鴉に候
回転饅頭
序章
町外れの藪の中、鬱蒼と茂った藪や朽ち木を掻き分けながら奥に奥に進む。日も届かないような森の奥に、その古びたお堂はある。
――人はそこを、地獄堂と呼ぶ
いつそこが出来たかは知る人はいない。そのお堂の中にはただお堂の真ん中を真ん丸い目を見開き睨みつける閻魔大王の木彫りの仏像がどっかと鎮座している。
この場所に辿り着く迄に、足は茅で切れた切り傷と、藪蚊や山蛭に咬まれた痒みに苛まれている。ぎしりと軋んだ床板を踏むと、中には異様な空気が漂う。閻魔大王の仏像の前に金を入れた包みを置くと、合掌し言う。
「これで、どうか恨みを晴らしてください……」
呼応するように上空を舞うカラスがカァカァと啼く。そう、この【地獄堂】に金を供えると、晴らせぬ恨みを晴らしてくれる裏稼業人【鴉】が来るという。
お堂から出る。外はカラスの啼き声と微かに聞こえる蜩の啼く声。ざわざわと木々を揺らす風。
「おっと、振り返らずに聞け」
不意に声をかけられた。振り返らず答える
「はぁ」
「アンタ、後悔はねぇな?」
「……はい」
「この【地獄堂】で依頼をしたら、もう戻れねぇ。戻るなら今のうちだ。アンタも地獄道に堕ちる覚悟はあんだな?」
「えぇ、勿論です」
「……んで?誰をやりゃいいんだ?」
「……金貸しの、松蔵です。アイツに、女房子供を殺されたッ!」
「成る程、分かった。帰れ。決して振り返るんじゃねぇぞ?」
そのまま逃げるように早足で帰って行った。地獄堂に供えられた金を拾いに、【鴉】の一員が集まったのは、それから程なくしてからの事であった。
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