体育倉庫にて

 私たちは2人きりになりたいが為に体育倉庫にこもって……そして、閉じ込められた。

 歩美は焦っていたみたいだけど、私は全然焦っていなかった。

 この次の6時間目は、どのクラスも体育館を使わないことを知っていたし、それに……授業よりも歩美と一緒にいることの方が大事だった。

「ねえ、風香!閉じ込められちゃったんだけど!?」

「そうだね」

「そうだね、じゃないよ!どうやって外に出ればいいのよ!しかも次の授業始まるよ!」

 彼女がそういった瞬間に、6時間目を報せるチャイムが鳴った。

「あ゛ーーーーーーー!鳴った!」

 手足をバタバタさせ、マットの上で暴れる彼女を抱きしめる。

「いーやー!今抱きしめられても嬉しくない!」

 腕の中でバタバタと暴れ、この部屋から出ようとする。

 頭に手をやって撫でてやると、すぐに落ち着いた。

「風香……どうしよう。このまま誰にも見つからなかったらどうしよう」

 不安になったのか、暴れることもやめて抱きついて胸の中で泣きそうになっている彼女。

「大丈夫よ、大丈夫」

「だってぇ……。私が誘わなきゃ……一緒に片付けようなんて言わなきゃ……」

「でも、誘いたかったんでしょ?」

 こくりと頷いて、黙った。

 推薦で既に進路の決まっている歩美と、もうすぐ一般受験をする私。

 表面上は変わらなかったし、私も何も気にしていなかったが、歩美は自分が先に進路を決めてしまったのを気にしていたようだ。

 あまりスキンシップをとらないようにして、いつもしているキスも『風邪になるかもしれないから』と言って避けられた。

 物足りなさを感じてはいたけれど、それよりも、彼女が我慢をしているのが……とても楽しかった。

 無理矢理自分に言い聞かせて、スキンシップをはからないようにしつつも、どこか寂しげな瞳でこちらを見てくるのが、私の背筋をぞくぞくとさせた。

「で、誘ったのはどんな用事があったからかな?」

 マットに押し倒して、顔を近づける。

 さっきまで正常だった彼女の息が、見つめているだけで荒くなっていく。

「……なんでもない」

 目を逸らし、口の前で軽く拳を握る。

 内面から溢れ出ている寂しさを必至で隠そうとする彼女が、深く愛おしい。

「じゃあ、何もしない。押し倒しちゃってごめんね」

 起き上がろうとすると、彼女は私の背中に両手を回した。

「どうしたの?」

「用事……ある……かも」

「ふーん」

 顔を再び近づける。

「どんな用事?」

 また目を逸らして、言いにくそうにしている彼女のほっぺたにキスをする。

「ひゃう……」

 かわいい声を上げながら、こちらに顔を直した。

 視線がぶつかり、言葉がいらなくなる。

 何をしたいのか、なんて、ここに2人で入った瞬間からわかっていた。

 それは私もしたいことなんだ。

 閉じ込められても冷静でいられるよ、だって、私、この倉庫から出る方法を知っているから。

 でも、今は言わない。

 だって、唇が近づき始めているから。


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