第143話 ざわつくギルド
「まぁ、商業ギルドの会議には、その内呼ばれるだろうがな」
「……その心は?」
「ライオネル殿と俺が主導しているからだ。ライオネル商会の関係者として参加してもらう形になると思うぞ?」
レイフェットが肩を竦めながら気楽な口調で言うと、センは少し嫌そうな顔になる。
「まぁ、仕方ないか。レイフェットはともかく、ライオネル殿に頼まれたら顔を出さない訳にもいかないしな」
「微妙に引っかかるが……まぁ、今度絶対に呼ぶから楽しみにしとけ」
「無理に呼ばなくてもいいんだからな?」
「おう、任せとけ!じゃぁ俺はこのまま行くから、また今度うちに来てくれ」
そう言ってレイフェットは、明らかに良からぬ事を企んでいそうな笑顔を浮かべながら探索者ギルドから出て行く。
その後ろ姿を見送る事は無く、センは飲食スペースに目を向けニャルサーナル達を探す。
「セン、こっちにゃ!」
声を掛けられて振り向いたセンは、少し離れた位置にあるテーブルで手を振っているニャルサーナルを見つける。
次の瞬間、周囲にいた探索者がセンを見ながらざわめきを発した。
(なんだ……?厄介事か?)
周りの反応に少しひやりとしたセンだったがそれ以上の反応は無く、若干警戒しながらニャルサーナル達に近づいていく。
「……?センはなんで緊張しているにゃ?」
「さぁ?」
若干表情を硬くしたセンに気付いた二人が、お気楽な口調で首を傾げる。そんな二人に近づいたセンは、周囲の様子を気にするようにしながら口を開く。
「いや、なんか妙な雰囲気を感じてな?」
「そうかにゃ?特に変な感じはしないにゃ」
「まぁ、センにとっては慣れない場所だし、ちょっと神経質になっているんじゃない?」
「……まぁ、問題なさそうなら別にいいんだが」
センは少し腑に落ちない物を感じながら、ニャルサーナル達と同じテーブルに腰を下ろす。
その瞬間再びギルド内がざわりとした気がしたが、なんとなく理由が分かったセンはとりあえず無視することにした。
「思っていたよりも早かったけど、もう用事は終わったのかにゃ?」
「あぁ、終わった。レイフェットは次の仕事に向かったし、こっちの用事は済んだ。後は、お前達と組んでくれそうな探索者の話だが……」
「あー、それなんだけど、探索者ギルドの受付の人に相談してみたら、やっぱり条件に合いそうな人を探すのは難しいって言われちゃった」
「……やはりそうか」
ある程度予想はしていた物の、ミナヅキの台詞に出鼻をくじかれたセンは少し難しい顔になる。
「うん……技術があって性格もいい人はチームを組んでいるのが普通だし、実力があってチームを組んでいない人は性格に難ありって感じ。まぁギルドの人は、そこまでストレートに入っていなかったけどね」
「まぁ、当然の帰結だな。職人気質みたいな奴がいてくれることを期待したんだが……」
「後は……ギルドの人に忠告されたのは、私達って女の子二人のチームじゃない?だから、下手に募集を掛けたりすると、下心満載の相手ばっかり集まるって」
「……やはりそうなるか……参ったな」
可愛い女の子にお近づきになりたいと考えるのは、どんな世界でも共通という事だろう。とは言え、センにとってはちっとも嬉しくない真理ではあったが。
「……ルデルゼン殿に相談してみるか」
「誰にゃ?それ」
「知り合いの探索者だ。陽光ってチームに所属……雇われている探索者で親切というか……面倒見の良さそうな方だ。若い連中に雇われていて、少し苦労している感じはあるがな」
「ヨーコーって聞いたことあるにゃ。結構有名じゃないかにゃ?」
ニャルサーナルの言葉にセンは首を傾げる。
「そうなのか?俺は良く知らないが……今二十階層を攻略中って言っていたな」
「二十階層かー、トップチームまであと少しって感じだね」
「トップチームか……今は二十三階層を攻略しているって話だったか?」
「それはちょっと前までの話にゃ。この前二十三階層を攻略して二十四階層が最前線になったにゃ」
「ほぉ、そうだったのか。頼もしい限りだな。出来れば完全攻略してくれると俺もありがたいんだが……」
センがそう言うと、ニャルサーナルとミナヅキは揃って難しい顔になり、ミナヅキがセンに顔を寄せて声を顰めながら話す。
「それは難しいかもしれない。二十三階層を攻略した時にチームに犠牲者が出たみたいで、二十四階層の攻略は断念しているって噂があるの」
「そうなのか……」
トップチームですら犠牲者を出してしまうというダンジョンの現実に、センは本当に二人に攻略を頼んでいいのかと考える。
