第6話 故郷へ
グリッティ卿に天蓋を借りて、ついでにお金も借用しようと面会を願ったが、急な体調不良とのことで取次いでもらえなかった。彼の従者から、なんとか小さな天蓋を借りることができた。ロロの助言に従い、剣を取り戻した事で、昼間の“庇護“の話がご破産にならぬよう再確認をしておくべきだったが、本人が会えいないというのならば、仕方がない。
卿との関係存続は、自主独立の妨げとなるかも知れないと思ったが、ロロとしては「鍋と火があるから、料理ができるのです。何も無ければ手の加えようがありません」との事だ。策を練るにも材料がいる、と言うことだろう。面会を断れた私は、手持ちぶたさで会場を練り歩き、すれ違う騎士たちに挨拶して会話を交わした。騎士たちは、その性分からか、私には優しく接してくれた。
やがて、夕食時となった。卿の従者から借りられたのは天蓋のみで、鍋一つも無い。
仕方なく屋台で猪汁と固いパンを買い、汁に漬けてふやかしてから食べた。払いは、ロロのツケだ。
「グリッティ卿は、私を避けているのか知ら?剣を取り返されて、ひどく後悔しているのかのかも。もっとひどい状況は、私に騙されたと深読みしている可能性もあるわ」
見知らぬ地で夜、天蓋の中に美女と二人、語り明かす。こんな夜が来ようとは。
「そこまでは、直接会って話を交わしてみないと何とも判りかねますが、具合が悪い、と言うのは本当のようです」
「誰から、聞いたの?」
そこでロロは、手をひらりと返して見せると、何も無かった空間に小さな橙色の光が数個浮かんだ。その光たちは遊泳を楽しむ生き物かのように、互いに交差しながら空中を漂い、そして消えた。
「精霊の光を見ることで、体調の良し悪しや、どんな気分か、などを知ることができるのです」
「すごい!気持ちが読める、と言うのは本当だったのね!多くの知識を持ち、優れた剣技を習得し、その上、魔法まで使えるなんて・・・」
彼女は微笑みながら、応えた。
「エルフ族というものは、大方、そんな感じですよ。それよりも、彼には早く元気になってもらわねばなりません」
「卿に?どうして?」
「諸侯や騎士たちの情報を解説して周る、紋章官としての仕事を受注していたからです。丸一日専属で雇われる、これはかなりの稼ぎになるのですよ」
そうだった。彼女は仕事をしに、諸侯や騎士が集まるこの場所にやってきたのだった。
そう言えば、剣を渡した後からグリッティ卿の姿を見ていない。もしかすると、あの時にすでに体調を崩していたのかも知れない。
夜が深け、ロロ=ノアも同じ天蓋で眠る事になった。明日は、トーナメント会場を見ようと決める。勿論、仕事で忙しいロロ=ノアはご一緒できないので、助けてもらったクルトという名の騎士を誘おうか。否、彼も馬上槍試合に出るかも知れない。ま ぁ、いい。こんな機会はそうそう無いのだから、一人であろうとたっぷり堪能してやるのだ。
しかし、翌日の会場の雰囲気は、一変してしまう。
午前中のうちに、主催者グリッティ卿が死去なされたとの噂が流れ始め、午後の試合は全て休止となった。トーナメントの運営を中止か、続行かで、集まった人々が揉めていたようだったが、夕刻には、中止が決定した。そんな雲行きの怪しさに、まるで天候も呼応したかのように、季節外れの冷たい雨が夜半に降り始める。
私たちは、騎士クルトの天蓋にお邪魔した。
天蓋の中は質素で、清潔だった。従者の仕事ぶりのおかげだろう。
昨日のお礼とばかりに、道すがら買った干魚を渡す。クルトは甲冑を脱いで、くつろいでいた。北の森から来たという若者は、改めて見れば整った顔付きだった。くせのある金髪を短く切り、均整の取れたたくましい身体をしている。彼の従者は、ル=シエルと名乗った。線が細く色白で、耳が少し尖っていた。
