第4話 砦の迷宮
坑道は暗く狭く、冷気に満ちていた。立って通れるほどの高さはなく、四つん這いで進む他ない。
早速、後悔・・・。
予想すべきであり、あの時のように、先遣隊でも送って下見をするべきだった。
もう、何も成長がないっ。
私は松明を片手に這いながら後ろを振り返る。同じように松明を手に、甲冑と武器を岩に詰まらせ、四苦八苦しながら着いてくる騎士たちがいた。荒々しい息遣いと、うめき声、そしてカチャカチャと金属がぶつかり合う音が聞こえる。キャンパス地にリベット打ちされたオーダーメイドの甲冑は、見た目以上に身体にフィットし、こんな体勢でも可動域が詰まる事はない。しかし、部品ごとに岩に引っ掛かり、隙間に泥が詰まり、何よりも重い。今更、戻って動きやすいように換装しようとは言い難い。私が言葉で発すれば、きっと皆従ってはくれようが、行き当たりばったりの優柔不断と思われるのはよろしくない・・・などとぐちぐちと考えながら、回れ右すら困難な状況では、もうこのまま進むしかないのが現実だ、という結論に至る。同じ考えを三度ループしたところで、体力の限界が訪れた。
私の甲冑は、地上戦を前提としたものだ。今しがた話したように、四つん這いでも可動範囲は確保されているが、流石にこの姿勢で長時間を這い進むなどという屈辱に満ちた設計思想であるはずもなく、手首・肘・股関節・膝と足首が痛みはじめた。体重を支える手首と膝の痛みは、すでに耐え難いほどだ。兜も一刻も早く脱ぎ捨てたい。
松明を揺らして、休憩を合図した。
そんな合図は決めた中には無かったが、どうせ自分が止まれば皆止まるしかない。うつ伏せのままでは喉が詰まるのため、苦労して仰向けになり、もがくように兜を脱いだ。
どう言う訳かは知らないが、空気は驚くほど冷たかった。動いていなければ、凍えるほどの寒さだ。それが首元の汗を冷やして、心底心地良く、神に感謝したい気持ちになる。
こんな中を、街の砂堀りたちは粗末な服装のまま掘り進んでいたのだ。頭が下がるとは、この事だ。“砂堀り“とは、職業のひとつ。実家の屋敷の床掃除の際に、侍女が砂を撒いてから箒で履いていた。そうすることで埃が立たず、小さなゴミを巻き込みながら、砂が床表面を研磨し、綺麗に掃除できるのだと言っていた。子ども心に不思議な事をするものだと、その効果の程を訝しんだものだ。その砂を提供するのが、彼らの仕事だ。当然、稼ぎは悪い。商材となる砂を山から掘り出す際に、埋もれて死ぬ者もいるらしい。しかし、掃除に向いた上質な砂が掘れる場所を知っていれば、タダで入手できるため、生まれの身分が低い者や、職能を身に付けられない者にとっては大切な生活の糧となる。もとより、家業を継ぐのが世間の決まりであるため、砂堀りの家に生まれた者が他の職業に就く事自体が難しいのだ。砂堀りの子は、砂掘り。煙突掃除屋の子は、煙突掃除屋。花売りの子は、花売り。貴族の子は貴族。争う手段は幾つかある。だが、新しい職や新しい土地で成功できる者は少ない。能力と運は、万民に平等ではないのだ。貴族だって、貴族で生まれた故の苦難が待っている。持続する意志の力と予測した未来に対して、力強く行動できる者こそが“他に秀で、敬意を払われる者“即ち貴族が貴族としていられる根幹なのだ。
いつの間にか耳元で父親の声が蘇っていた。
今は亡き父の言葉によれば、貴族の語源は“優れた者“なのだという。優れた者の血が、何世代にも渡って優れ続けているのかという問題が貴族と庶民との間に常に燻っている。期待以上の行動を示しているうちはよい。だが、一旦それが疑われ始めると解れた編物のように疑念と不信が広がってしまう。貴族の子として生まれた私は、まるで剣の刃の上を歩くような生き方を今後も続けなくてはならない。一度足を踏み外せば、その崩落ぶりは凄まじい事を私はトーナメント会場で、すでに体験していた。
「起きてますか?もう汗が冷えて凍えそうです。どうかお進みください」
誰かの声で、暗くて冷たい洞穴で横たわっている現実に引き戻された。
「レディの寝室にいながら、身体が冷えたなんて、余程の唐変木なのね」
「ここは姫の眠る秘密の花園だったのですね。なるほど、道理で首筋に寒いものを感じるはずだ。クラーレンシュロス家の中庭には花は無く、代わりに幾千のも剣が植っていると、よく噂されたものです」
戯けた事を言うのはミュラーだ。騎士たちの笑い声が届いてきた。どういう意味なのか釈然としなかったが、休憩は終わりだ。私の後ろにはロロが続き、恐らくクルトがその後ろ。さらにその後ろは最早見えないが、完全武装の男たちが続いている。
先行き不透明、道筋は困難。私が始めた旅は、未だ変わり映えしない。
重装が災いして、目標地点に辿り着くまでに小一時間ほど有してしまった。奇妙な光景を目の当たりにしながらも、しばらく間、誰も何も言えずに身体を休ませていた。十分にどのよう感想を述べるか考えておく時間はあったはずだが、騎士のひとりが最初に声に出した言葉は、ひどくありふれていて、人は順序立てて話さなければ思考が前進しないものなのかと思ってしまう。
「なんだ。これは?」
ボードワン司祭・・・いや、こんだけ見つめておいてから、それかい?
「扉だな。鉄製みたいだが、錆びていない」
クルト卿、わざと言っているな?
