くなっているが、数値化されない異世界なのだろうと納得する事にした。
ゲーム名はロキなので、そのまま名前になっているのも良い。
年齢も俺が最初のメイキングで子供にしたからそれもどうでも良かった。逆に若返って嬉しいとさえ思えた。実年齢は40歳だからな……。
職業欄を見て目を疑った。
『紐使い』に転職していたはずなのに何故か紐はカタカナで『ヒモ』とだけ記載されていた。
しかも見習いだ……。
これじゃあ──養ってもらう方のヒモじゃないかッ!
ヒモに見習いとかあるのかよ!?
そう心の中で叫んだ。
更に問題はそれより下だ。
長年コツコツと続け、転職を繰り返し大量のスキルをGETしてきたのに封印と書かれて表示すらされなかった。
全く意味不明だった。
そのままの能力で異世界に来れるのでは? という疑問符が浮かんだ。
だって苦労して得た称号『賢帝の心得』はあるし……。
もしかして
ヒモ見習いの所を押すとジョブの説明が表示された。
ヒモ見習い:ユニーク職で永久職。養ってもらうとヒモ見習いからヒモになり、特殊スキルが解放される。攻撃手段として紐を出す事が出来る。これまで習得したスキルは使用不可(条件達成で一部使用可能)。通常スキル習得も不可。職業補正無し。
とても酷い内容だった。
紐使いになる前にちゃんと説明を見たが、ゲームではそんな表示はされなかった。
異世界に来てバグったようだ。
スキルが封印されるとか間違いなく呪いの類だろう。
いやそれよりも酷い。
確かに呪われた職業はある……だが、それらは順序を踏めば解呪可能で転職は出来るのだ。
しかし、このヒモ見習いとやらは永久職と記載されている。見習いが取れると記載されているが、一生この職業という事になる。
確かにゲーム内に数える程しかいないユニーク職はプレイヤーの憧れだ。なんせ、なるには相当苦労するし、運の要素が強く絡むからだ。
特に『剣帝』『拳帝』『炎帝』──『帝』という字が付く職業は何かしら特化型で強力無比だった。
そんな奴らと戦闘で互角以上の相手をする為に長い年月をかけてプレイヤースキルを磨き、数多の転職を繰り返して上位職や派生職にもなり、スキルを獲得したのだ。
その結果、俺もユニーク職である『賢帝』になる事が出来た。ユニーク魔法以外の魔法は使えたし、魔力も無尽蔵に使える職業だったが──
それらが使えない……。
ショック過ぎる……。
更に言えば、ここにくる前にゲーム内で簡単に紐魔法を使ってみたが、紐自体に何か特殊な効果があるわけでもなさそうだった。
似た職業で『糸使い』があるが、この職業はモンスターを糸で倒すと特殊効果のある糸がドロップする。
その特殊な糸を使って状態異常を付与したり、糸で敵を切断する事も出来たりした。
どう考えても紐魔法は下位互換のような気がした。
せっかくの異世界なのに詰んだ……。
“
これは簡単に言えば、近接系の下位職なら筋力に補正がついて強くなるし、魔法職なら魔力に補正がつき、その職業向きにステータスが上がるというものだ。
その他にも“スキル補正”というものがある。これも似たような補正が付く。
数値化されないとはいえ、それらも無いとは……。
せめての希望は称号欄にある『賢帝の心得』の“称号補正”がある事は信じたい。この効果は魔力量の回復速度極大UPだったはずだ。
はぁ……何故、こんな微妙な
そんな事を考えているとメールがまた来た。
『さぁてッ! チュートリアルを開始するよ?! 用意はいいかな?? 近くにゴブリンがいるから勝手にラーニングモードに移行するね♪ 体の支配権は一時的に私が貰ったッ! その間に紐の使い方を学んでね☆』
これを見た瞬間、頬がピクつき、イラッとした。
「……うぉ?! 勝手に紐が出た?!」
俺の意思とは関係なしに手の平から紐が一本出現する。
周りを見渡すとゴブリンがいた。緑色の小鬼でゲームにいたゴブリンと同じだ。
ちなみに紐は普通の紐だ。
こんな物でモンスターを倒せるとは到底思えない。
