第41話 人魚のナナセ2
死神の託宣をうけた翌日、治太夫は、死神に教えられた岩場近くで隠れ待っていた。
お告げ通り、海から一人の人魚が上がって来た。
隣の神島から泳いで来ているので、上がってきた人魚は全裸だ。白い、透き通るような肌をしている。
確か、名前はナナセ。河童との交渉窓口役をしている人魚リナの、二人の娘の内の妹の方だ。
若くは見えるが、不老不死とされる人魚。ナナセが何歳なのか治太夫は知らない。死神が若い人魚と言っていたので、若いのだろうが、基準が人魚基準であれば、治太夫よりはるかに年上という可能性も高い…。
ナナセは、岩場に上がって来て、広く平らな場所に「大の字」に仰向けになって寝ころんだ。
この場所には河童は住んでいないということを知っているらしい。神島脱走の常習犯かもしれない。全く持って、警戒心も何もない。ハシタナイ格好だ。
基本的に人魚は、水の中で生活する種族だ。
陸上に上がることも出来るが、普通の状態では一時間程度が限度だという。肌が乾燥してしまうということだ。
人魚の神島の御殿は陸上施設であるが、どの部屋も、常に湿気を保ち、乾燥しない状態になっている。なのに、目の前のナナセは、屋外で日光に肌をさらしている。
人魚もたまには日光浴をしたいモノなのだろうか?
治太夫は音を立てないよう、静かに近づいて行ったが、目を閉じていたナナセが急に目を開け、起き上がった。気付かれたようだ。
この人魚は金縛りの能力を持たないと聞いていたが、一応、念のためだ。治太夫は即座に
「キャー!!」
ナナセは眼を押さえて
手の隙間から、赤い血液と共に、ドロッとした粘液が零れ落ちている。眼球がつぶれたのだ。
しかし、直ぐに、その眼の辺りから白い
程なく眼は完治してしまうはず。治太夫は大慌てでナナセに飛びついた。
眼を押さえているナナセの手を
治太夫は再度、鎌鼬を発動。両眼を切り裂いた。
「うあ~!やめて~!」
再び眼球が裂け、中の透明な液体がドロッとこぼれ出る。が、すぐに白い靄が噴き出す。きりがない。
ナナセの両腕を後ろに回させ、縛り上げる。そして、目隠しをした。
「なに!なにをするの!あなた、河童でしょ!私は人魚よ!」
うるさいので、
肌の乾燥に弱いことは承知しているので、治太夫は一度、ナナセの全身に水をかけてやる。顔についていた血も、それで流れ落ちた。その上で、置いてあった寝台に、大の字に縛り付けた。
ナナセは猿轡で話もできず、
縛り付けられた状態で金縛りになどすれば、自分も逃げられない。その内に肌が乾いて干乾び、ミイラと化してしまうことになるから、金縛りが使えても行使できないはずだ。
治太夫はナナセの目隠しを外した。猿轡も外す。
「こんなことをして、ただで済むと思っているの!河童族が滅亡することになるわよ!」
全く以ってうるさい奴だ。黙らせるために、治太夫はナナセの腹を思いっきり殴りつけた。
「ゲフッ!! うぐぐう……」
「やかましいのだ!勝手にしゃべるな」
ナナセは、いきなりの激痛で動きを止めた。
「お、お願い。酷いことしないで…。このことは黙っててあげるから、もう何もしないで帰してください」
威勢良かったのが一変し、懇願してくる。大人しくなってきたところで、尋問開始だ。
「あんなところで、何をしていた!」
「そ、それは……」
ナナセが
「ゲフッ! あ、あうう…。お願いやめて!何でも話します」
「もう一度、訊く。素直に聞かれたことだけ話せ!あんなところで、何をしていた!」
「そ、その、皮膚を強くするために日光浴を……」
銀之丞との逢引きが主目的ではあるが、そんなことを話せるはずも無い。
「皮膚を強くするため?」
「はい。私たち人魚は皮膚の乾燥に弱く、一時間程度しか通常の陸上には居られません。でも、私は、陸上の色んな所も行ってみたいし、見てみたい!
河童さんに何でもして貰うのじゃなくて、出来る限りのことは自分でするようにしたいのです」
「それで、日光浴か」
「はい。こんなこと他の人魚に話すと馬鹿にされるから、人魚がいない、あそこでいつも…。
御蔭で、二時間程度は平気になりました」
治太夫は驚いた。こんな向上心のある人魚もいたのかと…。
だが、勿体無いが、この人魚には犠牲になってもらうしかない。自分の寿命を延ばすために…。
そもそも、すでにこんな拉致まがいの事をしているのだ。逃がしたらこの後、どうなるか分かったものでは無い。
今更助けてやるなんて選択肢は、あり得ない。
「そうか。普通の倍も陸上に居られるようになったとは、かなり努力したのだな。
私も、今のままでは良くないと思っている。人魚たちは、私たちに負担を掛け過ぎだ。お前もそれを考えてくれていたのだな」
「そ、そうよ。だから、酷いことしないで、帰して!」
「だがな、お前一人がそう考えても、他の人魚は聞く耳を持たないのだろ?
