三.かつての強敵・新たな強敵

 大東中学との練習試合以来、アツシとエイジは以前にも増して「ダブルス!」に没頭するようになっていた。

 平日だけでは時間が足りない為、小峠に頼み込んで土曜日にも部室を開けてもらうようになった。休日出勤になるのにもかかわらず、小峠は嫌な顔一つせずにアツシ達に付き合ってくれた。

 そんな、ある土曜日のことだ。

「須磨くん、渋沢くん。お二人にお客さんが来ていますよ」

「客? 土曜日なのに?」

 思わず敬語を忘れてアツシが尋ねる。土曜日には、部活の練習がある生徒以外は学校には寄り付かない。平日ならばクラスメイトが訪ねてくることもあったが、土曜日ともなれば全く心当たりがなかった。

 ――けれども、小峠に続いて部室に入ってきた人物の姿を見て、アツシは思わず息を呑んだ。

「やあ、須磨くん、渋沢くん。久しぶり」

「僕らのこと……覚えてる?」

 客とやらはアツシ達と同じくらいの男子二人組だった。お揃いのジャージに身を包んでいて、胸には「金沢第二中」と校名が書いてある。

「君らは……小林くんに、佐野くん!?」

 エイジが珍しく大声を上げて驚いた。訪ねてきたのは、小学生最後のバドミントンの大会でアツシ達を破った「小林・佐野ペア」の二人だった。

「わぁ! 久しぶりじゃんか二人とも! 突然どうしたんだよ」

「今日はこちらのバドミントン部との練習試合に来たんだ。コーチ同士が知り合いらしくてね。特別にセッティングしてもらったんだ」

「それで……二人はどうしてるかなって思って。渋沢くんのお見舞いにも行けずじまいだったし。その、なんて言ったらいいか」

 小林と佐野が傷ましそうな目を車イス姿のエイジに向ける。「友達」という程ではないが、二人は小学生時代に何度となく対戦した間柄だ。エイジの事故のことを伝え聞いて、ずっと気になっていたらしかった。

「二人とも、そんな顔をしないでよ。こんな体になってしまったけど、実は今、結構充実してるんだ。これのお陰で」

 エイジは「エル・ムンド」を指さし、二人に「ダブルス!」で全国を目指していることを伝えた。すると――。

「『ダブルス!』だって? へぇ、じゃあウチの学校にいる『チャンピオン』と戦うことになるかもね」

 小林がそんなことを言い出した。

「チャンピオン?」

「うん。うちの学校のeスポーツ部、確か昨年の『ダブルス!』全国大会で優勝してるんだよ」

「え、マジか!?」

 「まさか、そんな身近に昨年優勝者が」と驚くアツシだったが、何故かエイジとレイカは、そんなアツシの姿を見て驚いていた。

「え、まさかアツシ。前回優勝チームのことを知らないのかい?」

「金沢第二中の『斎藤ペア』って言ったら、すっごく有名だよ、アツシくん」

「あれ、もしかして知らないのオレだけ……?」

「ほら、例えばこの記事」

 レイカが半ば呆れながらタブレットの画面を向けてくる。「ダブルス!」関連のニュースを扱ったウェブサイトに、「圧倒的王者・金沢第二中の斎藤ペア」という見出しが躍っていた――。

   ***

 小林と佐野の二人を見送ってから、アツシ達は「エル・ムンド」のコントロールパネルで過去の大会データを呼び出していた。

 「斎藤ペア」――より厳密に言えば「斎藤・斎藤」ペアは双子の姉弟のコンビだ。昨年、一年生ながら強豪校である金沢第二中のレギュラーを勝ち取り、見事に全国優勝を果たしたのだという。

 アツシ達は、過去データの中から斎藤ペアの試合動画を探し当て、早速とばかりにチェックし始めた。

「うお……えっぐいな、この連携」

「うん。コンビネーションがすごいね。でもなにより、戦術の立て方がすごい。完全に対戦相手の動きをコントロールしてるよ」

 斎藤ペアの実力は、全国優勝の名に恥じないものだった。

 双子だからだろうか、本当に「テレパシー」でも持ってるんじゃないかと思えるほどの、見事なコンビネーション。相手の動きを先読みし、常に先手先手を取り戦いを有利に進めていく戦略眼。どちらも一級品だった。

 特にすごかったのは、去年の地区予選決勝の戦いだ。

 斎藤ペアが「魔法使い」と「長弓使い」という長距離に特化したクラスで出撃したのに対し、相手は「軽戦士」と「短弓使い」の組み合わせ。

 「魔法使い」と「長弓使い」は先手を取りやすいが、足の速い相手に初撃を外してしまうと途端に追い込まれてしまう、ギャンブル性の高いクラスだ。だから、斎藤ペアが圧倒的に不利になるはずだった。

 けれども、試合結果はまるで逆だった。斎藤ペアが終始相手を圧倒して勝利を収めていた。

 作戦は何とも大胆だ。まず「魔法使い」があえて敵に見付かりやすい場所に姿をさらし、「魔法攻撃」を放つ。当然、相手には位置がバレバレになる。が、これはオトリになる為の作戦だ。

 相手は「長弓使い」に注意しながらも「魔法使い」をターゲットに定め、前進してくる。「魔法使い」は「魔法攻撃」で必死に応戦するが――実はこの攻撃、はじめから当てるつもりがない。あえて相手が避けられるように撃っている。

 相手チームは「魔法攻撃」を見事に避けたつもりで、実際には斎藤ペアによって「誘導」されているのだ。斎藤ペアの「魔法使い」は、相手がどの方向に避けて、どのようなルートで自分に接近しようとするかを計算の上で攻撃している。

 そしていつの間にか、敵チームの思考からは「長弓使い」への警戒心が薄れ、同時に斎藤ペア側の「長弓使い」から狙いやすい絶好のルートに誘導されているのだ。

 まず一発、「長弓使い」が敵に攻撃を加える。相手は予想外の攻撃に動揺し、一度体勢を立て直そうと近くの物陰に隠れるが、その時には既に、「魔法使い」の「魔法攻撃」がその物陰に放たれていて――ジ・エンドという寸法だ。

 言葉で説明すると単純な作戦に思えるかもしれないが、実際に「やれ」と言われたら、殆どの人間には不可能だろう。

 下手すると一撃でやられてしまう「魔法使い」でオトリ役をするのは、並大抵の精神力ではできない。相手が自分に向かって迫って来ている状況で、冷静さを保つことは思ったよりも難しい。よほど度胸が据わっていて、かつパートナーの腕前を信じていないとできない芸当だった。

 もちろん、「長弓使い」側に求められるものも大きい。敵の侵攻ルートが少しでも予想からズレていれば、作戦はたちまち成り立たなくなる。パートナーを信じて自分がやるべきことをやるという、職人じみた雰囲気があった。

「これが……全国優勝ペアの戦い」

「ため息しか出ないね」

「ああ。……でも、この時のこいつらも一年生なんだろ? だったら」

「ボクらにできないことはない?」

「おうよ!」

 斎藤ペアの圧倒的な強さを目にしても、アツシの心は全く折れていなかった。エイジは相棒のそんな姿に、心の底から頼もしさを感じ目を細めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る