「誰だって判る。くだらんことを、わざわざ口にするな」
ウルバン卿、マイナス点。
「誰が、こんな地下に扉を拵えたのだ?もぐらの行商でも招くつもりか?」
スタンリー卿、ギリ加点。
報告に戻って来た砂堀りの助手の話によると、自らが掘り進めた坑道の真正面に、まるでその位置を予期していたのかとでも言うが如く、鉄製の扉に掘り当たったのだという。そこでまずは状況を探ろうということで周囲を掘り広げた。おかげで縦一列で背中に乗り合って話すのではなく、こうして腰を下ろして休息がてら扉論評ができている。扉の周囲は綺麗に積み上げられた石壁で、掘り進める事はできそうにない。よって砂掘りを稼業としていない助っ人の若者を、報告に戻らせたのだ。残るは三名のはずだが、一本道のここに至るまで出会わなかったので、彼らの行き先は一つしかない。
一人だけ軽装の為か、ロロには疲れた様子も無く、松明を掲げながらさっさと扉を調べはじめていた。
「鍵はかかっていないのでは?」と私の問いかけに、聞き流しているかのように短い同意の相槌だけが帰って来た。何か思う事があるのだろう。彼女は彼女にしか知り得ない事を知り、その先を一人、密かに予見している。道中何度も、風や土、植物までにも何やら聞いたこともない言語で話しかけている事があった。聞けば、精霊と交信しているのだという。となれば、もしや扉にも精霊がいても可笑しくは無い。
「大丈夫そうです。罠の類は見受けられせん。それどころか鍵も掛かっていません」
普通に調べていただけだ。危ない!馬鹿な事を口に出さなくて良かった。ひとつ、咳払いをして気分を切り替える。
「この扉の様子を見て確信しました。この先は“魔剣の迷宮“です。そして、その性質上、辿り着く先は砦の中心部のはずです。そこで“試練“が待っています。それを乗り越えれば、砦は攻略成ったも同然でしょう。ロロ=ノアの意見も聞かせてください」
彼女も、魔剣所持者だ。
「私も同様の直感を得ています。所有者のいない魔剣は、常に己に相応しい主人の到来を待っているもの。ここに扉が現れた、ということは、砦に引き籠るマンフリードは所有者ではない事が自明となります。魔剣を手に入れる事が出来れば、即ち、姫のおっしゃる通り砦を掌握する事と同義。その後は、マンフリードの出方次第となりますが、十中八九、皆さんの武勇を存分に示される時が来ましょう」
心に染み入るような、抑揚の効いた話し振りに騎士たちが籠手を鳴らして呼応する。
「第一目標、魔剣の迷宮攻略。第二目標、工兵たちの救援とする。行動開始!」
おお!と呼応して騎士たちが進み出る。先頭にクルト、私とロロがその次に、神官騎士であるボードワンが4番手、ターラント、ウルバン、スタンリー、ミュラーと続き、最後尾に(人間の中で)最年長者である騎士ハルトマンを指名する。ロロが扉の脇に待機し、私に開けさせようと無言で勧めているのが判った。隣についてノブに手をかけた瞬間、「引き戸です」と囁きかけてきた。何とも、ご丁寧に。心底痛み入ります。土に埋もれていたのだから、引き戸だとは思いました。かくて鉄扉は、拍子抜けするほど軽く開く。蝶番が湿気で錆びている、などという事は無い。便利で長持ち、魔法の扉なのだ。
中からは仄かな明かりと、地上と変わらないほどの生暖かい空気が吹き出して来た。この違和感、これが魔剣の迷宮か。私は父から魔剣の“習性“ついて、教わっていたが、自身、迷宮に入るのはこれが初めての事だ。
ゴクリ、と唾を飲み込む。
邪魔だと言わんばかりに、肩をかすらせて、クルトが扉を潜って行った。
もぅ。クルトらしい。相変わらず、恐れ知らずなマイペース男だ。
床は全て石畳、多少の凹凸があるおかげで滑る事なく歩き易い、幅二メートルほどの通路が続く。壁は綺麗に切り揃えた大理石を隙間なく積み上げられた、美しく精緻なレリーフが施された豪奢な造り。天井は高く、松明の光がやっと届くほど。灯りは魔力によるものだろうか、等間隔に壁に嵌め込まれた水晶のような物が発光し、松明が無くても辛うじて不自由でない程度に照らしている。
「これは、また・・・大仰な造りだ」
「神聖王国の天上宮殿と、良い勝負ですな」
クルトとボードワンが思わず感慨を漏らす。
あまり余計な事を言うものではない。魔剣には“意志“があるのだ。そして、厄介なことに自己顕示欲が強い、ときている。
「半島であるこの辺境の地は、西方に人族が初めて入植した地です。蛮族の大侵攻によって最初に失われた地でもありますが。その繁栄期には、きっとこのような大規模で立派な神殿もあったのでしょうね」
ロロが無味乾燥な意見を述べる。誰もが聞き流したが、私にはその意図が判った。どこかで耳を澄ませているかも知れない魔剣の気分を損ねないための遠回しなフォローだとは、誰も露にも思わないだろう。
本人たちには申し訳ないが、第二目標と勝手に決めさせてもらった“砂堀りたちの救出“は呆気なく未遂となってしまった。最初の部屋で散り散りとなって全員、床に倒れていたのだ。首元に噛みちぎられた跡があり、すでに息は無かった。貧しい家に生まれ、崩落の危険に怯えながら、毎日砂を掘って街に重いその荷を運ぶ。この地方に来て初めての大きな街だが、決して西方中心部の街の様に裕福ではない。売れたとて、僅かな稼ぎだったろう。そんな彼らとの出会いを、私は思い出して胸を痛め、黙祷を捧げた。
私たちが街からの招きを受けて訪れた際、先に訪れた小さな村同様の歓待を受けた。ここでの依頼は、領主の追い出しだった。その条件として、街全体での協力が提示された。砂堀りたちも生活費の為ではなく、自分たちなりに出来る“街の利益の為の貢献“を進んで申し出たのだ。
次々と、それぞれの理由を抱えた協力者たちが、私の元を訪れた。砂堀たちもそうだった。遠慮したためか、かなり離れた場所で両膝を地面について彼らは語り出した。
「手前どもに砦の下に続く穴を掘らせてくれ。どうにかしてマンフリードを追い出す手助けがしてぇんだ」
熱がこもった彼らの言葉に、その動機を尋ねると、年長の男は怒りを露わに胸中を打ち明けてくれた。
