第4章

第25話 死にたい私とハロウィン

「トリックオアトリートォ‼」


 数日ぶりに登校した私にしずくちゃんが呪文を唱えてきた。今日は10月31日、ハロウィンだ。この日はどうやら呪文が挨拶と化するらしい。


「はい、どうぞ」


 去年も同じことがあったので、念のために昨日作ってきた市松模様のクッキーを取り出す。


「これ手作り?」

「うん、あまり秋っぽくないけど許してね」

涼音すずねちゃんの手作りかぁ~、嬉しいな」


 この笑顔を見ることができたので十分作った甲斐があった。また来年も作っておこう。


「ねね、涼音すずねちゃんはお菓子いらないの?」

「あ、くれるんだ。トリックオアトリート」


 こうやってお菓子を交換し合う人を今日は何人も見た。しずくちゃんもそれがしたいと思ってたんだけど……。


「あはは、実は今お菓子持ってないんだ。だから悪戯されちゃうよ~」


 イシシと悪戯っ子のようにしずくちゃんが笑う。どうやら私には悪戯ができないと思われているらしい。


 それならどうにかしてしずくちゃんをぎゃふんと言わせたい。あまり害はないけどされて嫌そうなこと……。


「さぁて、どんな悪戯されちゃうのかなぁ?」


 楽しそうに私の顔を見つめられる。悪戯なんてあまりしたことがないけど、たった一つだけ思いついた。


「じゃあ、はい」


 私の悪戯にワクワクしているしずくちゃんの前に手を差し出す。


「えっと、その手は何? もしかしてカツアゲ⁉」

「そんなわけないでしょ。悪戯よ。い・た・ず・ら」


 それでも怪訝そうに私の手を見つめてくるしずくちゃんに、私は明るく言った。


「――お菓子返して」

「嫌だ!」


 即反対されるが私も譲らない。


「でも、悪戯だからなぁ」

「うぅぅ」


 私の手とさっき渡したクッキーを交互に見る。その挙動を見ているだけで楽しい。加虐心を掻き立てられるけど、そろそろ罪悪感も湧いてきた。


「嘘だって、悪戯なんてできないよ」

「よ、よかったぁ」


 しずくちゃんが心底安心したように胸を撫で下ろす。すぐに罪悪感を抱いてしまう私には悪戯は向かないらしい。


「あ、ちなみにお菓子はちゃんと持ってきたから! お母さんが作ってくれたやつなんだけど」


 私の手に小さな袋が置かれる。中にはおばけやジャックオランタンの形をしているクッキーが入ってあった。同じクッキーなのにこれほどの差。圧倒的に料理スキルが違う。


「かわいい……私があげたのと違いすぎて恥ずかしいよ」

涼音すずねちゃんのも可愛いし恥ずかしくなることないって!」


 そこでチャイムが鳴った。授業五分前の予鈴だ。


「そういえば今日の午後は学校残るの?」

「もう私の班はやることがないから残らないかな。それに行かないといけない場所もあるし」

「そっか。じゃあまたね」


 しずくちゃんが自分の席に戻っていく。明後日の土曜日には文化祭があるため、今日の授業は午前中で終わり。明日は授業がお休みになっている。その代わりに全ての時間が文化祭準備に使われるのだ。


 しずくちゃんが入っている演劇組は放課後と明日に空き教室で練習をするらしい。


 ちなみにそれ以外の人たちの明日は一日中暇だ。トランプやスマホで遊んでいる人もいれば、他クラスに遊びに行く人、演劇の練習を見に行く人もいる。


 かくいう私は約三日分、合計十七時限分のノートを写す作業で忙しいだろう。それに加えて授業を受けてない分、サイトに投稿されてある勉強解説動画を見る予定だ。


 今から考えるだけでも憂鬱になる。これだと演劇の練習も見れなさそうだ。


 ……見たかったなぁ。

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