第33話 死にたい私の新たな日常

 通常授業が始まり、日常が戻ってきた。あのお祭りのような騒がしさから一転してこの時間がいつもに増して静かに感じる。それに寂しさを覚えながら授業を受けていた。


 四時限目終了のチャイムが鳴り、私としずくちゃんは屋上へ足を向ける。冷えているドアノブを回して屋上へ。冷たい風が服を通り抜け、私たちの体を震わせた。


「うぅぅ……寒いぃ」

「もう冬も近くなったね」

琴葉ことのはさんはこういう日、どこで食べてたの?」

「屋上前の階段に座って食べてたよ。そこだと風がないだけ外よりマシだし」

「じゃあ今日はそうしよ。あたし寒いの苦手で」


 ベンチにも座らず戻っていくしずくちゃんに合わせて私も向かう。しずくちゃんがドアノブを回すと勝手にドアが開かれた。そこにいた人の顔を見て少し視線を逸らす。


「なんだ響也きょうやかぁ。勝手にドアが開いてびっくりしたよ」

「俺も急にドアノブが動いたから驚いたぞ。てかなんで屋上から出るんだ? まだ飯は食ってないだろ」

「そろそろ屋上は寒いからさ、階段で食べようって涼音すずねちゃんと話してたんだ」

「なるほど、そういえばしずくは寒がりだったな」

「そんなこと言って響也きょうやも寒がりじゃん」

「いや俺はどちらかと言うと暑がりだ」


 相原あいはらくんって暑がりなんだ。覚えておこう。階段に座ってお弁当の風呂敷を広げる。しずくちゃんは私の横に座り、その隣のベンチに相原あいはらくんが座った。


「なんていうか、ここで食べる日が来るとは思ってもみなかったな」

「確かに。けど食堂はすぐに混むから走らないといけないし、外は寒いしで教室以外で食べるならここがいいのかも。ゆっくりできて静かだし。床が少し冷えているのが難点だけど」

「何か敷くものを持ってくれば解決できるよ」

「それは面倒くさいから持ってこないかな」


 場所が変わってもいつものように他愛ない話をする。ノートを持ってきてもちゃんと復習する日の方が少なくなってきた。


 復習するよりも二人と話す方が楽しい。気付けば学校は勉強する場所じゃなくて二人と話す場所になっている。


「そういえば演劇の映像、親に見せられた?」


 しずくちゃんの言葉で昨日の出来事を思い出す。だけど心配させるわけにもいかず私は笑顔で答えた。


「うん、ちゃんと全体が映ってて良かったよ。映像送ってくれてありがとね」

「どういたしまして、あたしにできることがあればなんでも言ってよ。いつも涼音すずねちゃんには助けてもらってるんだし」

「そんなにしずくちゃんを助けていたかなぁ」


 思い返してみるがあまり思い浮かばない。


「いやいや、授業のノート見せてもらったり、課題の問題教えてくれたり、いつも助けてもらってるって」

「そう? 困っているときはお互い様だしさ」


 かくいう私も毎日しずくちゃんと話し、楽しんでいるから助けられているようなものだ。しずくちゃんは自覚してないだろうけど。


「おいおい。最近俺のところに来ないからちゃんと授業聞いてると思ってたのに、琴葉ことのはさんのところに逃げてたのかよ」

「えー何? 男のヤキモチは需要ないよ?」

「ちげーよ、幻滅してたんだ」

「ひどい!」

「あはは」


 二人のやり取りを聞いていると自然と笑みが零れる。やっぱり二人は仲がいいなぁ。しずくちゃんが羨ましい。私も相原あいはらくんと幼馴染だったらこんな風に仲良くなれたのかな。

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