第19話 甘さと苦さ

あと数回のエピソードで僕と彼女の物語をかたり終えたいと思う。

長々と語ることは軽くなる。

独白に近い僕の語りは短い形で終わりにしたい。


―――バレンタインにて。

彼女からチョコをもらった。


「チョコを買って、湯煎して、あんなことやこんなことをして作ったスペシャルチョコ!」


「食べねぇ、食いねぇ、頂きねぇ!!」


とろけるお味はほろ苦味!!!」


いつも以上に妙なテンションの彼女のその理由は寝不足とのこと。

どうやら遅くまで手作りチョコを作っていたようだ。

そのためか、


量が超多い。


初めに成功したチョコを渡してきた。これは良い。

その場で食べることを勧められて美味しく食べた。

そこまでは良かったのだが、次いで新たなチョコを渡された。

どうやら少し失敗したチョコのようだ。

それも僕は美味しく食べた。

そしたら、次いで新たなチョコを渡された。

それを僕はと繰り返された。

口の中と胃の中がチョコだらけで気持ちが悪い。


「コーヒー」


そう言ってブラックコーヒーを渡された。二つある。

僕と彼女の分それぞれだ。

苦い・・・本当に苦いコーヒーに思えた。

甘いモノを食べていても、なお苦く思えるコーヒー。

この後の彼女のセリフのせいもあったのかもしれない。


「14時14分に君が私に秘密を打ち明けるの」


彼女が死ぬ『X日』は聞いていた。

だが、時間を聞いていなかった。以前に聞いたが教えてくれなかった。

だからそのまま死ぬまで秘密のままで終わると思っていたのだが、このタイミングで彼女は話してきた。

何故、急に教えてくれたのか訊ねてみると・・・


「何となく」


意外性も何もない答えが返ってきた。

怪訝な顔をすると、瞳が僕から離れ、少し彼方を見てから答えを続けた。


「本当に何となく(時間を)言うことを決めたの」


「昨日の夜、チョコを作っているときに甘いチョコだけでなく、ほろ苦いチョコも君にあげたいなぁ~って思ったのがきっかけ」


「最後のチョコはカカオ80%ぐらいの苦さだったでしょ?」


彼女の答えを聞いて僕は・・・正直怒りが沸いた。

ハッキリ言って悪趣味すぎる。

いつもの軽いジョークではなく、正真正銘の笑えないブラックジョークを言われると腹が立つ。

僕は彼女と喧嘩する覚悟で怒鳴りつけようとした。


でも


彼女を見た僕は何も言えなかった。

それどころかすぐに彼女から目を逸らした。


―――泣いていた。


一瞬しか分からなかったが、彼女の瞳から雫が零れたのが見えた。

覚悟を決めたはずの彼女が悲しんでいるのを感じ取ってしまった。


『2/14』と『14時14分』


2と14繋がりで思い出してしまったのか・・・

寝不足と大量のチョコ、そして彼女の妙なテンションもそのためなのか・・・


僕はコーヒーを片手にチョコを食べ続けた。

彼女が僕に再び話しかけるその時まで。僕はゆっくりと食べ続けた。

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