第5話 ロリ巨乳後輩ヒロイン、参戦!

 俺の部屋を背景に、ようやくギャルゲーっぽいUIが表示された。

 カレンダーやステータス的なやつ、セーブ・ロードなどのメニューが並ぶ。

 ご丁寧にチュートリアルとして各種メニューについて簡単な説明までしてくれた。

 指示通り操作をしながら、数少ないギャルゲー知識を掘り起こす。


「そういやギャルゲーって分岐がありそうな場面で複数のセーブデータを作っておいて何か色々するんだったっけ」


 とりあえず一個セーブデータを作っておく。

 チュートリアルが一通り終わると、ゲーム内のスマホに通知が来て、その画面にフォーカスされた。

 陽津辺はるつべからのメッセージだ。


『今後の予定はどうしますか?』


 この質問に対して、

①勉強

②運動

③アルバイト

④休息

 のどれかを選択するとゲームが進行していくらしい。

 勉強と運動は学力と体力のステータス向上につながり、アルバイトは所持金を増やす。

 ただし、この三つは行動力(いわゆるスタミナ)を消費するため、休息で適宜回復していかなければならない、とのこと。

 忙しい現代人にも優しく、スタミナの限界までは一定期間のスケジュールをまとめてぶち込んでおける。


『あなたへのおすすめはアルバイトです』


 働けニート、とでも言いたげだが、そもそもアルバイトがメインの高校生ってどうなんだ?

 つーか、俺を主人公のモデルにしているっぽいゲームのくせに選択肢にゲーム実況がないのはどういうことだ? 休息に含まれているとか?


「こういう時は二択なんだよな。満遍なく上げていくか、極振りにするか。ほら、指示厨の出番ってやつじゃないの?」


 椅子ごと観客席の方に振り返る。


「パパ体力なさそうだから運動したら?」

「父さん、デートってお金が掛かるものよ。美容院やファッションに掛けるお金って馬鹿にならないんだから。男の人なら女子ほど掛からないかもだけど、ご飯代とホテル代は男が持つのが基本でしょ?」

「学生の本分は勉強……と言いたいですが、これはあくまでゲームですから、ヒロインの好みが掴めるまでは好きにしていいかと思います」


 見事にバラバラな答えだったが、正直この段階で全てが決まることもないだろう。

 考えをまとめつつゲームに戻る。


「んじゃ、アルバイトにしますかね。労働とかマジ勘弁って感じだけど、ゲームだし、そこは妥協ってことで」


 ファストフード店っぽい背景に変わって何かバイトしているっぽい効果音が流れる。

 その後、バイト代として数千円が所持金に加算された。


「少ねぇ……」


 少ないと思ったのは俺だけではないらしく、釈茶しゃくてぃの呆れた声が飛んでくる。


「父さん、パパ活したら?」

「男はパパ活にお金払う側だからね?」


 やや疲れを滲ませた声で釈茶の苦情が続く。


「もう少し楽で稼げる仕事選んだら? 飲食の接客業ってクソよ、クソ」

「言っとくけど俺一回もアルバイトしたことないからゲーム制作者に言ってくれません?」


 その後、釈茶が何か言っている声が聞こえてきたが、どうも俺ではなく残りの二人向けの会話らしく、何か話している程度しか分からなかった。

 数日アルバイトを続けたある日、いつもと違うイベントが発生した。

 どうも学校に遅刻しているらしい。開き直った俺くんはいつもと違う道で学校に歩いていく。

 その道中で、ぐったりした様子の女子と出会うのだった。


「んな展開アリかよ……まあ、遅刻してわざと遠回りして学校に行くこと自体は割とよくあることだったけどさ」


 リアルな俺なら七割ぐらいの確率で見て見ぬふりをするところだが、ゲーム内の俺はテキパキと女子を木陰に運んで水分を与えていた。

 そういやもうすぐ夏休みという季節なわけだし、熱中症か何かだろうか。

 頬を上気させ、今にも破裂しそうなブラウスの胸元を苦しそうに上下させているピンク髪の女子。うーん、見覚えねぇな。

 イベント扱いなのか、普通の立ち絵と全然雰囲気が違う。

 彼女の頭の下にある黒い布地がズボンだとすると、つまりは俺くんが膝枕をしている状況なのだろう。


「男子って本当におっぱいの大きな女子が好きよね」


 結二ゆにが吐き捨てるようにコメントする。


「君のお母さんかもしれない人と、お父さんだとされている俺に失礼だと思わない?」


 しかし、こちらの抗議は完全にスルーされてしまった。

 しばらくして、女子が目を覚ました。


『わ! もしかして、路上で倒れてた……ってコト⁉』


 さっきまで眠っていた人とは思えないほど明るく大きな声だった。


『で、君が助けてくれた黒田くん……黒ちゃんって呼んでいい?』


 制服の名札か何かで知ったのだろう。

 それにしても距離の詰め方に陽キャ側のノリを感じる。


「黒ちゃんは何か嫌だからやめて」

『しょうがないな~。じゃあ、だーろくで。あたしは一年二組の桃山ももやま百子ももこ。気軽にモモモモって呼んでね。よろしく!』

「すもももももももものうち、すもももももももものうち、すもももももももものうち……まあ大丈夫そうだな」

「女子の名前を呼ぶために早口言葉を練習する人、初めて見た」


 結二のドン引きした声が聞こえた。

 クレームは変な呼び名を押し付けてくるゲーム制作者に言って欲しい。

 イベントCGっぽいシーンから普通の立ち絵に切り替わる。

 どうやら桃山さんは世に言うロリ巨乳体型らしく、身長の低さが立ち絵から窺われた。

 学校まで送る道すがら、桃山さんのほぼ一方的な会話を聞きながら相手の情報を纏めていく。

 桃山さんは元気で活発なのだが、だからと言って体力があるわけではない人らしく、現在は陸上部に所属して体力づくりに励んでいるらしい。

 今日倒れていたのは、遅刻しかけて朝の水分補給もそこそこに全力疾走したから、とのこと。

 あと、キラキラ陽キャ向けのSNSで割と人気があるらしいことも自慢してくれた。確かに俺のチャンネル登録者数より何倍も多い。

 いや、問題はそこじゃない。桃山百子がヒロインの一人だとして、俺はこの陽キャに対してどう接していけばいいのだろうか?

 学校に着き、会話が終わる。


「下手したら、この先接点がないかもしれないタイプの人間だったな」

「ちょっと! 誰かのママかもしれないんだよ?」


 結二さん、さっきとテンション真逆じゃない?

 金髪陽キャギャルとしては桃色陽キャロリ巨乳に何か感じるところがあったのかもしれない。

 さて、結論から言えば、俺の懸念はあっさり覆されることとなった。


『だーろく先輩、遊びに来てあげましたよ!』


 という風に、桃山の方から声を掛けてくる機会が多かったからだ。

 その度に寺田を含め、クラスのやつらから怨念の籠った視線を向けられる。

 ネットで女子に人気というのもあって、女子からも恨み節を浴びせられていた。

 桃山は同学年にも友達が多いのだが、それでもたまに声をかけてくるのだ。

 単に誰にでも距離が近い人間なのか、そういうゲームだからなのか、介抱のお礼なのか。

 クラスのモブから視線を向けられる度に、毎回セットで立ち絵が表示される地味めな女子も気になるところだ。

 もう一人は確か、大岡部おおおかべとかいう名前だったっけ。そっちのヒロインとも早いところ接触しておきたい。

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