第26話 死にたい私のお母さん
その日の放課後、学校帰りの私はある病室の前に立っていた。扉に手を掛けるがそっと離す。さっきからその繰り返しだ。
久々に来たせいか、緊張していた。私は演じきれるのだろうか。
「すぅ、はぁ」
小さく深呼吸を行う。
私は
「よし」
なんとなく大丈夫な気がしてきた。そっと扉を開ける。扉近くの入院患者が私の方に振り向くけど気にしない。堂々と目的のベッドに向かう。
そのベッドに座っている女性は本を読んでいた。いつもは読むとしても漫画なのに、今は最近話題の小説を読んでいる。近づいても顔を上げないところから、どうやら読書に集中していて私に気付いていないらしい。
「お母さん?」
返事がない。こんなことアルバムを見ているとき以来だ。
「お母さんってば!」
だからといってそのまま帰るわけにもいかない。私はお母さんの腕を掴む。そこでやっと気付いたのか、お母さんが顔を上げた。
「
「色々あってね」
面会者用のイスに腰を下ろす。カバンをイスの下に置くと改めてお母さんを見つめた。
「最近は中間テストがあってね、友達の家に泊まり込みで勉強会とかしてたんだ」
あえて
「もうそんな時期なのね。テストお疲れ様。結果はどうだったの?」
「もちろん、一位だったよ」
「偉いわねぇ。流石自慢の一人娘だわ」
手を伸ばされ頭を撫でられる。とても優しい手つき。
柔らかくて、嬉しくて、でも寂しくて、悲しくなる。安心できない。
お母さんが触れているのは私なのに私には触れていない。私ではなく
「あ、そうそう。今は文化祭の準備をしているの。もう前日なんだけどね」
「そう、もう文化祭が始まるのね。
「童話の青い鳥の演劇をするんだ。私は舞台には出ないんだけど」
「そうなの? 昔から演劇のときは主役ばかりしていたのに意外ね」
「……っ」
主役をしていたのは
心の奥、何か黒いモヤモヤがどんどん膨らんでいくのを感じた。
「
「な、なんでもない! それより今回は小道具作りしたんだよ。ちなみに主役のミチルは私の友達なんだ」
「そうなの? なら見に行ってみたいわね。病院側から許可を貰って行ってみようかしら」
「やめてよ。恥ずかしいし」
文化祭で
「それにごめんなさい。本当なら退院できるのに」
「いいわよ。お母さんは覚えてないけど、何か事情があるんでしょ? 娘が一人暮らし頑張ってるんだから、それに文句を言う親はいないわ」
「ありがと」
言葉を返して俯く。これも全部私ではなく
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