我らのことを思ってくれるのなら、お前だけでも我ら河童の為に出来る協力方法もあるのだ。だから、お前には、それをして貰いたい」
「わ、私に出来る事?」
「そうだ、その前に、お前は金縛りが使えないのか?」
「はい。私は使えません。あの力は百五十歳を超えないと出現しません。百一歳の私に出来るのは、金縛り無効、つまり、金縛りに掛からないということだけです」
やはり、若くは見えてもこの人魚は治太夫よりずっと年上だった。
「では、お前は、異界出入りも無理なのか?」
「異界出入りなど、とんでもない! あの力は五百歳を超えないと授からないモノです。私には、そんな力はありません。
異界へ行くのがお望みなんですか? 貴方の希望に沿うことは、私には出来ないと思います。お願いです。もう、帰してください」
やはり、この人魚は、あの究極の能力を持っていなかった。
しかし、これは仕方ない。鬼の神鏡を手にすれば良いことなのだ。諦めるしかない。不死の能力だけでも手に出来れば良い。
「お前に求めているのは、別のことだ。私は河童の次期
だが、私の寿命はあと一年だ。これでは、何も出来ない。だから…」
「だ、だから?」
ナナセは不安げな顔をする。
「お前を喰う!」
「!」
ナナセは目を剥き、絶句した。
ヒトに喰われてしまった人魚の話は、ナナセも聞いていた。人魚の肉を喰うと不死になると人は思っているらしいが、河童にもそんな話がひろまっているのか…。
確かに、人魚の肉を喰うと、喰った者は少しだけ寿命が延びるらしいのだが…。
「あなた、何を言っているのか、分かっているの?
確かに、人魚には自己修復能力が生まれながらにあり、体を切られてもすぐに治ります。だけど、切られれば当り前のように痛いのよ。それに治癒には莫大なエネルギーが必要になって来る。どれだけでも無限に出来るものでは無いわ」
「我ら河童を奴隷のようにこき使っておいて、何を言うか。お前の命で、その代償を払ってもらうのだ。諦めろ!」
「わ、私の命!?」
「そうだ、人魚のある部分を喰うと人魚の不死能力を手に入れられるのだ。その部分が人魚の急所。それを喰われれば人魚は死に、その能力は喰った者に宿るとな…」
「そ、そんなこと……」
治太夫は短刀を
驚愕の表情を浮かべ、ナナセは何とか逃げ出そうと藻掻くが、しっかりと縛りつけられていて身動きが取れない。暴れれば暴れるだけ、縛られている部分が彼女の柔肌に喰い込んで痛くなる。
そのナナセの右乳房に、治太夫がザクッと短刀を突き立てた。
「キャ~! う、うあああ~!」
片方の乳房をゾリゾリ切り剥ぐ。ナナセの白い肌に、ダラダラと赤い血が流れ伝った。
治太夫は、切り取った柔らかなナナセの乳房に、ガブっと喰らいついて咀嚼した。
「う、う~ん。人魚の肉は美味くないな。外見はヒトと同じだが、味は全然違う。マズイ!」
「嫌~!
ナナセは涙を流し、胸の苦痛に顔を
切り削がれた乳房の断面は赤い部分と黄色い脂肪分の斑模様になっている。そこから、白い靄がスーッと噴き出した。そしてあっと言う間に乳房が復元していった。
「当然、乳房が急所というわけで無いな。さて、急所と言えば心臓か…」
「い、いや!本当にやめてください。酷いことしないで。お願いします!!」
胸の乳房と乳房の間に刃物を当てる。苦痛に泣き叫ぶナナセの胸中央を切り開こうとするが、皮膚は切れても胸骨と肋骨が邪魔だ。
そして、切っても人魚はすぐ再生してしまうので、なかなか厄介なのだ。
治太夫は少し下に短刀を当て直した。そして一気に腹をズバッと裂き、そこへズブッと深く手を突っ込んだ。
「ゲフッ! ぐ、ぐあああああ~」
体を仰け反らせるナナセの横隔膜を鋭い爪で突き破り、下から胸の中へ手を突っ込む。
胸の内部中央、ドクドクと力強く脈打っている握り拳程度の大きさ臓器。心臓……。
グッと掴んだ。
そして、一気に、引きちぎり出した!
ナナセは焦点の合わない目をし、体を大きく痙攣させている…。
赤い血を吹きながら取り出されたナナセの心臓…。治太夫の手の中でも、そのまま脈動を続けている。
構わずに治太夫はそれを、かじり喰った。
……これで、人魚の能力が得られる!……
ナナセの血液で真っ赤になった口を拭いながら、治太夫は笑った。
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