しかし、このふざけた文章を打ってくるチュートリアルさんは紐の使い方を教えてくれるという。
ラーニングはゲームにも同じ機能があったはずだ。新しいスキルを得た時に使い方を教えてくれる初心者に優しい機能だ。
俺は手探りで使うのが好きだからあまり使った事がないが……。
この機能が異世界に適用されるのは正直言って助かる。もしかしたら紐使いにも隠された力があるかもしれない。
モンスターが現実にいるこの世界で是非、俺が生き残れる可能性を教えてほしいものだ。
なんせユニーク職だ。更に言えば異世界に来てパワーアップしていると期待したい。
「ゴブッ!」
ゴブリンはこちらに気付いて走り出して来た。
それと同時に紐は伸びてゴブリンに向かって行く。
さて、チュートリアルさんのお手並み拝見だ──
まず、紐はゴブリンの右足首を捉えて巻き付く。
この時、自然と紐の使い方がわかった気がした。
ゲームと違って、体内に魔力っぽい物がある。それが紐に変換し、細かな操作が可能にしているようだった。
ラーニング機能便利だな……。
「ゴブ?!?!」
そのままゴブリンは右足を引っ張られて転倒する。
足止めとして使えるのはわかったが、攻撃性能が低すぎる。
俺は子供の体だし、腕力も無い。それに補正もないから紐を引っ張って投げ飛ばすのは無理だろう。
殺すにしても紐で締め殺すぐらいしか思い浮かばない。
ゴブリンは立ち上がってこちらにまた向かって来た。
紐もそれと同時に動き出す。
今度は首に巻き付き締め上げる。
「こ、これは……なんとも……」
「ゴッブッ────」
首に巻き付いた紐を必死に外そうともがき苦しみ、やがて凄い形相でゴブリンは死んだ。排泄物も出ている。
見ていて気持ちいい物ではない……。
幸い、吐いたりする事はなかったが、この死に顔は末代まで呪ってやると言われても納得するような感じで後味が悪い……。
絞殺ってかなり残酷な殺し方だな……。
というか、紐の使い方が普通過ぎて可能性を全く見出せないんだが?
そもそも条件達成ってどうしたらいいんだよ?!
まさか『ヒモ見習い』から『ヒモ』になれってか?!
誰かに養われる必要があるのか?
紐魔法使ってたら上がるのか?
『次は捕縛の仕方を学んでね♪』
チュートリアルさんが俺の思考を中断させる。
続きを教えてくれるようだ。
捕縛か……普通に巻いたら終わりだと思うのだが?
そんな事を思っていると──
「「「ゴブ」」」
またゴブリンだ。今度は3匹もいる。
気が付けば紐がゴブリンの周囲に3本出現してまとわりついていく。
出現場所を任意で選べるのは足止めとして有効性を上げれるし、意表を突ける。
何より、紐を複数出せるのが知れたのはありがたい情報だ。感覚的に複数の紐は少し扱い辛いが慣れればなんとかなるだろう。
この機会にもっと感覚を掴みたい。
その為に目を瞑り、感覚を研ぎ澄ませる──
「「「ゴブゴフ」」」
しばらく勝手に動く紐の操作性を確かめていると、ゴブリンの声が何故か上から聞こえて来たので目を開けると──
「────何が起こった!?」
ゴブリン共のお腹には六角形で縛り上げられていた──
つまり亀甲縛りで宙吊りにされていた。
誰得だよ?!
「「「ゴッブ」」」
その後、次々と現れるゴブリンに紐はどんどん亀甲縛りされて吊るされていく──
────
────────
────────────
とまぁ、そんな事があった。
とりあえず、わかったのはかなり紐を出しているが魔力が減った感じはしなかったな……コスパは最強かも……いや、称号補正のお陰かもしれないな。
さて、チュートリアルも終了したし行くか……早くこの場から離れたい……。
なんせ──
「「「ゴブん♡」」」
ゴブリン共が変な息遣いをしていて気持ち悪いからな……。
俺はもぞもぞと悶えるゴブリンを放置して歩き出す。
はぁ……まさか亀甲縛りから始まる異世界生活とは恐れ入る──
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