クルトが聞いた話では、今回のトーナメント主催者に協力する騎士たちが数名おり、彼らの主導により、これから数日かけて葬儀を行うことに決めたそうだ。もしかするとその後にも諦めの悪い者たちが、トーナメントを続けるかも知れないが、大半の騎士たちは葬儀の後、自領へ帰る流れになるだろう、との見込みだ。
それにしても、グリッティ卿の突然の死に対して、私は思ったほど動じてもなければ、悲しみも湧いて来ない事に、自分でも驚いていた。自分の身を助けて欲しいと願っておいて、なんとも薄情なのだろう。
「あんたたちも、すぐに帰った方がいい」
クルトが両手を後頭部に組んだまま、呟くように言った。ル=シエルが、慌ててその態度を嗜める。
「馬鹿なの?伯爵様にどうしてそんな態度でいられるわけ?」
私の知る主従関係とはまるで違う、友人同士のような間柄で、微笑ましいと思った。
「構わないわ。他所様の前で、主人の悪口もどうかと思うわよ。ところで・・・そうね。正直、葬儀に出るほど哀悼の念はないけれど、だからと言って出ない、というのも不義理だわ。まぁ長居はしないけど。でも、どうして?」
「気づいてないのか?ランドバルト男爵とクリューニ男爵の姿が無い」
「・・・待って、二人ともいたの?」
「はぁッ?知らねぇってのか?」
「確かに、一度お見受けしましたね」
椅子から転げそうになるクルトと、静かに同意するロロ。待って、それは・・・まずい。二人が来ていたとなると・・・。
「すぐに戻らないと、領地が危ないわ」
私は旅路に必要なものは何か、思いを巡らせた。そもそも、荷物も金も盗まれている。
「どうやって、帰ればいい!?」
クルトが呆れ果てて、椅子から笑い転げる。
もぅ、笑い事じゃ、ないのに!
思わず椅子を倒して立ち上がった私の手を、ロロの冷たい手が優しく包み込み、逆の手で倒れた椅子を立て直しつつ、着席を促してくれた。だが、しかし、私は落ち着いて座っている気分ではない。
「二人の男爵は、伯領に隣接する領主でしたね?確か、二人とも傭兵隊長出身の?」
「今でもそうよ。パヴァーヌの王から男爵位の首輪を同時に授けられてから、互いの領土を侵し合ってるの。まるで首輪だけ立派な野良犬のよう」
王は配下の者に爵位を授ける権利を有する。爵位とは王が他国の王を王と認めるように、その地位は西方諸国において共通の価値観を示す。しかし、割譲する領土には限りがあり、権威の量産は為政者たちからは反発を招く事にもなる。だから、新たに爵位を設けることは難しいのだが、男爵位だけは例外だった。一代限りの男爵位は、武力背景と領土保有の既成事実を持つ、傭兵隊長などを手名付けるために利用されていた。
まさか、騎士たちの祭りに、あの野良犬風情二人が来ているとは考えも及ばなかった。男爵位が、彼らをして社交界へのデビューを決意させたのであろうか。
「つまり、伯爵領の主が年端もいかない少女と知り、さらにその後見を失ったと知るや否や、姿を消した。両男爵とも常より戦争状態にあり、故にすぐにでも動員できる兵力を有している。と言うことですね」
はい。その通りです。まとめられると、危機感しか湧いてこない。
「やはり、剣を換金して路銀を・・・」
笑いながら、彼女は私をなだめた。
「まぁ、落ち着いて。ひとまず、剣を売るのは無しです。お金は、借りれば良いのですよ。そこは、私に任せて」
その話の先を願いにも似た、希望的観測でもって待たずにはいられなかった。
「おや?目の前が、少し明るくなりましたね?どうです、とても頼りになるでしょう?私を雇ってみませんか?」
あ、なんか、いやらしい。でも、そんなこと、答えるまでも無い!
