徒然
よしだはる
冬の海
コロナに甘えて、人と連絡をとらなくなった。
友人たちはどうやら緊急事態宣言のあの頃も頻繁に会っていたらしい。はじめは参加しない私にも連絡は来ていたものの、いつの間にか何の連絡も来なくなった。人と過ごさないと、時間は一瞬で過ぎ去ってゆく。
どうやら一部では死亡説が流れているらしい。私は今日もみんなと同じ東京で生きている。
感染者数が落ち着いて出歩く人も増えた冬、滅多に光らないスマホが光った。
「海行かない?」
もう冬なんですが。
大学時代によく飲み歩いた先輩だった。
春はカップルのいなくなった鴨川沿いでゆったりと星空を眺めた。夏は幽霊も眠ってそうな心霊スポットに行き、秋はライトアップの終わった紅葉を外から眺めた。冬の京都はさすがに朝まで外で過ごす気にはなれなくて、ダーツバーで体を温めた。
いつも並んでるカップルがいないから、幽霊も丑三つ刻を過ぎればさすがに眠っている、夜なら紅葉の名所でも人が少ない、寒いから体を動かしたい。
あの頃はお互いに相手がいて、二人で会うこともなかったし、過ごした時間にはどれもこじつけたような理由があった。
あの頃バイクだった先輩は、車を運転していた。
「背伸びました?」
「ヒールが縮んだかな」
身長を気にしている先輩をからかいたくて、高めのヒールを履いていたのを覚えていたらしい。先輩の返しに当時にはなかった余裕のようなものを感じて、少しさみしさを覚えた。
東京湾を眺めながら共通の知り合いの話をしていると、時間は一瞬で過ぎていった。
館山でランチを食べて野島埼から水平線と冬の空を眺めた。鴨川シーワールドではイルカとシャチのショーも見て、しっかりとお土産にシャチのぬいぐるみを買った。
どこで時間を使ったのか、いつの間にか閉館時間になっていて鴨川シーワールドを出た。そのままふらっと近くの海岸まで歩く。
冬の九十九里浜はものすごく寒かったが、寒いと言うとこの時間が終わってしまう気がして、黙ってマフラーに顔を埋めた。
「夕日は見れなかったですね」
帰り道の寒さを考えるとこれ以上車から離れたくなくて、堤防に腰掛ける。
「反対だったな」
次はここにいきましょう、はいつも私からだった。
18時にもなると冬の海は真っ暗で、九十九里浜の激しい波の音だけが聞こえる。
暖を求めて隣の先輩にくっついた。
「寒い?」
先輩が私のことを見ていた。
「ちょっとだけ」
なんだか気恥ずかしくなって、真っ暗な海に視線を戻して先輩に体を預けた。
沈黙に耐えきれず、先輩の手を捕まえて遊ぶ。
「手大きいですねぇ」
特別大きい訳でもない。
「寒い」
ぎゅっと、合わせた手を握られた。そのまま先輩のコートのポケットに突っ込まれる。
握られた手がじんじんと熱くて、なんだかそわそわした。
「寒いですね。夕飯いきましょうか。やっぱり海鮮ですかね?」
「いいねぇ、日本酒のみたいな」
「車ですからね、だめですよ」
「ちょっとだけ」
「だめです」
お酒はだめですからね。
夕飯を食べて、車で東京へ帰った。
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