「税の肩に俺らの妹が奴隷に売られちまった。俺らは貧しいけれど、それでも最初の決まり通り収めていたんだ。けれど奴らは足元を見ながら、段々に税を高くしよる! ついに、払えなく・・・払えないのは俺らが悪いと言うのなら、それはいい!仕方ない。税は街全体の為なんだから、俺らの力不足だ。でも、許せねぇのは・・・なぁ、こんな俺らの話しなんて聞いているほど暇じゃねのは分かってるんだ。でも、是非とも聞いて欲しいんだ。ある日、仕事から帰ると妹の姿がながった。何日もさんざ探し回った挙句、ほとほと困り果ててマンフリードに相談しに行ったんだ。あんでも、領主だからよ。そしたら、連れ去ったのは本人だと言うじゃねぇか!文句言えば、そもそも税を払えない俺らが悪いと。もうとっくに奴隷商人に売ってしまったんだと。しかも、こう言っただ。“大した金にもならなかった”と!」
痛ましく泣き崩れる姿に、私は掛ける言葉が判らず、ようやく一言だけ口にした。
「その無念は、きっと私が晴らします」
それにしても・・・この地を治めた太古の君主の末裔を自称する男、シュナイダー侯マンフリード・フォン・シュタインフォルトという人物は、聞くに典型的な圧政者だった。若くしてならず者たちを従え、税だけを取り統治を怠る。極端な法を布き、安易に人を裁き、領民の悩みには耳を貸さずに、自らの快楽の時間を最優先させたらしい。一言だけ褒めるならば、彼のおかげで領民に反骨精神が芽生え、それを原動力に自ら公共の利益の為に尽くそうという自治精神の情熱を生み出した、という一事だけが、僭主マンフリードの唯一の存在価値だ。マンフリードが真に暴力の権化で、圧政者としての力量が優れていたならば、人々はただ指示に従い、明日への希望も失ったただの傀儡となっていただろう。そう考えれば、皮肉な事だ。中途半端な圧政者とは、民の自立心を育てるのだろうか。
しかし、私の立場が、今後それに入れ替わる事も・・・あるのかも知れない。自身では、善政者たらんと意気込みながら・・・。
黙祷を終え、目を開いた。
砂堀りたちは、彼らに出来得る精一杯の戦いをしたのだ。冥福を心から祈ろう。
不意に、頭上から羽ばたき音が聞こえた。小鳥や鳩などとは比べようもない、ゆっくりと力強い風切り音だ。
「敵襲!頭上警戒!」
スタンリーが、警戒を発した。
天井から突如舞い降りたその姿は、身の毛もよだつほど、歪で醜い人型をした巨大な蝙蝠だった。きっと、砂堀りたちの人生に終止符を打った者たちだ。彼らは、さぞや恐怖で慄いたであろう。しかし、勇ましく健全な精神と日々の労働に鍛え抜かれた身体は持っていても、武装は乏しく、武術の経験もない彼らと私たちとでは違う。全身甲冑と得物を持ち併せ、戦に長けた騎士の敵ではなかった。
人とも蝙蝠とも取れない、不気味な生物は地面に落とされ、とどめを刺された。
私は複雑な気持ちになる。この迷宮におそらく生態系は存在しないだろう。迷宮内にいくつも存在する扉を開けて往来する器用さを持った餌が、蝙蝠が飢えて死ぬ前に訪れるとは到底、思えない。魔剣には意思がある。しかし、あるのは意思のみで、そこに慈悲は無いに違いない。迷宮内に入った者に対しては、武器を持っていようがいまいが、戦意があろうが無かろうが、誰彼問わず容赦は無いのだ。
魔剣は、ごく稀に優れた人を神格化させるという。ならば、今の神々は全てこれらの試練を乗り越えた人物たちとなる。そう考えると、神々の性質が蛮族との戦いに傾向している訳も頷けてくる。最も、全ての試練がこのような迷宮なのかは不明だが・・・。
砂堀たちの埋葬が可能かどうか、試しに地面の石畳を剥がそうと試みるが、全く成果を得られず断念した。ここの床は、この世の物ではない何かで作られているのか、魔法がかけられているのか、傷ひとつつけることができなかった。騎士の何人かが自らの外套を被せ、埋葬の代わりとした。汚れきってはいるが、それぞれの家紋が入った大切な外套を充てがう彼らの心根に感じ入る。今は運んで歩けない為、ここに安置しておく他ないのだ。
ボードワンが、死者の額に剣の切先を当て、短い詞で神に冥福を祈った。彼の宗派は私と同じく女性神アドルフィーナ。西方世界創世の時代に、魔剣を手に竜と戦った戦の守護神だ。勇者の魂を選りすぐり、神界で近衛兵の役を充てがうらしい。では、勇者ではあっても戦に長けていない砂堀たちの魂はどうなるのか?宗派が違っても教義の内容には共通解釈があり、どんな者でも“穢れ“ていなければ神官の祈祷により輪廻の恩恵を受けられる。穢れとは、蛮族寄りの存在でないかどうかだ。それは、血統の話でもあり、精神論でもある。真の貴族は庶民とは違い、青い血を持つと言われる理由の一つであり、騎士たちがその生涯を捧げる騎士道精神の根幹に関わる部分だ。私はボードワンとは違い、神の声を聞けるほど敬虔な信者ではないが、改めて彼らの魂が冥府で彷徨う事なく、再びこの地上に転生することを祈った。
弔いが済むと、第一目標を目指し、中心部に向けて歩を進めた。
すると“ここ”の構造の意図を悟ったらしいロロが、流暢に解説を始める。
通路が迷路となって入り組み、所々に部屋があり、罠や魔物が待ち受ける。往々にして魔剣の迷宮はそういうシロモノらしい。多芸を極めたエルフの紋章官は、地形を記憶しつつ、罠のありそうな気配を察知し、別れ道では「こちらに行きましょう」と、さらりと決断を下す。本来ならば、それは私の仕事なのだろうが、私には判断を下すための基準が理解できない。情報もなく、経験もなく、判断もできない。ここでは、正に無いもの尽くしと言っていい。改めて彼女の万能振りに、騎士たちも脱帽した。
そもそも彼女は一体、何のために私に協力しているのだろうと、つくづく疑問になる。彼女なら、何でも思い通りなのではないか?英明で博識に富み、冷徹にして絶世と称すべき美貌の持ち主。そして魔剣所有者だ。彼女の様な存在こそが、神格化の道に近しいのだろう。この街の住民も彼女のような人物が領主となれば、さぞかし心酔したろうに。私もいつか、経験を積めば彼女のような迷いのない人になれるのだろうか?
「扉の罠を調べます。下がっていてください」
何度目のことか、不意に彼女はそう言った。私はふと、その脇まで進んで、様子を見てみたくなった。
「知識と技術は、各々が持ち寄るものです。あなたは全てを自分でやれないからといって、何も恥ずべきことはありませんよ」
小声でそう言ってくる。
これだ!この、心を見透かしてくる言動!
私は思わず目眩がしそうな気持ちになるのをグッと堪えた。確かに、危険を押し付けて、とか仕事を全て任せっきりで、とかそういう思いは確かにあった。でも、もうそんなことは絶対、思わないことにしよう!