「あ、でも。私、話した通り、お金がないのです。館に着いてからでも?」
「勿論ですとも。出世払いで良いと、すでにお話ししましたよね」
軍装を纏った麗人は、とても爽やかな笑顔を浮かべた。案外、お金に執着するタイプのようで複雑な気持ちもするが、今までの彼女は動機が見えなかった分、この方が腑に落ちて安心する。ここだけの話だが、実は同性愛好者で私の事を狙っているのでは、と思わないでも無かった分、正気な気持ち、お金で済むのならほっとした。
「お前らだけで、戻ってどうにかなるのか?」
クルトのその言葉に、その先を予想して私もロロも口をつぐむ。
「いやいや、無理ですよ?ワタクシたちは領主様の元に戻らないと!ですよ!?」
悲痛な想いを滲ませた叫びで、主に釘を刺す従者。慌てふためいている様が、何とも純朴で愛くるしい少年だ。
「わーった。着いてったりしねぇよ。領主様には取立ててもらったばっかだしな。まだ恩も返しちゃいねぇ」
あっち行け、とばかりに手を上下に振って、顔にまとわりつく従者を追いやりながらクルトは言った。流石に、他所の主人に仕えるこの騎士に頼るのは虫が良すぎる話しだろう。素行や品格はまずいが、剣の腕は光るものがあったのだが・・・。
「で、二人でどうするつもりなんだ?」
「誰かにお金を借りて、すぐに出発します。自領に戻れば、家に仕える騎士たちがいます。彼らと共に男爵らを迎え撃ちます」
問題はあった。騎士たちといっても、従順な者たちだけでは無い。各々に領地を管理する彼らも、軍資金には限りがあり、伯爵家に対し無制限の奉仕を行える訳ではなかった。父は配下の騎士たちと四十五日間の無条件共闘の約定を交わし、その間だけは騎士たちの手弁当で事に当たる決まりだ。超過する日数に感しては、その都度の交渉が行われる事になる。そして、その約定を交わした父は、もうこの世にはいない。だが、故郷の地が侵されるとなれば、騎士たち総出の対応が必須だった。
ロロが立ち上がり、外套を翻した。一同の目線を認識してから話し始める。
「決断の早さとその意気込みは、さすが武門の誉高い伯爵家の御令嬢。全くお見事です。しかし、かように後手に回ってしまった現状を“急げ“の一言で覆すことはできません。手段を講じねば。まずは、早馬で書簡を送り騎士たちに備えさせましょう。次に、万が一、攻め込まれてしまった場合に備え、ここで兵を募ってみましょう。このトーナメントに出場している者は、誰も戦場においては引くも引かれぬ勇者ばかり。望みは薄いですが、こんな機会は、そうそう無き故に試す価値はあります」
確かに、諸国から騎士や代闘士たちが集まっているこの地は、強者の見本市だわ。
「でも、クルトにも都合があるように、他の騎士たちからも助力を得るのは困難でしょう。一体、どうやって募るの?」
紋章官はサラッと言い返した。
「ご当人が言葉を尽くさずに、一体誰の心が動きましょうや」
私は思わず、唾を飲んだ。
翌日の早朝、それは実行に移された。
ロロはその仕事柄のためか、顔の利く存在だった。彼女が手配すると、瞬く間に縁台が設けられ、騎士たちが参集した。だが、葬儀の準備に追われる中、呼び集められた騎士たちの表情は、あからさまに不機嫌だった。
美しいエルフが遠くまで通る軽やかな声で、流暢な前口上を述べている。
この後に、私が助力を願う口上を述べるのだ。指先が震え、唇が冷たくなった。私の名が呼ばれ、視線が一斉に集中する。それでも壇上に上がるまでは、平静を装う事ができた。
えっと、まずは礼を述べ、皆に敬愛され、私に対しても加護を誓ってくれた、恩義ある誉れ高い騎士、グリッティ卿の冥福を述べ、そして、本題に移るのだ・・・。
雨の中、縁台の元に集まった男たちの姿が目に入る。そこにあったのは怪訝そうな顔、迷惑そうな顔、反抗的な顔、顔、顔。
よく聞こえんぞ、という誰かが叫んだ声が、妙にはっきりと耳に残った。
私は、一体全体、何をやっているのだろうか?貴族、騎士といっても、ここにいる誰もが似たような立場なのだ。確かな権力や領地管理の実績を持つ彼らにとって、ほんの数日前に家徳を継いだばかりの小娘がかくも図々しく、何の権利があって高いところから物申すのか?
