幕間「斎藤姉弟」
アツシとエイジと顔合わせした後、斎藤姉弟は指定された控室で英気を養っていた。
「どうだい、あの二人は? 中々燃える相手だとは思わないか、キョウスケ」
「あ、う……うん」
「あははっ! キョウスケもそう思うかい! 珍しくやる気じゃないか」
姉の問いかけに弟――キョウスケがたどたどしく答える。他人が聞けば何かモゴモゴ言っているようにしか感じられないのだが、姉のリンには弟が「やる気満々」であるように聞こえたらしい。
キョウスケは昔から、リン以外の他人との意思の疎通が苦手だった。それも、極端に。
そのせいで両親からは疎まれ、周囲からはイジメられがちだった。「何を考えているのか分からない」だとか「もっとはっきり話せ」だとか、心無い言葉を幼い頃からぶつけられてきた。
唯一味方してくれたのは、双子の姉のリンだけだった。
キョウスケにeスポーツ、とりわけフルダイブ環境でのゲームの才能があると見抜いたのもリンだ。
『あいつらを見返してやろうよ!』
そういって、リンがキョウスケの手を引っ張ってくれて、気付けば全国優勝を果たしていた。
「うう……勝つ……よ?」
「そうだね。どんな強敵でも、アタシらが勝つ!」
だから、キョウスケは負けるわけにはいかない。自分を日の当たる場所へ連れ出してくれた姉の為にも、自分の為にも。
一方、リンの戦う理由はとてもシンプルだ。
幼い頃から他の子供より背が高く容姿に優れ、頭もよかったリン。彼女はとにかく「勝つこと」が大好きだった。
勉強でもスポーツでも格闘技でも、リンは負け知らずだった。
けれども大きくなるにつれ、男や大人には力で勝てないのだと思い知る機会が増えてきた。
『なんでアタシは男に生まれなかったんだろう?』
ただ女に生まれたというだけで悔しい思いをすることが、許せなかった。
そんな時に出会ったのがeスポーツであり「ダブルス!」だった。フルダイブ環境で、同一性能のアバターを使って戦えば、性別によるハンデはないも同然――それがとても心地よかった。
弟のキョウスケに、自分に勝るとも劣らない才能があることも大きかった。可愛い弟の才能を世間に認めさせてやりたかったし、何より自分が弟にとって一番のライバルでいたかった。
自分と弟こそが「最強」であると証明すること。それがリンの戦う理由だった。
「ね、姉さん。あいつら、強い。……作戦、考え、た。聞いて、くれる?」
「いいよ、聞かせて」
姉の耳元に顔を寄せ、ぼそぼそと「作戦」を告げるキョウスケ。
それを聞いたリンの顔に、素直な驚きの表情が広がった。
「そいつぁ、また。大胆な作戦を思い付いたもんだね。そこまでしないと、アタシらでも負ける相手ってこと?」
「うっ……十中八九、こっちが勝つ、よ? でも、万が一、ある。と思う。あいつら、他のやつらと、なんか違う――絶対に、負けたくない」
「ハハッ! 燃える相手だとは思ってたけど、キョウスケにそこまで言わせるかやつらか! こいつはますます、試合が楽しみになってきたねぇ」
静かなる闘志を秘めたキョウスケと、炎のように激しい闘志を燃やすリン。
二人の対照的な闘志が、アツシとエイジに向けられるその時が、刻一刻と迫っていた――。
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