メロディは甘くて深い

「ねえ、何聴いてるの?」

「洋楽だけど……わかるかな」

「あー、わかんないかも。洋楽興味ないし」

「ちょっと聴いてみたら?」

「じゃあ……」


 彼女はその細い指先で私の耳にイヤフォンをはめる。

 耳に触れたその手が少しだけ冷たくて小さく「ひゃっ」と言ってしまい彼女が笑った。

 耳にはめたのを確認すると、彼女は音楽を再生し始めた。

 轟音の中に広がる甘いメロディが絡む不思議な曲を堪能していると、すぐに終わりが来た。


「うわー……なにこれ」

「気に入った?」

「うん、なんか初めての体験だよ」

「よかった」


 彼女は微笑んで、私のイヤフォンを外してポケットにしまった。

 アーティストの名前を教えてもらい、すぐにアプリで検索をかけてアルバムをダウンロードしておいた。

 家に帰り、同じ曲を聴いたけれど不思議と高揚感が減っていた。

 その時、彼女が振れた耳の部分が少しだけ熱くなった。

 私はそこで気付いた。

 彼女がここにいないせいで、こうなっているのだ、と。

 それに気づいた瞬間、私は耳が真っ赤になるほど顔がのぼせてしまった。

 耳からは、ずっと轟音が流れていた。


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