コウ1

 東京都、西池袋の住宅街の一角、アパートの一階、1Kの部屋。酷い猛暑だった。エアコンが壊れた部屋の中で、型板ガラスは何日も開いたままになっている。いつ頃なのか住み着いた野良猫が部屋の付近で糞をしているらしく、その空気は微弱な風とともに部屋の中に漂い始める。その内側に居るリカオンの少年は何も反応を示さず、呆然と、テレビ台の上にテレビの代わりに置かれた母親の描いた絵を見ている。シャーペンでガサガサとした筆致で描かれた獣の絵。耳が丸くて体が細くて、それはリカオンであるのだが、彼がその絵を同種のものだと理解することは無かった。

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