「いえ、興味本位です」
私は、あえて従わなかった。
「・・・そうですか」
チラリと、私の顔を見て短く応える。そして、ささっとロロは準備にかかる。
取り出したのは、針のように尖った金属片と、先の曲った棒のような金属片。そして、何やら私の知らない言葉を囁く。すると、中空から仄かに光る小粒の球が現れた。いつぞやの夜に見せてくれた、精霊を呼び出したのだ。意思で操っているものか、光の球はドアノブの下を照らせる位置まで、ゆっくりと移動する。ロロが覗き込みながら、針先でドアノブの下をなぞる。
「なぜ、ここに罠があると思ったの?」
「普通、こういうタイミングでは話しかけない方が無難だと、覚えておいてください」
私は思わず、頬を膨らませた。兜に頬が当って冷たかった。
光の球が音もなく、すっと消え失せる。
彼女は、金属片を仕舞うと、手ぬぐいを取り出し、それを細く割き始めた。
「歩くことで、全体の構造が解ってきました。魔剣の迷宮は、人が創ったものと同じ様に、意図が反映されます。この扉は必ず通過するポイント。ここに罠を仕掛けない道理がありません」
そういうと、ドアノブを布でぐるぐると巻き始め、力を込めてしっかりと結んだ。
「完了です」
「・・・」
終わり?私は拍子抜けした。金属片であれこれ弄って、巧みな技で機械仕掛けを解除するのだろうと思っていたからだ。光の球もあの一瞬でお役御免とは、せっかく精霊界とやらからやって来たのに、つれないにもほどがあるというものではないか。
ペリドッドのような瞳でほんの一瞬、私の顔を覗き込むと、彼女は小首を傾げて見せた。そしてドアを開く。
「どうぞ、アマーリエ姫。お先へ」
まるで貴族が開催する社交場の扉係かのような、美しい振る舞いでそう言った。
ややもすると、ロロは姫という呼び名を定着させようとしているのかも知れない。なぜ?それは都合が良いからだ。剣の姫、白髪の姫、姫騎士などという呼び名が、既に村人たちに横行し始めている。何やらこの地の口伝に纏わっているとの話を村長から聞いたような気もする。私は諸侯の娘だ。図らずながら、ではあるが騎士の称号は受託済みだ。それは兎も角、先々代の時代には天高く、光輝燦然と謳われた城郭や、武運長久と目された家徳も、私の代で地に落ちてしまった。いくら呼び名の力が大切だとはいえ、烏滸がましいにも程がある。私の醜態ぶりを知る近隣の諸侯が知ったら、正統王家の真似事かと、さぞ酒の肴としたことだろう。
部屋に数歩踏み入り、私は不穏な空気を感じ、足を止めた。
ここは直径で十数メートル程度の円形の部屋。薄暗い灯りでよく見えないが、壁際に甲冑を纏ったトルソーが並んでいる様だ。私が足を止めた位置は、部屋の中央。
「剛気だな・・・」
先頭役のはずだったクルトが後ろから追い付き、私の左に着いた。
フォローに来てくれたのだ。まさか、妄想しながら歩いたせいとは言えない。
「ロロは進めと言いましたが?」
「これは手厳しい。まさか罠の先にも苦難が待っていようとは、私はまだ迷宮の主人の趣向を読み取れていないようです。ここは素直し反省を」
さほど申し訳なさそうな様子もなく、紋章官は帽子を脱いで一礼して見せた。危機が迫っていることは、感じていた。人は初めて目にする異様な光景も、現実なのだと割り切って仕舞えば、意外とすんなり受け入れられる様だ。最も、ここにいるのは普通の人たちではないが。その異様な光景とは、生気のない鎧武者たちだった。ガクガクと無気味な動作で歩き始めた時には、私とロロを中心とした円形防御陣をとる。
「これは、愉快な光景だ!冒険譚に聞いた事がある。“道“を知らぬ騎士のモノ真似遊びは、何も姫の魔剣に頼らずとも、我らの業物でも相手ができますぞ」
ハルトマンが気勢を効かした太い声で、一同にご教授賜る。彼は年の功と言うべきか、何かと物知りだ。なんでも若い頃を、諸国を巡る運試しの冒険行で過ごしたらしい。その話しは教訓になると思い、詳しく聞こうと姿勢を正せば、すぐに旅先での恋の話と愛人たちとの眉唾物の恋物語に刷り変わってしまうのだが。
騎士たちは盾を鳴らして互いに鼓舞し合い、襲い掛かって来る鎧武者たちに応戦した。
戦いには洗練された剣技だけではなく、気勢がとても大事であり、大声で気合を飛ばしながらこれ見よがしに振りかぶれば、気負けした相手は萎縮し、防御を優先的に考え勝ちになる。だから、最初の接敵で気勢に勝る事は重要なのだ。ほんの数秒間だが、人の頭は理性よりも感情が優先される。たじろいだ、そのほんの数秒間に、攻勢を決定づけてしまえば、精神的にも戦況的にも優位に立てるのだ。騎士たちは、恐れを知らない。正確に言えば、とっくの昔にそれを制御下に置けるようになった人たちだ。故に、騎士の突撃は戦場の空気を一気に塗り替えてしまうほどの効力がある。だが、今回の相手は、些か特殊過ぎた。
直刀というものは、剣の重さに慣性を加えて叩きつける武器だ。突いたり、掻き切ることもできるが、破壊力という一点においては、叩き付ける事が一番手っ取り早い。防御する側は、防具の弱点となる部分を盾でカバーするため、弱点を狙って突き通す事は容易ではない。そこで、打撃技が有効となるのだ。生身の腕ならば、その勢いで叩き切ることができるが、甲冑や帷子などを着込んでいれば切断は無理だ。しかし、強力な打撃で金属板を凹ませ、骨折を狙える。これを受ける側は、盾や甲冑で打撃の方向を狂わせ、まともに受けないようにしなければならない。そして、強力な打撃を受ける側は、それを繰り出す側よりも激しく消耗する。一見、勘違いしがちな点だ。剣は振り下ろしやすいように、重心が調整されている。それに、毎日毎日、稽古で筋力を鍛えているのだ。その筋力で振り下ろされた一撃を受け止めるのは、苦痛を伴わずにはいられない。盾を持つ腕が痛み、身体で打撃を吸収し、肩や肋骨、首が悲鳴をあげて脳震盪さえ起こし兼ねない。バランスを崩さないように、脚も踏ん張る必要がある。全身甲冑を着た状態で、技術や膂力が拮抗する者同士の戦闘は、往々にして泥試合となる事があるが、身体のあちらこちらに打撲と軽度の骨折と、切り傷を負いながらも、決着は体力の削り合いに帰結する。相手の体力を先に削り切るために、重い打撃を連発するのだ。逆に、甲冑を着ていない達人の勝負は、一の太刀で決する事が多い事を比較すると、その効果が絶大である事、自明だ。
今、この地下空間で繰り広げられている戦闘では、正に甲冑と甲冑とのぶつかり合いとなった。金属板がへしゃげる音と、気合と苦痛に耐えるうめき声が、闘技場よろしく円形の部屋に満ちていた。そしてそれは、私たち騎士にとってはいつもの戦場だった。
しかし、戦闘の内容はといえば、大きく違っていた。まるで異なっていた。それは、体感した事の無い、別次元の戦闘だった。
私の騎士たちは、つい先日まで戦闘をこなしてきた強者たちだ。力量では、鎧武者たちに圧倒している。圧勝と言っていいほど、実力差はあった。だが、何かが、おかしい。騎士たちは優位に戦いながらも、苦しみ喘いでいた。
このままでは、まずいわ。
何が、まずいの?
ジリジリと、不安と焦燥感が積もってくる。
原因は、何?
