デゴー1

 「いてえよ」と、声を出してしまう。ぼかあ知ってるのに、馬鹿だなあって思う。コイツは痛いっていう度に痛くしてくる。「ごめん」って言いながら激しくしやがる。嫌なもんだと思いながら、でもどこかで安心してしまう。地に足がついた感じ。

 この小屋は狭い。黄と緑の斑が入り混じり合う小汚いベッド一つ、その脇にちっこいホコリ臭いキャビネット一つ。その上にコイツのスナッフがほっぽってある。丘の上にある小屋なもんで、風通りが良いったらありゃしない。寒さを凌ぐためにも身体を重ね合う。

 草の匂いがする男だと思う。何者なのかは僕は知らないけれど、路地の掲示板に書かれた電話番号にかけてから、一週間に一回……いや2回ぐらいのペースでここに落ち合う。そしてセックスをする。

 コイツは最初っからそうだった。背が高くて、でも骨の浮き沈みが激しくて、顔にも生気はなく、うつらうつらとした顔で僕のケツに突然ぶっ込んできた。前戯もなくて、初めてだったのに、痛くて痛くて泣き叫んだんだけども、こんな街外れの小屋なんか誰も来るはずもなく僕はただ耐えるしかできなかった。痛いって言う度にコイツは「ごめん」「ごめんよ」と、それだけをガラガラ声で溢しながら、目を遠くへ、遠くへ追いやっていた。僕はそれを聴いて、視て、感じていく程に、コイツへの警戒心は解れてった。コイツが本気で「ごめん」と僕に言ってくれていることが分かった。

 毎回血が出る。時には糞も出る。それでもコイツは辞めない。どこまでも、満足いって、無言で僕の背中に蹲るまでそのまま腰を振り続ける。

 僕はこの痛みに何故耐えられるか知っている。父さんのせいなんだと思うんだ。父さんは僕を不良品だと、サンドバッグの代わりにしたから。言い方悪いけど、本当にそう思うから。それが小さい頃だったから、もう身体に染み付いて離れなくなってしまってる。クソほどに淘汰されるのが、どーしても安心してしまう。この世は理由だけではない、それも分かってる。

 痛い、痛いなあ、ああ、あーあうぅ……途端に涙が出てきて止まらない。突かれるその瞬間に押し出されるように涙が出てくる。それがよだれと混じり合って布団の上へ垂れ落ちる。だから僕はベッドと混ざっちまう。身体も緑に黄色に占領されて、でもその表層を抜けるとどす黒い赤が蠢いている。この奥に何があるのか、それをノックされている気分だ。

 草の匂いがする、これは外の、でなく、この男の草の匂いがする。コイツの汗なのだと思う。雑草を千切って鼻で撫でたときに香る酸味が、コイツの背中から、脇から、頭の天辺から香ってくる。何かを思い出しそうな香り。

 いつか殺されるんじゃないかってよく思う。このまま、コイツのちんこがどんどん伸びていって、僕の心臓まで貫いて死んでしまうんじゃないかって。それ以前に尻からの大量出血で死ぬかもしれないけど、んでも、そう感じる。コイツとしてるとケッコー常に感じてしまう。ああ゛ぅ

「い゛ってええよ!」

あまりの痛さに目の前に跨る男の背中を思いっきり引っ掻き、肩の骨の辺りで止まった爪は食い込んだまま離れなくなる。男はふと「うぅ」と唸るような声を出したが、その後「はぅっ」と息を吐きすてて「ごめっんっ」と言った。身体の奥の方でぬるま湯が溶けていく。

 しばらくその姿勢のまま、疲れ切ったように僕の身体にその重さをそのまま乗せる。この重みにも安心する。体温の暖かさとその重さで、地面に身体が着いているなあって思う。重力。

 モノを抜き取って最後にまた一言「ごめん」と萎んだ声で言う。僕は無言でケツ周りを確認していた。案の定血まみれで、どうにも糞は出ずに済んだが、この熱くなった肛門の周りがどうもぞわぞわしてやり切れなかった。

「洗おう、外、行こう」

僕は俯きがち(自分の尻を見ているから)にそう言って、ふと見を上げればブランケットを頭から被さってスナッフを吸っている男がベッドに座っていた。

「うん、おーけー」

 頭を横に揺らしながら、骨だけ男は呟いている。あーいてえ

 

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