第43話 ナナセと銀之丞2

 治太夫は泣き叫ぶナナセに、構わず性行為を続行した。

 抵抗しようとするナナセの両脚をしっかりと抱え込み、激しい動きを繰り返す。


「よし、出すぞ!」


「い、イヤー!止めて!! 銀様、助けてー!!」


 ナナセの体内深くに勢いよく射精する。

 すると、急にナナセの抵抗が止んだ。彼女の生殖器内を精液で満たしたと同時に…。

 治太夫は抜き出し、ナナセから離れる。


 ナナセは、体をピクピク痙攣させている。

 脚は自由になったままだが、抵抗の素振りは見せない。

 股間からは、溢れた精液が……。


 徐々に、ナナセの顔が赤くなり、苦しそうな息使いになって来た。

 ナナセは、脚を軽く曲げ、股を大きく開いた状態のままだ。が、明らかに腹部に力を入れ、息んでいる。

 やがて、ナナセの生殖穴がパックリと大きく開き、中から、何か出て来た。

 先に鋭い尖った部分のついた状態の管。先端は針状に細いが直ぐに太くなり、ちょうど、勃起した男根のような状態に穴から生えてきたのだ。

 但し、太さ・長さは、標準的な男根のそれよりも大きい。


 生えてきた管の、鋭い先端部分には縦に幾つかの裂け目があった。その裂け目から、かなりの量の粘液が零れ出て来る。

 黄色がかった透明の粘液は、ナナセの腹部にドロドロと流れ落ちている状態だ。が、そんなことは気にせず、ナナセは相変わらず、顔を赤くして息んでいる。


「ふう~、う、ううう~!!」


 苦しそうな声と同時に、生えてきた管の根元が大きく膨らんできた。中から、何か出て来る!


 鶏卵よりも大きいその膨らみは、徐々に、徐々に、先の方へ進んでゆく。

 管の先がイソギンチャクの様に割れた。


 グチュッ!


 中から大量の粘液と同時に、白い丸いモノが排出され、ナナセの腹にボタッと落ちた。


「こ、これは、人魚の卵か!」


 治太夫は、粘液まみれの、その物体を手に取った。

 鶏卵大で、温かく、弾力がある。


 産み出したナナセは、ハアハアと荒い息のまま、グッタリしていたが、股間から出ていた管はスーッと彼女の腹部内へ引っ込んでいった。

 一旦、治太夫は卵を置き、ナナセの脚を縛りなおしてから、改めて手に取り、まじまじとそれを見た。


「そうか、これか! 銀之丞は、これを喰ったのだな!」


 即、口に放り込む。

 かなりの弾力だが、しっかり噛むと潰れて、口の中に生臭いドロッとしたモノが広がった。

 ハッキリ言って、途轍もなく不味い。

 しかし、味なんてどうでもよかった。人魚の能力が得られるのなら…。


 何とか口の中の物を飲み込んだが、特に体に変化は無い。治太夫は、試しに刃物で左手の甲を傷つけてみた。

 白い靄は……。出ない。当然、傷も治らない。


「クソッ! ダメか!」


 当然だ、一個やそこらでは無理なのだ。卵と言うのは正解だったが、数が違った。

 銀之丞は四年がかりで百個を超える数を食べて人魚の能力を得た。しかし、治太夫は、それを知らなかった。

 仮に知ったところで、そんな時間の余裕も無かった…。


 銀之丞がどうやってあの力を手に入れたのか疑問ではあったが、新たな方法を探すよりも、当初の計画通り、目の前の人魚の能力を奪う方が確実だ。

 さて、あと喰っていない部位は……。


 そういえば、切り取った銀之丞の頭を蹴り飛ばした時の、ナナセの反応は、今までと明らかに違った。

 恋人が酷いことをされて泣き叫んでいるのかと思っていたが、それ以上の反応。


 頭……。


 ハッとして、治太夫は転がっている銀之丞の胴体を見た。

 出血は止まっている。既に痙攣も無くなり、動かない。そして、例の白い靄が…。

 出てこない……。


「頭か!」


 治太夫は小屋の隅にあったなたを取った。

 そしてそれを右手に握りしめ、ニヤニヤ笑みを浮かべ乍ら、寝台に縛り付けてあるナナセに近づいて行った。


 鉈を大きく振り上げる。

 グッタリしていたナナセの表情がサッと変わり、治太夫を凝視しながら、何度も小刻みに首を横に振った。


「い、いや! いやよ。やめて! お願いします。ダメなの。頭だけは!