上段から振り下ろしたハルトマンの長剣が、鎧武者の兜を大きな音を立ててMの字に凹ませた時、不安は確信に変わった。鎧武者は、怯む事無く、反撃を繰り出して来たのだ。
「いけない!ペースを落としなさい!相手に合わせないで、自分のテンポを作って!」
騎士たちは咄嗟に反応した。防戦に回り始め、しばらく一方的に押されて後退する。
私を囲む輪が狭くなり、騎士たちの息遣いが届いた。
疲れているのだ。人同士の戦闘は、波がある。打たれれば、痛みと衝撃で一瞬たじろぐ。戦闘に慣れておらず、頭に血が上っている状態ならいざ知らず、慣れている者は自分のダメージの具合を感じることができる。この軌道は読まれてしまう、このタイミングで合わせれば避けられまい、強い力で返されれば弱く対応し、逆も然り・・・などと相手が強ければ強いほど、様々な対応を考えつつ、時に力を抜き、時に全身全霊を込めての緩急をもって、相手の出方と呼吸を読みながらテンポを制していくものだ。しかし、これらの鎧武者の攻撃にはその緩急が無いのだ。打撃を与えても、間髪置かずにすぐに反撃が来る。痛みや感情が無いからだろう。そのくせ、甘い攻撃はしっかり盾で防御するのだから、矛盾している。この息を整える隙がない、絶え間ない緊張が、普段以上に騎士たちのスタミナを奪い去っていたのだ。加えて、なまじ戦慣れした反応速度でもって、敵のサイクルの早い攻撃によって生まれる隙を見逃さないものだから、膂力も充分に剣先に乗らないおざなりの反撃を誘われていた。
「今は耐えて!呼吸を整えて!耐えて!」
「おう!」と騎士たちが応える。鎧武者たちの攻撃が単調なだけに、私も油断していた。未知の敵というものは、これほどに恐ろしいものだ。防御陣形がさらに縮まり、騎士たちが私とロロの居場所も無くなる。
ふと、ロロを見た。私は思わず、ギョッとした。
この状況でも、彼女は抜刀すらせず、腕を組んでいたのだ!戦況を見極めようと目を配っているのだろうが、それにしても、間近で剣と甲冑がぶつかり合う音と、男たちの気勢の声に混じって身体から沸き立つ熱気までも感じるほどなのに・・・ふと、彼女は私を見て、頷いた。咄嗟に、私はその意図を理解した。
「押し返せ!」
騎士たちの打撃の音が、先ほどよりも大きな音に変わっていた。鎧武者は、最期の一撃を受けたびに、まるで兜の内側から煙のような仄かに光を発し、崩れ落ちていった。
魔力を付与する事を“魔化“というらしいが、魔法の力を付与された物質は形状を保つ性質がある。私の剣は“通常の方法“では決して折れない。どうやらこれら鎧武者の甲冑は、魔剣のような強力な魔化をされている訳では無いようだった。そんなことになっていたら、お手上げだった。ハルトマンの知見は幸いなことに、正しかった。ならば、どのような方法で動かしているのだろう?何をもって、死が訪れたと言うのだ?・・・けれど、すぐに考えるのを止めた。一言でいいのだ。その一言で、すべの 未知魍魎に説明がつく。
「それほど強力な魔力でなくて、助かりましたな」
ハルトマンが兜を脱いで、汗を拭う。
その一言が、全てを説明し切っていたように思えた。そもそも不可思議な事象を、魔法と呼ぶのだから。
ボードワンが騎士たちの怪我の具合を診て回っているが、深傷を負った者がいない事は戦闘を見ていて知っていた。
まずは、ひと安心だ。私は、息をついた。剣を振るっていなくても、今回は精神をひどく消耗した。
「ボードワンが傷の具合を診てくれている間、小休止します」
騎士たちが、形容しがたい地響きのようなうめき声を上げながら、一斉に腰を下ろした。思い思いに兜を脱いだり、胸当ての留紐を緩める。甲冑は地べたで座るには親切な設計ではなく、むしろ立っていた方が具合がいいものなのだ。
「やりづらいは!なんだ、こいつら!?」
荒くれたウルバン卿が、動かなくなった鎧を蹴飛ばしている。そして、ハルトマンに対し、もっと役に立つ詳しい情報をよこせと当たりはじめた。
「私の専門は、うら若き乙女たちの心の機微だ。こんなデクの棒どもなど、私の専門外だよ」
ハルトマン、その歳をもってその発言は、もはや犯罪者じみて・・・。
「紋章官は、知らんのか!?」
戦闘の直後で、皆の声が荒々しい。ターラント卿に詰め寄られたロロが、崩れた鎧武者の甲冑を持ち上げた。その首元の内側に小さく複雑な図案が描かれているのを見せた。
「光を発していたのは、この魔法陣です。手取り早く倒すには、この図案を削るのが良いでしょう。ま、それができないように、この位置なのでしょうがね」
全くだ。そこを刃物で削れるとして、相手が人間ならばそれはつまり、とどめを刺している状況だ。
私はボードワン司祭の地味で堅実な仕事ぶりを眺めた。剣の神だから、戦闘一筋な信仰かと言えば、実はそういう訳では無い。そういう武闘派な柱も座すが、穏健派な剣の神もいる。そう聞くと何やら複雑だが、そもそも“魔剣“とは魔力を帯びた武具類の総称であり、剣以外の形状もあるのだ。武具の後に類を付けたのが味噌だ。つまり、何でもござれなのである。中には、戦いを推奨しない、天秤に宿った剣の神もいるのだ。
休憩中の妄想だったが、せっかくなので剣の神と西方世界について、おさらいしよう。少し長くなるけれど。
蛮族とのいつ終わるとも知れない生存競争にある人族にとって、剣とは徹底抗戦のための武の象徴であり、不屈の精神を表すものであり、鍛錬を推奨し、油断を戒める教訓でもある。蛮族との生存競争下にある人族社会にとって、蛮族に対抗する傾きがあるのは、先述の通りだ。だから神殿ごとに自衛のため、また信徒たちを守るため、戦に長けた神官も必要とされ、彼のような向いたものが戦闘の訓練を積む。
戦を推奨しない神の神官は、神殿が襲われればどうするのであろう?知能が高い蛮族ならば、身代金の交渉が可能だろうが、それ以降は何度もタカられる事になる。蛮族にとって人族は食料にもなり得る存在だから、金をとってもいいし、断れば殺して食べても良しの都合の良い相手とされる。だが、交渉することが宗派の教義上、問題が無かったとしても、蛮族が必ず応じるとは限らない。むしろ、言葉も通じない場合の方が多いだろう。よって傭兵を雇うか、他の“強面“のご同輩でも頼るに違いない。 神殿単位の自衛とは別に、武力で蛮族に脅威に対抗する組織に救いを求めることもできる。君主会議によって選出される“皇帝軍“だ。最も、皇帝も君主の一人だけに、世界各地で起こる“小さな脅威“全てに対応できるわけではないし、そのつもりもなかろうが。
私たちは、一人一人が生存のための努力を怠ってはならない。それは、剣の神たちの教えに帰結する。各宗派の運営と教義を統括管理する神聖教国が、西方世界に発布する共通教義の中の一節にこう記している。
『強者よ剣を取り戦いたまえ、弱きを守り、生存のための研鑽を怠るなかれ』と。
