うちの猫はよく喋る!

@burororo

第1話 社畜怒られる


「ああ...疲れた.....」


 今日もまた日を跨いでしまった。


 俺、長谷川宗一郎は社畜である。

 大学を卒業したのが3年前。

 特にやりたいこともなく、なんとなくで就職した会社は典型的なブラック企業だった。

 配属初日からロクな研修もなく、いきなり現場配属。ミスをしようものなら上司から怒鳴り声のプレゼント。定時に帰ったことなんて数えるほどしかない。

「こんな会社すぐ辞めてやる!」と思ってはいたが辞める機会を窺っていたらズルズルと3年も経ってしまった。


「弁当買って帰るか」


 一人暮らしを始めた当初は自炊を頑張っていたが、今はそんな気力がない。


 いつものコンビニに入り残っているお弁当を探すが現在午前1時、あまりいいものは残っていない。仕方なく、おにぎりとお茶を取ってレジに向かう途中、同居人?のことを思い出す。


「あいつ怒ってるよな・・・」


 いつものことではあるが怒られることは目に見えている。


「お土産買ってくか。たまにはいいだろ」


 好きそうなお土産を選んでレジを終える。


「あー寒っ。肉まんでも買えば良かった」


 ぼやきつつ帰路に着く。もう12月だ。マフラーと手袋も持ってくるべきだった。

 今年は実家に帰れるだろうか。就職してから一度も帰省していない。毎年母親からの「今年は帰ってくるのか」という問いに断りの連絡を入れるのは心苦しいものがある。

 そんなことを考えている内にマンションのエレベーターに着いた。4階のボタンを押してカバンから家の鍵を取り出しておく。

 部屋の前に着いて鍵を開けドアを開ける。


「ただい

「遅い!!!!!!

 もう何時だと思ってるの!!!!!!

 今日は早く帰って来れるって言ってたじゃない!!!!!!

 いっつもそう!!

 早く帰るって言ってぜんぜん帰って来ないじゃない!!!!!!」


 いきなり怒鳴られてしまった。


 

 面倒臭い彼女みたいな事を言っているが人間ではない。

 全身を覆う黒い美しいフワフワな体毛。ピンと立った大きな耳。床を叩く細長い尻尾。立ち上がっても膝ぐらいまでしかない体高。プニプニした肉球。

 喋る事を除けばどこからどう見てもただの黒猫だ。

 何故喋るのかはよく分からない。保護した当社から人の言葉を喋っている。まあ最初こそ驚いたがとくに困る事はないので最近はあまり気にしていない。


「ごめんごめん。もう遅いから声抑えて。

 ほら、お土産も買ってきたから」


 謝りながら袋の中からお土産の缶詰を取り出す。


「!!まっ、まあ今回は許してあげてもいいけど...」


 不機嫌そうだった声色が楽しげになる。

 先程まで床をバタンバタンと叩いていた尻尾もピンとまっすぐ立てて足元に寄ってくる。


「おかえり♪」

「ああ、ただいま」


 帰宅の挨拶をしてとりあえず着替えるかと思い、スーツのジャケットを脱いでハンガーに掛けようと移動してもピッタリとくっついてくる。


「あのー、ルナさん?毛がスーツにつくんですけど」

「いいじゃない少しくらい」


 文句を言ってみるが止める気はないらしい。

 また明日出勤前にコロコロしないといないな。


 手を洗い、ルナに買ってきた缶詰を皿に開けてご飯の準備をする。自分用にはインスタントの味噌汁を用意しているとルナが行儀良くテーブルの横で待っている。


「お待たせ。それじゃあ」

「「いただきます」」


 待ってましたと言わんばかりに勢いよくルナが食べ出す。

 その様子を見ながら味噌汁を啜るとルナが話しかけてくる。


「そういえば今日美咲が来てたわよ」

「道理で部屋が綺麗な訳だ。本当にいい子だなぁ。またお礼のお菓子でも買ってこないといけないな」


 美咲ちゃんは隣に住んでる女子高生だ。

 元々挨拶をする程度の仲でしかなかったが、1年程前ルナを保護した時に色々あって定期的に様子を見に来るようになった。ついでに掃除もしてくれたりご飯を作ってくれる時まである。仕事で遅くなることも多々あるため大変助かっている。

 女子高生を家に入れるのは犯罪臭がするがご両親の許可も貰ってあるらしいので問題ない...筈だ。多分。きっと。大丈夫だよね?


「そうね、最高級のものを買ってきなさい」

「はいはい。前回はクッキーだったし、今回はどうしようかなあ」


 そんな話をしている内に食べ終わる。


「「ごちそうさまでした」」


 食器を片付けて寝る準備をする。歯を磨きながらルナを撫でる。


「今日もフワフワだなあ」

「当たり前でしょ。いいからもっと撫でなさい!」


 そう言って頭を押し付けてくる。

 かわいい。大変かわいい。

 口調は偉そうだが実際は甘えん坊の寂しがり屋だ。いつも帰りが遅くて寂しい思いをさせているのでその分しっかりと撫で回す。


 ひとしきり撫でた後歯磨きを終わらせ寝室に向かう。


「・・・明日も遅くなるの?」

「んー多分。まあ出来るだけ早く帰るようにはするよ」

「・・・うん」

 寝室に入るとルナが勢いよくキャットタワーのドームに入っていく。


「ルナさーん。寒くなってきたし一緒に寝ませんかー?」

「イヤ」


 断られてしまった。悲しい。

 まあいつものことなので気にせず布団に入り、スマホの目覚ましをセットして電気を消す。


「おやすみ、ルナさん」

「・・・おやすみ」


 明日も6時には起きないといけない。仕事の事を考えると憂鬱になるが人間疲れているとすぐ眠れるものだ。あっという間に意識を手放した。





 夜中枕元で物音がしてぼんやりと目が覚めるとルナが布団の端を掘っている。


「・・・おいで、ルナ」


 ぼーっとした頭で布団を持ち上げるとルナが入ってきて俺の右腕を枕にしてくっついて咽喉をゴロゴロ鳴らしている。

 あったかい。布団を掛け直してもう一度寝直す。


「おやすみ」


 そう言ってまた意識を手放した。

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