第27話 クリスマス(二回目)

 前回の譲り合いの二の舞にはならず、


「ここは当然、渡すべきプレゼントがハッキリしている百子ももこちゃんよ!」

「いえ。あの伏字が出ている時は大概失敗しています。ここは吉川よしかわさんを狙っていきましょう」


 すみれが言っていることは一理ある。でも吉川さんは前回やって失敗したからなぁ。

 伏字があまり良い兆候じゃないことは感覚的に分かるが、一度失敗した吉川ルートを使うのも気が引ける。

 覚悟を決めて桃山ももやまルートに飛び込んでみてもいいだろう。


「申し訳ないが、吉川とのデカいイベントは最近あったからな」

「菫たちの体感では最近かもしれませんが、向こうでは一ヶ月以上経っていますよ?」


 それはそうなのだが、勢いで流していく。

 というわけでクリスマスイブ直前に他のヒロインとのイベントを軽く流し、桃山とのスケジュールを調整する。

 そもそも桃山とのクリスマスイベントとかあるのか、と心配していた時期もあったが、始まったので一安心。

 放課後に桃山と落ち合ったゲーム内の俺がまず向かったのはゲームセンターだった。


『一時期のパイセンってやたら■■■するのを渋っていたんですけど、ゲーセンでは普通なんすね。線引きがよく分かんないですけど、今日は楽しみましょう』

「ゲームはダメでゲーセンは伏せられていない、だと……?」

「パパってゲーセンどれぐらい通うの?」

「フッ。ゲーセンのゲームの実況プレイはムズイし、目立ちながらプレイするだけの腕もないし、怖いヤツ多そうだし、一緒に行く相手もいないから全然行かないね。ついでに言えばやりたいゲームもそんなにないし金もない」

「でも、ゲーム内のパパは素直に行ってくれて嬉しいです。百子ちゃんのことが好きなのかもしれませんね」

「ゲームと現実を混同するのやめない?」


 メダルゲームや音ゲー、レースゲーム、格ゲー、クレーンゲームなどを一通りやっていく。


『なっ、今日のパイセン、強くないですか? 全然分からせられない……!』


 悔しそうな表情を浮かべている桃山の立ち絵を見ながら、画面に向かって手を合わせる。


「やるじゃん向こうの俺。マジで勝てなかったから今日ぐらいはボコボコにしてやってくれ!」


 今までボコられてきたお父さんがゲームでいいところを見せているというのに、娘たちはあまり盛り上がっていないどころか、去年待たされたクリスマスの寒空ばりに冷えた空気を放っていた。


「パパ、今日ぐらいって言うけど、今日が何の日か分かってる?」

「お父様、だから吉川さんとのイベントを選んでくださいと進言したのに」

「父さん、見てて辛くなってきたからスキップできないの?」


 言われてみれば桃山の立ち絵が涙目になっていて何かちょっと可哀想な感じがしないでもない。

 でも、俺がゲーセンのゲームまで操作しているわけじゃないから、俺にクレームを入れられても困るというのが正直なところだ。

 最終的にクレーンゲームでぬいぐるみを取ってあげてギリギリ帳尻を合わせたような感じで近場のファミレスに移動した。

 俺とゲームをしていた頃の生意気そうな雰囲気は全くなく、シュンとした様子でご飯を食べている。

 ようやく理解したが、これアカンやつでは?

 ゲーム内のろくくんもヤバさを認識しているのか、


『これ、この前言われてたクリスマスプレゼントのやつ』


 と言いながらモザイクまみれのアイテムを取り出した。

 恐らくゲームソフトだろう。

 とても重要なアイテムっぽい演出がついて強調されているが、こっちの画面ではひたすらモザイクが強調されているようにしか見えないのでなかなかに酷い絵面だ。


「初見だったら勘違いする演出やめろォ! 雰囲気! 雰囲気ってやつを大事にして!」


 しかしながら、当然と言えば当然だが向こうの世界では普通にゲームソフトなので桃山は機嫌を直した。


『じゃあ、この後うちでやります? 今度は絶対わからせてあげますから』

「今がチャンスよ! パパ! さっさと家に転がりこみなさい!」


 この局面に来て、ゲーム内の禄くんは渋り始めた。


「もしかしてコレ、いつものパターンなのでは?」


 と言ってしまったが最後。

 足音の効果音が響いて、


『おや、桃山さんと禄じゃないですか。奇遇ですね。偶然近くを通り掛かったのでご挨拶してみました。はい、あなたの大切な幼馴染、陽津辺はるつべですよ!』


 画面の向こう側の俺ですら陽津辺の空気の読めなさに引いてしまっているのだが、現場はこんなものではないだろう。桃山が声に怒りを滲ませながら、


『あたしの幼馴染ではないよね?』

『ちょっと待ってください。……あっ、幼馴染ですね』

「そんな雑な幼馴染認定ある?」


 どう考えても火に油を注ぐ発言だったのだが、


『でも、あんたってそういう存在だったよね。仕方ないか』


 即落ち二コマぐらいのスピードで桃山の態度が軟化した。

 結二ゆにが焦りに満ちた声を上げる。


「ちょっと! そこはもっとガツンと行ってもらわないと……!」

「マジで何なんだ、アイツ。催眠アプリでも使ってる?」


 陽津辺が会話に割り込んでからは穏やかに世間話が続き、ファミレスで解散となった。

 クリスマスイブに女子の家に転がり込むことはなかったのである。

 ひたすら悲惨だった前回のクリスマスに比べればマシとも言えるが、結果的には特に進展することなく終わってしまった。


「な、何あの展開。攻略させる気ゼロでしょ!」

「あいつに関してはどうしようもないっつーか……そういやお前らってよく分からん手段で向こうに干渉しているんだろ? その時にどうにかできないものなの?」


 返答が遅かったので様子を見ると、三人とも考えこんでいた。


「菫、あの人と出会った覚えがないのですが、お二人はどうですか?」

「実はウチも見たことないのよね。他の人が話題にしているところも見たことないし」

「私も私も! 学校にあいつの席あったっけ?」


 俺も向こうの世界で会ったことがないから、マジでゲームの中にしか登場しない人物なのかもしれない。

 そんなのアリかよ、と思うが、一回死んでこんなゲームをしている俺たちが言えたことではない気もする。

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