では、改めて考える。剣の神とは、そもそも何者か。
それは、人族である。
戦記には次のように記載がある。
この西方世界は、遥かな昔、竜族が覇を唱え、人族の生存圏はごく僅かしかなかった頃、どこからかやってきた先祖たちが入植した地だ。しかし、新天地と思えた西方でも、竜族の脅威に怯える日々が続くばかり。先祖たちは対抗策として“魔剣“を鋳造する。それは、魔力を宿した武具類の総称だ。これらを纏った選りすぐりの戦士たちは、竜族に立ち向かい、やがて激しい戦乱を勝ち抜き、人族に土地を開放した。魔剣を持つ戦士たちは王となり、西方世界に数多もの王国を建国した。しかし、永い戦いの末、東の大地は不毛の地と成り果て、海も荒れ狂い、航路も失われた。以来、西方諸国は外界から封じられた土地となってしまった。
剣には、もう一つの役割があった。真に優れた人物を選別し、人々を混迷の時代から救い、正しき秩序ある時代へと導く、指導者として神格化させる事である。この力で王たちの多くは神となり、西方諸国の人族たちの精神的な支柱となった。そして、現世に残された魔剣は、次の所有者の元へと引き継がれていく。こうして、西方の地に神々が生まれ、“剣の信仰“が根付いた。魔剣は必ず“試練“を課し、有望な所有者を選別する。個体により千差万別ではあるが、地下迷宮が代表的であるその試練の事を、人々は“魔剣の迷宮“と呼称した。
これは、噂や眉唾ものの伝承などではなく、ほぼほぼが現実の話だ。ただ、それを成せるほど力の強い魔剣はごく一握りであり、見染められる人物もまた、稀らしい。少なくとも、私の耳に入る範囲では、神格化を果たしたという話は聞かない。おそらく、私が生まれてからの期間に、神格化した者はいないのだろう。しかし世の中には、神格化を目指して武芸を極めたり、冒険行で自己を研鑽する人々がいるらしい。現実起こり得る事象とはいえ、私には雲を掴むような絵空事にしか思えないが・・・。
ボードワンは、どうなのだろう。彼は神に祈る事によって、その声を聞き、奇跡を起こす事ができる神官なのだ。その対価は精神的なものというが、何も知らない私から言わせて頂ければ、易い対価だと思ってしまう。言うまでもなく傷や病いは、数日休んだ程度では全快しない。もちろん、彼のような境地に至るには、大変な信仰心と宗派によって異なる苦行の達成があるのだろうが。棚からぼた餅ではなく、努力による成果なのだから、不信心な私が思うほどに、易い対価では無いのかも知れない。怪我や病で苦しんでいる人を助けたい、という殊勝な人生目標を胸に抱く者は、神学の道に進むのがセオリーなだけに、神官とその奇蹟は、慈愛と敬愛の象徴とも言えた。
だが、しかし。如何に神の信徒といえども、時の為政者の影響を受けずにはいられない。それを回避する為、各宗派の拠点は、深山幽谷に拓かれた天空の要塞都市に置いている。剣の神々の総本山たる、その都市の名を神聖教国という。西方各地からの巡礼者と献金が集まる富と文化の交流拠点として、悠久の時を経て尚、繁栄を続ける。その位置は、現在地から北北東に位置し、ボードワンなどは毎朝、その方角への祈りを捧げている。かく言う私も週に一度は、決められた祈りを捧げているほど、メジャーな行為だ。
その神聖教国は独立国である為、あらゆる諸侯からは治外法権となる。それ故に、神殿が祀る剣の神々の教えは保たれて来たのだ。逆に言えば、それだけ権威が集中すれば、諸侯らも警戒せねばならなくなる。それは争いの元となる。故に、神聖教国には各神殿ごとに所有する武装集団以外には、国固有の軍隊を持たない。王族たちと有力貴族たちから成る君主会議が指名する“皇帝“が、その任を肩代わりするのだ。諸侯に脅威の対象とされることを避けつつ、逆に彼らに守らせる方法で、バランスを保っている。軍事力の維持には、莫大な固定資金が必要なだけに、神聖教国の選択は秀逸と思う。
では、また改めて、王族たちとは何か?
戦記に記されていた通り、この西方に渡った人たちを従えていた、神々の末裔たちだ。新たに王を名乗ろうとするには、神格化が前提条件であり、神聖教国の承認が不可欠だ。よって事実上、新たに王が生まれることは無い。それらは須く、僭王と称される。王たちは伝統の地と領民を守り、君主会議に参加して、対蛮族戦線の総司令官となる皇帝を輩出するのが使命だ。
ここまで来ると、諸侯とは何か?となる。その経緯、実態は様々であり、一言では言えない。王の補佐役、武勲を挙げた臣下、豪族、僭主、軍事力で支配地域を既成事実化した傭兵隊長たちと様々だ。新たな爵位は、王たちや神聖教国が認めれば、設置が可能だ。しかし、爵位を増やし続けては、既得権益が衝突し、領有する土地も尽きてしまう。故に、歴史的背景、血筋などが重要視され、極めて保守的に管理されることになる。新たに爵位を与えるには、跡取りが無く、自然衰退したり闘争によって没落した家名が用いられる。
アマーリエ地方を簒奪した者たちは、武力によって勝ち得た正当な権利として、伯爵を名乗るかも知れないが、同時に伯爵家の血筋たる私も、その血統を失っていない訳だから、正当な伯爵位のままを名乗る権利はあるのだ。権利は主張する側に常にある。
「先程は、的確なご指示でした。して、いつも寡黙な姫は、何をお考えかな?我らが麗しの姫よ。私以外の男のことでしたら、承知しませんぞ」
白いものが混じった長髪を、後ろに束ねた壮年の騎士ハルトマンが、綺麗に整えられた口髭を指でなぞりながら、笑いかけてきた。
私が、寡黙?
そうか・・・寡黙なのかも知れない。
同時に私は、彼の笑みに、なぜか父の面影を思い出していた。
気づけば、紋章官は偵察兵よろしく次の部屋への道を調べ始め、他の者たちも甲冑の紐を絞って留め具に固定しているところだった。
色恋沙汰に目がない最年長の騎士もまた、兜を被って戦の支度を整え終えていた。
そろそろ、休憩は終わりのようだ。
歳は五十を過ぎていようが、骨太な体躯の所為か、均整の取れた偉丈夫と称してふさわしいその立ち姿に、心の底から頼り甲斐を感じる。きっと自領では、多くの領民たちから頼りにされていたに違いない。彼もまた、他の騎士たち同様に自領を放り置いて、ここまで私に付き従って来てくれた恩人だ。
戦場の空気や戦闘指揮の現場を学ばせたい、という場合を除いて、西方の騎士たちは戦に家族を伴わない。つまり、自領に残しているは、領民や農園や城だけではなく、妻子も含まれる。よって、この制覇行はもはや、残された者たちにとっては“放蕩“と言ってしまいたいものに違いあるまい。その中での私の役目の一つは、彼ら一人一人に、税収を見込める土地を確保してやることだが、今のところは小さく貧しい村が一つきりだ。これでは、せいぜい騎士ひとり分の領地。今、攻略を目標としている中規模の町の制覇は、正直なところ喉から手が出るほど切望している。兵士たちの食を支え、更なる軍勢を寡兵するためにも。平たく言って仕舞えば、私こと剣の姫一行は、完全武装の侵略者集団だ。この辺境の地を拠点に、軍勢を強化することが私の目的なのだから。騎士たちの献身と犠牲に報いるために、制覇行はなんとして達成しなければならない。しかも、早期に、だ。