 お、お願いします!許して! い、イヤー!!」


 ナナセの断絶魔の叫び声が響き渡った……。






 ついに、治太夫は人魚の不死を手に入れた。

 明らかに、今までの自分と違うのが分かる。気力がみなぎってきている。

 そして、さっき左手に付けた傷が消えてしまっている!


 今しがた彼が喰ったのは、ナナセの頭の中身、脳味噌だ。

 脳が人魚の能力の源だったのだ。


「やった! やったぞ!」


 治太夫は勢いよく戸を開け放ち、跳ねるように駆け出していった。



 海の中から出て来た、細い細い、白い靄の筋…。


 舞い上がっていた治太夫は、これに気付かずに走り去った。

 その筋はゆっくり伸び、開け放たれたままの入口から小屋の中に入ってゆく。そして倒れている銀之丞の胴体、首の断面に届いた。

 同時に海から銀之丞の頭がザブッと飛び出す。

 小屋の前に滑るように着地し、そのまま中へ転がり入った。

 それは、銀之丞の胴体と繋がった。すぐ、傷は消える。


 しばらくして、ゆっくりと起き上がった銀之丞…。

 彼の目の前に横たわっているのは、ナナセの遺骸…。

 頭をかち割られて美しい顔は歪み、その大切な中身を全て奪われ、真っ赤な鮮血にまみれた、無残な状態と化していた。


「う、ウオー!! ナナセ様―!!」


 銀之丞はナナセの亡骸なきがらに取りすがり、大声を上げて泣いた。






 治太夫は、走っていた。

 彼は、力を得た報告を死神にするつもりで急いでいた。

 死神のところへ着くと、彼女は坐ったまま目を瞑っていた。

 寝ているのか思ったが、どうも様子が変だ。格子の外からではよく分からないので中に入って確認すると、彼女は息絶えていた。

 まさに、眠るように、その長い生涯を閉じたのだ。


 治太夫にとっては、この死神は恩人だ。不死を得たことを報告したかったが、仕方ない。

 そして、彼にはしなければならないことがある。なにしろ、人魚を一人殺してしまったのだ。

 これが発覚すれば、以後、人魚の異界出入りの力を借りられない。そうなれば、河童族は滅亡するしか無いのだ。


 すぐさま、すばしこいのに定評がある二人の河童を呼び寄せた。



 治太夫は河童たちから「御曹司」と呼ばれ、そこそこ慕われていた。これは、村主すぐりの息子でありながら、偉ぶるような姿勢を見せなかったからだ。

 頼みごとをする時も低姿勢。それを上手くこなすと、笑顔で褒めてやり、時には褒美も与える。だから、皆、治太夫の頼み事は快く聞いてくれる。

 ある意味、猫被っていたのだが、これも、上に立つ者の人心掌握術だと考えていた。


 だが今回に関しては、依頼を受けた二人の河童は面食らった。

 鬼の村に行き、神鏡を盗んでこいとの依頼。いや、依頼というより、指令。失敗は許されないという…。

 親しみやすいと感じていた御曹司の雰囲気が、今までと明らかに違う。いつもの笑顔でなく厳しい顔。言動も威圧的で、怖い…。

 二人はその雰囲気にすくみ上がった。

 否やは許されない、秘密の指令。実行するしかない。

 急いで準備をし、海へ入って、指示通りの東北方向へ泳いでいった。


 そして……。


 その様子を隠れ探っていた銀之丞も、気付かれないように二人の後を追った。


 銀之丞は、ナナセの遺骸の前で泣き叫んだ後、仇を取らんと治太夫を探り、監視を開始していたのだ。

 治太夫が何のために二人を派遣したかは分からなかったが、あの狂った治太夫のすること。まともなことで有るはずが無い。

 可能な事なら、直ぐにでも治太夫を討ちたいところだが、特殊能力を持ち、不死にもなった治太夫には敵わない。とりあえず、治太夫が行おうとしていることを、阻止しなければと考えたのだった。

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