全ての人が私を非難しているかのように思え、膝が震えてきた。だめだ。何を話せば良いのかすら判らない。頭の中が真っ白になった。
「自領を守る力も無い私に、どうか剣のご加護を!心清き・・・騎士の皆様の・・・慈悲を・・・私にお貸しください・・・」
最後の言葉は、止めることの出来ない嗚咽で続かなかった。事もあろうに、私は参集した騎士たちの前で、泣きじゃくる少女になっていた。願わくば、雨が私の涙を消してくれていたらいい。遠くの方から罵声がちらほらと聞こえてきたが、それよりも耐えかねたのは、長い沈黙だった。拍手も無く、呼応する声もなく、白けた空気の中、雨足だけが音を強めていた。ロロが場を締め、すぐにでも出発する旨を伝え、そして傍聴の礼を述べ、解散を促した。
やれやれ、という声が聞こえた。
そうだ。私だってそう思う。“やれやれ“だ。自領を守る力が無ければ、誰かがそれを奪う。領民も生活と財産を守ってくれるからこそ、領主に敬意と税金を払うのだ。弱い領主は、ただただ、側迷惑なだけだ。軍事力の空白は、他所からの軍事力の流入を促す。何をしているのだろう、これでは、逆効果しかないではないか。アマーリエの地は、今まさに狙い時です、と公言しているようなものじゃないか。そもそも、戻ったところで、このように弱い私に何ができるのだろう?
「大丈夫です。元から望みは薄かったのですから。ここまで実行できたのは、上々です。これで、男爵たちに加担しよう、という考える者は減ったに違いありません。仮にも皆、騎士の道に生きる者たちなのですから」
「弱い私を寄ってたかっていじめるのは、気がひける、ということですね」
私の気持ちを察しているのか、そうでないのか、知らぬそぶりを決め込んでくれているのか、ロロ=ノアの返答は別の話題によるものだった。
「変化を望むらなば、行動を起こすべきです。行動を起こしたならば、成果を望むべきです。少なくとも、成果はありましたよ。岩を断つ斧は人の心を断つことはできませんが、貴方の弱さと純真さは、きっと誰かの心に刺さったに違いありません」
気休めと現実的な評価が混ざった彼女の言葉の真意を悟れるほどに、今の私の精神は平常を取り戻してはいなかった。だが、言えることはある。彼女に甘えているだけでは、何も始まらない。行動を起こすのは、私自身の役割なのだ。
「この数日の事は、一生忘れないでしょう。自分の不甲斐なさを実感する出来事ばかりの最悪な日々。でも、全部私のせい。一日でも早く、今日この日よりも、自分の成長を実感できる日が来る事を願うばかりです。さぁ、早く、出立しましょう。もう、少しでもここに居たくありません」
「支度は、整ってるぜ」
クルトが荷物を満載した馬二頭を引き連れて、待っていた。若い従者も観念したかのように、会釈で迎えてくれた。
「心よりの感謝を。ヴィルドランゲの騎士クルト卿」
彼が着いて来てくれるのは、何となく察しが付いていた。ぶっきらぼうだが、お節介を焼かずには済まない、私の印象はそんなところだった。
「紋章官よ、どの道で行く?」
「陸路は山岳地帯を抜けるため、時間がかかります。南西方面へ続く川が最短ルートな上に、風に恵まれれば夜も進むことが出来ます。まずは川を目指しましょう」
「なら、急いだ方がいい。地勢に通じたものならば、誰でも思い付く」
その声は、別の人物の者だった。低くまろやかな声色で、見覚えの無い、背の高い騎士だった。クルトも背が高いが、それよりも十センチは上回る。白いものが混じった長髪を後ろにざっくり束ね、甲冑の首と袖元から覗くレースが大人の色気を際立たせていた。
「まさか、着いてくる気か?ハルトマン」
クルトは知り合いのようだが、どこか煙たさげな反応だ。ハルトマンと呼ばれた騎士は、ニヤリと笑って、クルトの首元に長く大きな腕を巻きつけた。