(災厄の原因がダンジョンにあると確定した訳じゃない。もっと情報を集めて、他の可能性を潰してから調査をしてもいいのではないか?……いや、駄目だ。あらゆる可能性に対して最善の行動をとっていかなくては間に合わない……いざという時に準備が完了していなければ、何もかもが手遅れになってしまう。それだけは絶対に避けなくてはならない……だからと言って、自分の半分程度しか生きていない相手を死地に送り込むというのは……)
考え込んでしまったセンにミナヅキは首を傾げ、そんな二人の様子を見たニャルサーナルがいつもと同じ明るい笑い声を上げる。
「にゃはは!またセンが面倒な事を考えている顔になっているにゃ。まぁ、何を考えているかは知らないけど……センが気にする必要はないにゃ。どうせニャルはセンに頼まれなくてもダンジョンには行くし、そこに危険はつき物にゃ。それが嫌なら最初からダンジョンに行ったりしないのにゃ」
「……あぁ、そういう……大丈夫だよ、セン。私達は安全をとにかく重視しているからね。だからこそ、罠が本格化してきて難しくなった階層で足踏みしているわけだし、絶対に無理はしないよ」
ニャルサーナルの言葉を聞き、センが何を考え込んでしまったのか理解したミナヅキも、笑みを見せながらセンに言う。
そんな二人の台詞に、不機嫌そうになったセンが大きくため息をつきながら口を開く。
「……何を勘違いしているのか知らんが……俺が気にしていたのは、優秀と言われるチームでも二十階層クラスの探索にそれだけ手を焼くのであれば、どこぞの能天気な二人がダンジョンを攻略できるのか、根本的に無理なんじゃないかと自分の見通しの甘さを反省していただけだ」
「「……」」
センが皮肉気に口元を歪ませながら言うと、ニャルサーナルとミナヅキは憤慨するどころか呆れた様なため息をつく。
「そういうアレは止めた方が良いにゃ。需要ないにゃ」
「いやぁ、ニャル。ツンデレ男子って言葉も世の中にはあるんだよ?」
「それは唯の思春期野郎にゃ。なんでも男子ってつければいいと思っているだけにゃ。要は全部思春期野郎の事にゃ」
「えー、そうかなぁ」
何故か少し不満気なミナヅキと、ふんすと鼻を鳴らすニャルサーナルを見ながら、若干口元を引くつかせたセンだったが、軽く舌打ちをして立ち上がりギルドの出口に向かう。
「とりあえず、人材募集が出来ないならギルドに用事は無い。帰るぞ」
「えー、もう帰るの?……だんしぃ」
「今日のご飯は何にゃ?思春期野郎」
ニヤニヤしながらセンの後を追う二人の態度に、今度は大きく舌打ちした後センは不機嫌そうにギルドの外に出る。内心では、気恥ずかしさを覚え、流石に先程の台詞は弄られても仕方ないと反省しながらだが……。
そんなもやもやした気持ちを抱いたセンがギルドの外に出てすぐ、ギルドの横にある建物が騒がしいことに気付いた。
「……何か騒がしくないか?」
ギルドの隣の建物……つまり、ダンジョンへの転送陣のある建物だ。
普段から多くの探索者の行きかう建物で、街の中でも常に賑わっている場所ではあるが、普段よりも緊迫しているようにセンには見えたのだ。
「何かあったみたいだにゃ……ちょっと調べてくるにゃ。ミナヅキ、センの事を頼むにゃ」
「うん、任せて」
「頼む」
先程までの、センを馬鹿にするような空気を消したニャルサーナルが、転送陣のある建物へと素早く向かう。
普段であれば、こういった時にニャルサーナルがセンの傍から離れる事は無いのだが、探索者相手の情報収集となると、まだミナヅキに任せるには不安があった為、ニャルサーナルは自ら調べに向かっていた。
「厄介事じゃなければいいんだが……」
「うん……」
魔物の襲撃という単語が二人の頭を過り、表情を強張らせる。セン達が聞かされた災厄の発生する確率……それはあくまで目安でしかなく、それが発生する時は、今この瞬間でも何らおかしくは無いのだ。
「……あ、ニャルが戻ってきた」
「とりあえず、取り急ぎ知らせに戻ったにゃ。探索者のチームが大怪我をしてダンジョンから戻ってきたらしいにゃ」
「……なるほど。しかし、それであんな騒ぎになるのか?」
探索者とは危険が付き物ではあるし、大変な事態には違いないが、あそこまで騒ぎになることもないのではないだろうかとセンは建物に目を向ける。
「あの騒ぎは怪我をした連中が有名どころだからにゃ……大怪我をしながらダンジョンから脱出してきたのは『陽光』のチームにゃ」
センは一瞬で自分の血が冷たくなった様な気がした。
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