第54話 リナの御殿1


 リナはグッタリしているあいを銀之丞に代わって背負い、自室に運んで行った。

 あいの着物を脱がせて全裸にし、バスタブのような水槽に浸からせる。

 そして自らもドレスを脱いで裸になり、その水槽に一緒に入った。


 水槽に入れられているのは透明な水。但し、冷たくはない。

 お湯というほど温かくもなく、体温より少し低い程度…。

 そこへ全裸の愛は、頭を縁に乗せて浮かべられるように横にされている状態だ。


 リナは、水槽脇に置いてあった短刀を取り、さやからスッと抜く。

 苦し気な目でリナを見詰めるあいの、白く細い腹部の上方に、その鋭い切っ先を当てて……。


 ズブッと突き挿した!


「うううううっ……」


 赤い血がツーッと流れ出る…。

 そのまま、スパッと一気に、下方へ縦に斬り裂く。


「あうううううっ……」


 あいはグッタリしているが、ずっと意識がある状態だ。

 何をされているかも、しっかり分かっている。自分の腹が、ザックリ大きく切り開かれているのだ。

 当然ながら、物凄い激痛…。顔をしかめる。


 リナは短刀を置き、パックリと開いたあいの腹部内に右手を挿し入れ、グニュグニュと中の内臓をほぐしてから、外へグチョグチョッと掴み出した。


「う、うああああああ……」


 あいは、小さく呻き声を上げた。


 彼女の腹の中には、出血して溜まっていた血がドス黒いゼリー状に固まっていた。

 それが小腸と一緒にプルプル震えながら体外へ零れ出て水に溶けだし、水はどんどん赤く染まってゆく……。


 腹を裂かれ、内臓を掴みだされる。それも、麻酔も無しに。

 途轍もない激痛だが、あいは抵抗することなく、完全に身を任せていた。そして意識も失っていない。

 だが、必死に我慢はしていても、やはり体は正直だった。

 普通でいられるはずなど無いのだ。ピクピクと小刻みに痙攣していた。


 リナは歯を喰いしばって耐えているあいに対し、その猟奇的な作業を淡々と続ける。

 あいの腹部内の大腸をグッと掴み、ベリベリ腹壁から剥ぎ取りながら、盲腸から順番に取り出してゆく。

 ……まるで大型の魚でもさばいて、無造作にハラワタを掴み出しているかのようだ。


「う、ううううう…。い、痛い……」


 引き続いて襲う猛烈な痛みに、ついにあいも我慢していた苦痛の言葉を口にした。


 今感じているのは、河童に大腸を抜かれた時に味わったのと似た感覚……。


 あの時は一瞬の事だったが、ゆっくりと順番にされてゆくのも辛い。

 いや、一瞬で訳も分からずされてしまったあの時の方が、まだ楽だったかもしれない。

 その上、今は腹も大きく切り裂かれているのだ。


「もう少しよ。我慢してね。

 可哀想に、こんなになってしまって。もうちょっと遅かったら、内臓が腐って手遅れになっていたところよ」


 リナの口からやっと出た優しい言葉に、愛は顔をしかめながらも頷く。


 剥ぎ出されて水に浮かんで行く愛の大腸は、太吉に抜かれた時の赤紫色では無い。灰色に変色し、艶もハリも無く、ダラッとだらしなく伸びてしまっていた。

 リナはあいの大腸を全て摘出し終え、あいの肛門に指をズブズブッと二本突っ込んだ。


「あ、ああ…。お尻は、もう嫌……」


「大丈夫よ。これ以上は入れない。ちゃんと繋がっているか確認するだけだから」


 内部を指で撫でる様に探り、直腸部分がしっかり繋がっているか確認した上で、挿し込んでいた指を抜き出す。そしてリナは、あいの腹を覆うように両手を翳した。

 すると、水の中にはみ出て広がっていたあいの大腸小腸は、するすると順番に腹部内に引き込まれてゆく。

 変色していた大腸も見る見る血色を取り戻し、元々の赤紫色へと変化する。


 体外へ出されていた全ての臓物が腹の中の定位置に綺麗に納まると、パックリ開いていた傷口が端から順に消えてファスナーが閉まるかのように繋がっていった。


 傷跡も全く残らず、綺麗な白い腹部に再生してしまった……。


「さあ、もう大丈夫よ。立てる?」


 リナはあいに優しく語り掛けた。


「は、はい、有難うございました」


 あいは少しふらつき乍らも水槽の中で立ち上がり、同じく立ち上がったリナに頭を下げた。

 そして水槽から出て、渡されたタオルで体を拭いて着物を着る。

 しかし、この部屋は湿気がすごく、着物もグッショリ濡れたような状態になってしまっていた。


 リナもドレスを着る。彼女のドレスも同じように濡れている状態だと思われるが、それを感じさせない不思議な素材で出来ていた。


「貴女はいったい何者? ヒトのようだけど、なぜこの妖界にいるの?」


「はい、それは……」


 ……リナの問いに、あいは順を追って丁寧に答えた。


 自分は鬼の子を産む為に産まれた特別の存在である神子かんこだということ。

 鬼と仲良く暮らしていたということ。

 そして、神鏡盗賊の河童に襲われ、尻に手を突っ込まれて内臓を出されてしまったことを…。


「瀕死の状態になった私を助けてくれたのが銀之丞さんです。お薬を提供してくださって、そのおかげで取り敢えず助かりました。

 でも、お薬が足りず、ご覧頂いたような状態で……。

 それで、ここまで連れてきて貰ったのです。

 今助けて下さった貴女は勿論ですが、銀之丞さんも、私の命の恩人です。」


「銀之丞が……」


 リナは眉をひそめ、首を捻った。

 確かに、リナは銀之丞の願いを聞き入れてあいを助けた。しかし、そんなことをする銀之丞が、何故ナナセを殺したのかが分からない。


「私、襲ってきた河童からハッキリ聞きました。

 反乱を企てているのは、治太夫って河童です。

 銀之丞さんは、何も悪い事していません!」


「そ、そんなはずは…。だって、さっきの銀之丞の力は……」


 自己治癒の力は人魚特有のモノ。人魚の力を奪わなければ、入手出来ないはず…。

 それを持っていたということは、銀之丞は人魚を喰ったに違い無いのだ。


 困惑を隠せないリナに、あいは取りすがって訴えた。


「あれは、銀之丞さんとナナセさんの愛の結果なのです。

 銀之丞さんから聞きました。二人は愛し合っていたのです。

 で、結ばれた後に産まれて来るナナセさんの卵を、ずっと食べていたんですって…」


「何ですって? 交合して、卵を?!」


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