「連れないじゃないか?絶世の美女と、うら若き女領主を一人締めか?私も混ざらせて頂く!良いかな?」
役に立つ輩かどうか怪しい印象だが、まさか寝込みを襲ってくるような者には見えない。彼には、何というか、クルトの気骨とはまた違った、気高さといったものを感じた。
「クルト卿のご友人とは、縁に恵まれました。立派な騎士のご助力、百人の援軍を得た気持ちです。どうぞ、宜しく頼みます」
「こちらこそ、御身に仕えたく馳せ参じました故、どうぞ気兼ねなく何なりと、お申し付けを。貴方の歯に絹を着せぬ真正面からの演説、年寄りには堪えましたぞ」
というや、笑い始めた。馬鹿にされたのだろうか・・・?その笑いがあまりに屈託の無い爽やかな笑いだけに、もうそんな事すらどうでも良い気にされてしまう。
「領地は?」
「パヴァーヌの片田舎に、こじんまりとございます」
「先の知れない私などに、ご尽力いただけるとは光栄の至です」
「誰しも、先を見るのは難きもの。まずは、一つ、次に一つと、小さな成功を積み重ねてお行きなさい。それが、即ち人生の王道であり、故に覇道となりましょう。願わくば、永久に我ら天下無双の騎士たちと、御身の魔剣の御加護あらん事を」
どうにも、私は年上に弱いのだろうか。彼の気さくでいて、どこか優美な振る舞いに好感度の目盛りは急速に上昇を始めていた。
嬉しかった。
私の言葉に、たった一人でも騎士が力を貸してくれる、と申し出てくれたのだから。これも、小さな成功と言えるのかしら。
彼の従者は、寡黙な少年だったが、体格はしっかりとしており、膂力がありそうだ。主に従い旅を共にする従者にも礼を述べる。彼は、静かな声でアッシュと名乗った。
どこでいつ借りてきたものか、ロロは路銀を調達していた。その額、銀貨十万枚は、邸宅が一軒丸ごと購入できる程の額だった。聞けば、旅と交易の守り神を信奉する商人から、私の名義で借りたものらしい。月に二十パーセントの利子、またはそれに相応する商機の提供、それらが叶わない場合は、毎度恒例となった魔剣を譲る事になっているらしい。本人の了承も得ないうちに借金をされるのは、何とも夢見が悪いが。
クルトの馬の背には、その金で購入した食料と防寒具、さらに私の着替えもあるらしい。その一事は、心から喜ばしい。
私こと、白い髪の女伯爵と、美しいエルフの女紋章官、そして若く逞しい騎士クルトと壮年の伊達男ハルトマン、それに従者二人を加えた六人は、支度もそこそこで帰郷の為の旅路についた。今は六人だが、自領には三十人の騎士たちと、有事に備えた補助兵がいる。男爵らよりも先に戻り、危機を周知し、戦の備えをするのだ。戦の支度が整えば、それが威圧となり、戦争も回避できるかも知れない。
丘をいくつか越えると、昼前に川沿いの小道に出ることが出来た。雨は止み、遠くの空に幾筋もの光の柱が見えた。南西への道は、私とロロ=ノア以外は初めてのようだった。ハルトマンの従者は物静かな若者だが、物腰が柔らかく、穏やかな性格の様だった。ル=シエルとは、早速打ち解けて話相手となった。ハルトマンはロロ=ノアに興味が、或いは下心があるのか、しきりに話しかけては、適当にあしらわれている。男というものは、会話においては女にいいように操られてしまうものだ。知ってか知らずか、それでもハルトマンは気分上々といったご様子だったが。さらに彼は、私の事を“姫“とあだ名した。屈託のない彼の話ぶりは、これから先に待っている困難を一時、忘れさせてくれた。
だが、私たち旅の一行のどこかのどかな雰囲気も、村の船着場を訪れた時に、一変させられ事になる。船は一隻残らず火をかけられ、そこから私たちは陸路の続行をやむを得なくさせられた。
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