ハルトマンが、起き上がる私に手を貸してくれた。
「ハルトマン卿、何かあればまた教えてください。些細な事でも、ね」
「主人に戦意ある限り、どんなことでも、どこまでも」
低音の彼の声は、品格のある口調だったが、どうにも口説かれている気が・・・。
迷宮の主が辺境を旅する騎士団に用意してくれた次なる試練は、物言わず動く鎧武者さえ生ぬるいと思えるほどに、さらに過酷なものだった。
それは、暗闇の架け橋。
暗闇の中、怒声が飛び交う。ロロが召喚した光の精霊が、まどろっこしいほどに弱々しく足元を照らす。ここは一メートル程度の幅しかない、橋のような地形。その両側は、底が見えない空洞。その底を知るため、松明に火を入れようと試みる行為は妨害され果たせなかった。まるで暗闇の堆積であるかのような頭上の漆黒から、先に見たそれに倍する大きさの巨大な蝙蝠の怪物に襲われたからだ。
かぼそい足場。漆黒の闇。襲いかかる翼の音。
「落ち着け、慌てるな・・・」
地面に片手をついて、自分を律した。しかし、立てない。相手が見えない。
光の精霊の仄かな光だけが、私の心が恐怖と混乱に支配されてしまうのを紙一重の状態で留めてくれていた。暗闇から突然翼の音が聞こえたかと思うと、鋭い鉤爪が甲冑を掻きむしったかと思えば、疾風の如く再び暗闇へと吸い込まれる。まるで暗闇が怪物を生み出しているかの様だ。
私は声の震えを抑えるのにも苦労した。
「避けると落ちる!盾を構えて、先へ進め!」
しかし、橋はどこまで続いているのか未だ不明。凶悪な鉤爪を運ぶ羽音は、間近で突然発生する。徐々に張り詰めた精神が疲労していくのが分かる。何体いるのかも不明だった。天井付近に、足場でもあるのか?きっと、蝙蝠のような怪物だから、逆しまになって留まる事ができるに違い無い。
対処する術が見つからない。
ここが吊り橋ならば、まだ良かった!床に手を這わせれば、ふと足場がない事がわかりゾッとする。手すりもロープも、何も無いのだ。
ふっと気配が消え、騎士たちの息遣いだけが聞こえた。
嫌な予感がした。
先頭のクルトの盾が、強烈な一撃を弾いた。
「顔と首を守れ!奴ら急降下しながら、急所を狙ってきた!」
クルトが、次々と繰り出される急襲を盾で受け流した。足場の無い現状で、打撃をまともに喰らっては、落下を招く。盾を斜めに当てがい、よく打撃を受け流していた。蝙蝠は羽をたたんで急降下し、大きく円を描いてまた上昇して行く。
こんな連続攻撃に耐えるとは、さすがは、クルトだ。
「伏せよ!」
ロロの声に、私は手をついて身を屈める。と、同時に頭上に突風が巻き起こった。大きな体を自在に浮遊させる翼の力は、屈んでいても揺らぐほどの強力な風を叩きつけてきた。今なら、剣を振れば当たる!しかし、もうすでにその翼の持ち主は闇に消えていた。
今の頭上への急接近は、今までに無い攻撃だった。鉤爪の攻撃が、甲冑には有効でないと悟ったのだろうか。
一方的だ。反撃する暇もない。
「少しずつでも、前進して!留まってはいけない!」
叫びながら、耳鳴りがするのを感じた。ふと、前方の闇に、少年が立っているのを認める。うっすらと上半身だけが闇から浮かぶように。
「迎えに来てなんて、頼んでない!」
その少年の下腹の服は、血で黒く染まっていた。あれは、現実の存在ではない。私の記憶の中の存在だ。
床を弄る指が震えていた。私は、今、恐怖している。
「ぅあああ!」
私は立ち上がって、気勢を張ると剣を抜いた。
「慌てるな、攻撃は軽い!盾を構えて前進・・・きゃッ」
目の前の衝撃的な光景に思わず、うわずった。
大きな鉤爪の付いた足を持つ蝙蝠の怪物が光の輪の中に突如、姿を現しクルトの甲冑の肩口を掴んだ。そして、ほんの一瞬、その身体を持ち上げたのだ。クルトの体重と装備の合計は百キログラムを悠に超える。獲物を掴み損ねて甲冑から外れた鉤爪が、ガチリと音を立て、その企ては失敗したかに見えた。だが、怪物の狙い通りかどうかは定かではないが、その効果は十分にあった。
身体をほんの少しだけ、宙に持ち上げられたクルトは、着地時に橋を踏み外し、一回転しながら橋の左側へ・・・暗闇の底へ姿を消したのだ!
!
頭の中が冷たくなり、硬直した。
「失礼!」
私の両肩に、どしんと強烈な衝撃があった。
立ったままの私を馬乗りに飛び越えた影が、クルトが消えた場所に飛び込んだ。
ロロの精霊がその場所に飛んで行き、状況を照らした。駆けつけたハルトマンが伸ばした両手の先に、クルトの籠手があった!
何という幸運か!
クルトはほんの一時、橋に手を伸ばし、その身を支えて落下を免れていた。
クルトが助かる!
彼は唸りながら、ハルトマンの手を取り、橋の上に上がって来た。自重を支える握力は、ほんの数秒しか保たなかったはずだ。まさに、ハルトマンの軽業が成し得た技だ。甲冑を着込んだままで、私を飛び越えるなんて!
だが、喜びの時は、ほんの束の間だった。
右側からの羽音を聞き、私はクルトを支えるようにしゃがみ込むハルトマンの頭上スレスレに剣を振るった。
手応えは、あった。
しかし、私が裂いたのは、薄い皮膜の翼だけだった。
怪物は全体重をかけて、ハルトマンに体当たりを仕掛けた。
私の瞳は、しっかりと捉えていた。
突き飛ばされた騎士の身体が、外套を靡かせながら深淵に消えてゆく様を。
咄嗟に滑り込むようにして伸ばした手は、彼の外套の縁を掴んだ。
ほんの一瞬、右目だけをまん丸く開いた、ハルトマンの顔が見えた。その口が、ゆっくりと動く。
「ク・ロ・ウ」
爪?なぜ、微笑むの?
やや間があってから、金属の激突音が暗闇に反響する。留め金が外れた外套だけが、私の手に残されていた。
「あぁぁぁ!嘘!ロロロロ、下を照らして!」
こんな事はない!
嘘だ!
まだ、何とかなる!
小さな光が、闇の底に降りて行き、ふっと消えた。
「制御できる距離を超えました。この高さでは・・・」
「何を言ってるの!?諦めないで!他の光は無いの?そうだ、松明を燃やして!」
一瞬の間を置いて、ロロが呪文を唱え始めた。
「くそっ、俺を助けたばかりに・・・」
クルトが拳を叩きつける音が聞こえた。
静けさと暗闇と口惜しさしかなかった。
光の精霊が呼び出され、再び弱々しい明かりで辺りを照らした。
私はその光で照らし出されたモノに、激情を爆発させた。
「何てこと!!」
橋の上には、何とも形容し難い醜い顔の怪物が、首を折って絶命していた。
こいつは、何故、落ちない!
クルトもハルトマンも落ちたのに、何故、こいつだけ橋の上に残っているのだ!
