君から貰うよ
センター試験を三日後に控えた水曜日、私は高熱を出して寝込んでいた。
あまりの熱の高さに、今が夢か現実かがわからない。目の前で坂本龍馬と織田信長がドレスを着てダンスしてるのは……現実?
笑いながらくるくると回る2人を見ていると、頭がふらふらとしてきた。その場に倒れ、真っ暗な天井を見ていると、ふらふらとする頭に、冷たい物が乗せられた。
少し冬の匂いがする。
「志穂……大丈夫?」
聞き慣れた声がした。
目を開けると、紗世先輩が私の頭に掌を乗せているところだった。
「紗世せ……」
びっくりして上半身を起こそうとすると咳が出て、言葉が遮られた。
先輩は私の頭を押さえて、ベッドに倒して、布団をかける。
「起きたらダメ。少しでも寝てないと……」
「はい……というか、先輩なんで私の家に来てるんですか!大学は!?それに、約束は!?」
「大学は休みだよ。試験が終わったからね。それと、約束、ねえ……」
私と先輩が交わした約束。
「先輩、もしかして忘れてませんよね……?忘れていたら……私……」
12月の中頃にしたデートで、私は紗世先輩と約束をしたのだ。
紗世先輩の通う大学に合格するまで会わない、もし会ったら、もうキスはしない、と。
紗世先輩は気を遣ってくれたのか、私に会おうとはしなかった。だけど、今日会いに来た。ということは、もう別れる気なんだ。
先輩の顔が自分の涙で歪んでいく。
「おいおい、どうして泣くんだい」
「だって……先輩が会いに来たってことは、私にお別れを告げに来たってことですよね。わかってます、こんな試験前に風邪ひくアホ娘なんか、先輩とは釣り合わないです」
先輩から、溜め息が漏れた。
「何をバカな事を言ってるんだい。私は志穂と別れたいなんて1ミリも思っていないよ。今日、私がここに来たのは、ある物を貰いに来たのさ」
「ある物?」
「目を閉じてごらん?」
「あ、はい」
目を閉じてすぐに、唇に先輩の唇が触れた。先輩はいつものキスとは違う念入りなキスをすると、唇を離した。
「これで……志穂の風邪、私が貰ったからね」
目を開けると、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに笑う先輩がいた。
「ほら、プレゼントの前渡しでもあるんだから、絶対に大学に合格しなきゃダメだよ」
「……はい!」
涙が零れ落ちそうになるのを、グッと堪えた。
だって、この涙は、合格した時に流したいから。
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