第3話 選んだ才能は……
「勝てない、は言い過ぎかもしれませんが……純粋な身体能力では間違いなく貴方が世界最弱です」
「なるほど……具体的な能力の差は現地で調べるしかないと思いますが、中々厳しい状況ですね。それを加味した上で才能を決めたいと思います」
そう言って薦は才能について書かれた冊子に目を落とす。
冊子に視線を落とした薦は持ち前の目つきの悪さが如実に出ており、話しかけづらい雰囲気を醸し出す。
何かを言いたげだった女性だったが、薦の様子に声を掛けるのを躊躇い若干おろおろしている。
その姿は数分前までの超然とした様子は消え失せ、実に頼りなさげである。
薦にとっては新しい人生を賭けた選択の時間、女性にとっては息苦しささえ覚える緊迫した時間を過ごすことしばし、薦が顔を上げる。
選択する才能を決めたのかと思い女性が口を開こうとしたが、その前に薦が話を始める。
「先程から何か言いたげですが、もしかしてまだ何か問題がありましたか?」
「い、いえ。問題ではないのですが……上代薦さんには身体能力でかなりのハンデあります。せめてもの対策と言って何ですが、肉体能力が一番良かった年齢、十八歳の身体になってもらおうと思いますがいいでしょうか?」
「なるほど……確かに今の体では少し走れば息切れしますし、その方が助かります。やはり座り仕事は気づいたら体力が減っていて良くないですね」
そう言って笑う薦の笑顔は、先程まで女性が抱いていた居心地の悪さを払拭させた。
気分が少し軽くなった女性は少し雰囲気を柔らかくして話を続ける。
「それと、こちらは魔力吸収能力を貴方だけ得ることが出来なかった代わりと考えて頂きたいのですが……相手の魔力保有量をある程度把握できるようにしてあげたいと思います」
「そんなことが分かるのですか?」
「あくまで保有している魔力量だけですが……しかし保有魔力量は身体能力の高さにも繋がります。勿論分かるのは魔力量だけなので強さの指針とするには心もとないと思いますが……」
「なるほど。技術や才能は加味されないと言う訳ですね。ですが危険度の指針にはなりそうですね」
「はい。ですので是非活用して頂ければと思います。貴方に分かりやすいようにレベルという形で見える様にしようと思います。貴方自身をレベル1、貴方の二倍の魔力保有量でレベル2といった形です」
女性の台詞を聞いた瞬間、薦の口元が女性に気付かれない程度に引き攣る。
「それはつまり……二倍三倍は当たり前という事でしょうか?」
「え?あ、そうなります。貴方の保有魔力量は生命を維持する最低ラインになり、そこから増えることはありません。恐らく一般的な人でレベル3から5といったところだと思います」
「ありがとうございます。予めその情報を聞けて良かったです。おかげで選ぶ才能を決められました。」
そう言って手にした冊子を閉じる薦は大きく深呼吸をする。
「私が選ぶ才能は……召喚魔法の才能です」
薦が選んだ才能を聞いて女性の顔が驚愕の色に染まる。
「え!?しょ、召喚魔法ですか!?ですが!」
「大丈夫です。召喚魔法の才能でお願いします」
薦が女性の言葉を押しとどめ、自らの希望をはっきりと告げる。
「……本当に良いのですね?」
「はい、お願いします」
「かしこまりました。それでは才能の付与を……」
そこまで言った女性が動きを止める。
「っ!すみません、上代薦さん。少々お待ちください」
目を閉じた女性がこめかみに手を当てながら目を瞑り少し俯く。
決して長い時間では無かったが、表情を深刻な物へと変化させた女性が目を開き薦の方に向き直る。
「この先に起こる災厄について判明したことがあります。先程上代薦さんが気にされていた何が起こるかについてです」
「それは助かりますね」
薦が微笑むと、真剣な表情をした女性がゆっくりと頷き話を続ける。
「いつ起こるかはまだ分かりませんが、災厄の内容は大規模な魔物の襲撃。どこからともなく現れた魔物の大群によって各勢力は各個撃破されていき、大陸は飲み込まれます」
「魔物の大群ですか……」
「申し訳ありませんが、先に向かった皆さんにもお伝えいただけますか?」
「承りました」
薦が頷くと女性は少し困ったように微笑む。
「上代薦さん。本当に申し訳ありませんが、この世界の事をよろしくお願いします」
「まぁ、出来る限りはやってみます。」
日本人らしい玉虫色の返答をする薦。
その回答に苦笑した女性は、先程生み出した光の玉を再び生み出す。
「これは相手の魔力量を計る力と召喚魔法の才能になります。これらの定着には少し時間が掛かりますが……貴方が寝ている間に定着するので、次に目覚めた時、貴方は能力を獲得しています。目覚めた場所にはあなたの仲間となる人達がいるので、ともに力を合わせて頑張ってください。」
そう言って光の玉を薦の元へと導く女性。
光の玉が身体に吸い込まれ、薦は猛烈な眠気に襲われる。
「よろしくお願いします。上代薦さん……あら?」
最後に非常に不安になる声を聞きながら薦は眠りについた。
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