フリマアプリの購入者が大学のマドンナ留学生だと判明し、イチャイチャしようとしてくる件
或木あんた
フリマ交流編
1章 取引開始
プロローグ
「……それくらい、俺が教えてやる」
「え?」
留学生の金髪美少女――ミアが顔を上げる。講義時間中ということもあってか、パソコン室には二人の他、誰もいない。
「中古市のことなら、むしろ俺の得意分野だ。そういうことなら一肌脱いでやる。ミアが知らない日本のいいとこも悪いとこも、全部ひっくるめて俺が教えてやるよ」
「ベイタ! ……いいのですか?」
ミアの真っすぐな瞳が米太に向けられる。そこには明らかに嬉しさの色が感じられ、思わず、
「その代わり999万はちゃんと払ってくれよ?」
「ウィー、もちろん構いません」
「……本当に?」
「? ウィー、そう言ってますが」
多少冗談つもりだったが、相変わらず通じなかった。気まずくなった米太はごほん、と咳ばらいをして、
「わかった。……とりあえずその件は後回しにしておこう」
「……米太がいいなら、いいです」
「とにかくだ。今日はとりあえずこの辺で戻ろう。もうなんだかんだ二十分近く経ってるし、流石に戻らないと……」
その時。
「ミア様ー? ミア様いますか?」
廊下に響く女性らしき声に、米太は一瞬身体を硬直させた。訳あって上半身、下着にマウンテンパーカーのみ、という出で立ちのミアが、青い顔をして。
「……つ、付き人のメリッサです! 多分戻るのが遅いから、心配して……!」
「ちょっと待った! こんな姿見つかったら、100パー誤解される!」
「……ど、どうしましょう! とにかくどこか、隠れるところ……ッ」
「? ミア様ー? ここですか?」
「…………!」
ガラリ、とスライド式の扉が、音を立てて開く。
メリッサ、と呼ばれた水色髪の少女が、教室を見回し。
「ん? 誰かいると思ったのですが。……気のせいでしょうか」
不思議そうな顔をして、扉を閉めて出ていく。緩衝材と緩衝材がぶつかる音がして、パソコン室を静寂が支配した。
「…………」
そんな静寂を破るように僅かに開く、金属ロッカーの扉。人一人がやっと入れる空間に、大学生の男女が二人、密着して息を殺していた。
(もう、行ったか? ……いや、ここで下手に動いて物音でも立ててしまったら)
米太は意識の全てを廊下に向ける。自分が置かれている状況がいかに危険か、ただそのことだけに思考を集中させようと、全神経を注いで僅かに開いた隙間から視線を外に……、
「……はぁ、……はぁ、……はぁ、……はぁ」
無理な話だった。
耳は小刻みに繰り返されるミアの呼吸に釘付けで、半ば抱きかかえるように密着する身体の熱と重みに、頭がおかしくなってしまいそうだった。挙句には、狭い空間で大胆に押し付けられた胸から伝わってくる彼女の鼓動。もはや音ですらない触覚的な振動が、柔らかい感触を介してダイレクトに響いてきて、愕然とする。
感じれば感じるだけ、もはや何をどう考えても、荒いその振動の意味を誤解せざるを得なくなり、自分の胸の中にいる少女の何もかもを奪いたい衝動にかられ、
「……ベイ、タ……」
――その時の米太は、まだ知らない。この出会いが与える影響を、彼女が隠した秘密を。……そして、二人を隔てる世界に広がる、残酷なまでの格差の現実を。
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