遺書

 これを「あなた」が読んでいるということは、僕はもうこの世にはいないのでしょう。

 とてもありきたりな書き出しですけど、そう書くほかにありません。ありきたりというのは、使い古されてもある程度の効力はあるものだと思います。だから、同じような言葉が繰り返し使われるのであって、一番最初にこの文章を作った人はすごいのだと思います。

 まあ、そんなことはどうでもよくて、つまりこれは遺書なんです。死ぬ前の元気なうちに書いているものです。死んだときは、親にこの文章を載せるように頼んでいます。だから、これは今まで読んでくれた「あなた」に向けた遺書なんです。


 *


 最初に書いたのですが、この日記を書こうと思ったのはこのまま死にたくなかったからです。単純に、死ぬのが怖くて、そして一人きりの病院が寂しかった。もちろん病室には、家族も友人も病院の先生たちも来てくれます。でも、僕にはその白くて四角い箱の、狭い世界しかなかった。だから世界を広げるために日記を書こうと思った。

 

 そこから、世界は少しだけ、広がった。僕の日常を知っている人が、内面の声を聞いてくれる人が、世界に確かに(とても少ないけれど)いる。それだけで、なんだか救われるような気がしました。狭い病室だけじゃなく、この広い世界にちゃんと、生きてることを実感できたんです。


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 死ぬ前にやりたいこと。

 以前そのことを日記にしました。いまさらやりたいことを探しても何もできないことに、少し絶望しながら書いた文章です。僕にはやり残したことが山ほどあった。

 彼女を作りたい、海外に行ってみたい、好きなアーティストのライブに行きたい、長編小説を書いてみたい、いつか結婚したい。

 まだまだそういう「死ぬまでにやりたいこと」があります。「死ぬまでにやりたいこと」というやつは厄介で、普通に生きているときには顔を出さないくせに死ぬ間際になると出てくるんです。そして綺麗な幻想だけを見せて、「お前にはもうできないけどな」と悪魔の声でいってくるんです。最低です。本当に。

 当たり前ですけど、死ぬ直前になって、「死ぬまでにやりたいこと今のうちにやったるぞ!」となっても遅いわけで、僕は今できることの中で、やりたいことをやるしかありませんでした。でも、やっぱり後悔してます。死ぬまでにやりたいことは前述した事以外にもたくさんあるのですが、元気なときだったらできたこともあったんです。それをやっておけば良かったと、とても思います。

 

 だから、これもまたとてもありきたりなことなんですが、「あなた」はやりたいことをやってください。「死ぬまでにやりたいこと」は中々見つけるのが難しいかもしれませんが、自分が少しでもやりたいと思ったことは、めんどくさくても、周りの目が気になっても、やってみてください。それがいつかくる、「死ぬまでにやりたいこと」という悪魔を殺す方法です。だから、どうか、頑張ってください。


 *

 

 少し長くなりましたけど、いいたいことはこれくらいです。

 最後まで付き合ってくれた「あなた」には、とても感謝しています。この世界のどこかにいる「あなた」のおかげで、僕の生活は少しだけ明るいものになりました。読んでくれてありがとう。そしてさよならです。

 いや、まだこれを書いる間は死んでないんですけどね。もしかしたら公開しない未来があるかもしれません。だからこれはもしものための、遺書です。死を簡単に受け入れたわけじゃありません。

 だから、もしも僕が死んで、これを「あなた」が見ているのなら。

 そのときは、本当にさよならです。

 いつかまた、どこかで、来世で会いましょう。

 あ、あと最後に小説を書いたので、良かったら見ていってください。たぶん、この遺書と言ってることは同じです。でも、頑張って書いたので、よかったらぜひ。

 

 それじゃあ、改めて。

 さようなら。

 

 

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