第12話 未来予知

時は流れた。


時間が全てを解決するとはいったが、時間は全てを済ませるともいえた。


彼女を見るようになってからは順調であった。

喧嘩することはあれど、些細なことではなかった。

むしろ、喧嘩するたびに絆が深まっていったとも言えた。


そして夏。

海に行った。

彼女が誘って、僕がそれを了承した。


綺麗な海に行き、僕らは海水浴を堪能した。

白い肌。水着はシンプルで、派手さはなかった。

しかし、見惚れた。恋は盲目とはよく言ったものだ。

何を着ていても見惚れたと思う。他の女性は目にも入らなかった。


「イヤらしい」


笑いながら僕に言った言葉。そしてその時の笑顔を僕は忘れない。


“君の方がイヤらしい”


そういった小気味なジョークを言えなかった僕のマヌケっぷりも忘れない。


―――海水浴の後。

200円でアイスを買った。

海水浴を楽しんでいるときにも買ったが、帰り道にも買って二人で食べた。

パキリッと割って、二人で分けて食べるタイプのアイス。

割って彼女に渡すと、笑顔がこぼれた。

甘いものが好きな彼女。

デートの度に、いつもスイーツ巡りに付き合わされていた。


甘ったるいこと限りなし。


でも、幸せだった。


限りある幸せ。


文字通りの幸せな時間を僕は大切にしていた。


ところがだ。


今日は少しばかり違った。

帰り道にて、彼女はとある場所を指さして言った。


「あそこに寄りたい」


見るにそこは、サスペンスドラマのクライマックスでありそうな断崖絶壁であった。

その場所に立ち寄る。

『立入禁止』の柵があったようだが、僕らは無視して立ち寄った。


「綺麗だね」


ときは夕暮れ。

断崖絶壁の上から海を眺めると、燈色ひいろの地平線が輝いていた。

二人して無言で眺めていると、しばらくして彼女が口をひらいた。


「飛び降りたら死ねるね」


顔が僕に向けられた。

悲しげだった。そして、はかなげだった。

僕に未来を見るなと彼女に言ったが、彼女は未来を見ている。

それを僕は責めることは出来ない。

先の問いかけにも似た言葉の後、僕の答えを聞く前に彼女はとあるモノを渡してきた。


白い封筒。


「手紙だよ」


私が死んだ後に見て欲しいと言った。

僕は黙ってそれを受け取ると、持っていたカバンにそれを入れた。


「私の分まで生きて欲しい・・・とは書いてないから」


彼女は面白かった。

受け取る時に僕が思ったことを言うのだから。

手紙とは随分とベタなことを僕は思い、先のセリフまで想像したことを言い当てた。

僕が少し笑うと、彼女も少し笑い、続けざまに言った


「一つ未来予知をしようか?」


なんとも奇妙な言い回しだった。

未来が見える彼女が未来予知とは奇天烈だ。

是非聞きたいと僕が言うと、彼女は


「君はここで手紙を見る」


死んだ後の未来は見えない彼女の予知。

その予知が当たるかどうかは、彼女が死んだ後にしか分からなかった。

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