私は剣で“そいつ“の顔面を殴りつけた。二度、三度、四度、五度、六度・・・顔面の肉と骨が潰れ、黒い液体が飛び散った。
「やめろ!もう死んでる」
クルトが、私の両腕を掴んだ。
「止めるな!こいつは、敵だ!こんな奴の為に、こんな奴!こんな!」
正直、自分で何を口走っていたのかは定かではない。狭く危険な橋の上で、男の力で静止されながらも、怪物の顔が鍋の様に窪んで血溜まりを作るまで、しばらく私は叩くのを止めなかった事だけは覚えている。
頭上の暗闇から、威嚇するかのような甲高い呻き声が聞こえ、空間に反響した。
「まだ上に居ますぞ!」
ボードワンが警告するが、私は意に介さない。
「頼むから、もう終いだ。お前に何かあったら、ハルトマンだってあの世に行けねぇ」
「あなたも、もう、私に構わないで!」
思わず、口に出ていた。
「いい加減にしろ!落ち着け!止めないと、みんな落ちるぞ!」
「もういいって!あなたは、もうここで帰って!引き返して故郷に帰りなさい!」
クルトが躊躇するのが分かった。自分で言うのが恐ろしい、そんな顔で話す。
「・・・帰れとは、どう、いう事だ?」
私は自分の頭の中で、今まで渦のように堂々巡りをしていた懸念がある事を知った。それは今まで、まるで深海の底で渦を巻いていたものだったが、勢いは消えぬままに、海面まで浮上してしまった。自分でも、それと気付かなかった暗い思考が、私の中でしこりとなり、いつの間にか育っていた事を知った。
「なぜ、私に力を貸してくれるの?あなただって、自領があるでしょうに。領主だっているでしょうに。ハルトマンだって、家族・・・もいたかも知れない・・・なぜ、どうして、私の馬鹿な旅に付き合うの!?貴方たちは、父様の騎士でも無かったのに、こんな所で死んでしまっていいの!?」
私は、その責任を取りきれない。この一連の制覇行を全て、私の責任とは、全て背負うとまでは、言い切れない。父に仕えていた騎士たちは兎も角としても、私はクルトとハルトマンを巻き込んだ責任が、その生命に対する責任が自分にあると、今、改めて実感したのだ。
自己嫌悪だ。今の今まで、実感が無かったのだ。
その事に、自分の無責任さに、心底呆れ、恐怖し、そして慄いた。
自分という人間を今、初めて知った気分だ。
騎士クルトは、押し黙った。
そのまま、返答は無いものかとも思えた。
「っざけるな!お前が、それを言うのか!?お前がそれを言ったら、他の騎士たちはどんな顔すりゃいいんだ!?俺はいいさ!どうせ孤児だ。領地もねぇ!俺も、ル=シエルもな!迷惑かけるのは、育ての親の領主だけでいい。でも、家族や領民を置いて、お前が決めた事に着いて来た者たちはどうなる!?お前がそんな事を言ったら・・・ダメだろ?お前が奴らを導くんじゃねぇのか!?騎士たちは命を投げ打って、主の力になる!自ら進んで、正義と思った行いに命を差し出す!それが俺たち騎士の生き様だ!俺たちは、皆望んでお前の為に血を流すんだ!そんな俺たちの想いや、献身を、お前自身が無駄にする事は絶対、許さない!いいか、許さないぞ!」
彼の頭に血が上った、しどろもどろの剣幕は、それだけに返って正直な心が生んだ、鋭利な一撃となって、私の心に突き立った。
それでも、まだ私の心は彼らのように堅固な人生観がある訳でもなく、覚悟も足りていなかった。自分でも驚くほどに。私の心は、理解と整理ができていない。
まず持って、危険に対しての決意が足らなかった。領主として、騎士たちの長として生きて行く道のりは、その未来までは描けないが、心構えとしては、理解していたつもりだ。しかし、それは幼少から教わった知識だけによるものだったのだ。心がそれを真正面から、受け入れていなかった。それを今のいままで、自覚していなかった事を痛感した。私は、確固たる未来への確証も無く、そこに至るまでの危険に対する認知も甘いまま、状況に流されて行動していたのだ。
「私が導くですって?いつでも、ずっと、私はみんなの期待する事を探していたわ。ここに至るまで、この歳になるまで!結局、何をすべきかなんて、いつだって状況が勝手にそれを決めていた!私の自由意志なんて、無い。選べる選択肢なんて、無い!私だって、故郷を、父さんの城を、自分の部屋を離れたくは無かった!ああするしか、こうするしか、それしか無いから、こうしてきたのよ!」
私は自ら吐露した、自分の心の奥底にあった、卑怯な責任回避の思いに恐怖と嫌悪を抱いた。多くの男たちを辺境まで連れ回し、反撃の狼煙をあげるぞ、と扇動した私は、こうも軟弱で、貧相な人間だったのだ。多くの人々を先導する資格など、あるものか。
ハルトマンの死が起因するところは、こんなひどく子ども染みた私の君主ごっこに、運悪く付き合ってしまった事なんだ。
私は、もうこれ以上は無理なくらい大きな声で、鼻を垂らして泣きじゃくった。
「わーったよ。まずは、ここを移動しよう。まだ、敵がいるんだ。お前のキレぶりに、びびっちまったみてぇだがな」
クルトは私の肩を抱えて、力の入らない私の膝の代わりを勤めてくれた。
「ハルトマンは・・・?」
彼の身体をここに置き去りにして?
もし生きていたら?
渚の祈りを求めていたら?
最後のお別れを・・・遺言を聞かねば。
だが、声は、出せなかった。
クルトの返答は無かった。
ロロ=ノアをはじめ、誰も何も声に出さぬまま、私たちは橋をゆっくりと渡り切った。
皆、惨めに駄々をこねる女貴族に幻滅したろうか。でも、だからと言って、流れ出した涙は、もう止める事ができない。
私は領主の娘として育った。
他の生き方を、父は教えてくれなかった。
今の私の両肩には、騎士たちと故郷に残した領民たちの運命を背負っているはずだ。
一体全体、私をこんなに追い詰めるのは、何者なのだ?
父か?
その通りだ。だが、こんな魔剣の迷宮に来た責任は、父には無い。
男爵どもか?
その通りだ。だが、彼らの手はここまで届いていない。
父を殺めた者どもか?
その通りだ。父が生きていれば、今の私の境遇は無いだろう。しかし、今の私の境遇は、刺客が画策したものでは無いだろう。
マンフリードどもか?
否、違う。彼らは、むしろ他人だ。
では、他所者の私に助けを求める、街の人たちか?それを引き受けたのは、私の自由意志だ。
それとも、私の魔剣の仕業か?
白い魔剣は、押し黙ったまま、耳鳴りも震えも伝えては来なかった。
判っている。答えはシンプルだ。“今の私の敵“は迷宮の主だ。
もしかすると私は、生来の殺戮者なのかも知れない。蝙蝠の獣を殴った時、正義感にも似た激しい闘志が沸々と胸に溢れるを感じた。
怒りだ。
私はふと、理解した。
怒りの気持ちが、臆病な私の足を前に向かわせる。
こうやって、私は自分の気持ちを整理していく術を身につけていくのだろう。
そうして、今後も自分の責任を誤魔化しながら、前に進んで行くのだろう。
誰かが、立ち止まって良いと言うまでは、進むのだ。
自分では、もう止まれない。
止まることは、許されない。
私はもう、多くの人々を死に追いやっているのだから。
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