第49話『エルフの村』



 俺たちは森で出会ったエルフ族に案内され、彼らの村にやってきた。


「いやはや、国王陛下がどうしてこんなところまで」


「しかも、あのマンイーターまで倒していただけたるは。これは歓迎せざるを得ますまい」


 どうやら、俺たちが倒した魔物はエルフ族の中でも恐れられる存在だったらしく、それを倒してくれた俺たちの歓迎会という名目で、あれよあれよと言う間に人が集まり、長老の家で宴会が開かれることになった。


「……なぁ、妙なことになってるけど、いいのか?」


「今更やめてくれなんて言えねぇだろ。エルフ族の長老とは知り合いだから、心配はいらねぇよ」


 広間の中央に腰を下ろし、奥の厨房から様々な料理が運ばれてくるのを見ながら、ゼロさんが苦笑していた。村人たちも喜んでくれてるし、悪い気はしないけどさ。


「お二人のお召し替え、終わりましたよー」


 その時、着替えを終えたルナとソラナが戻ってきた。二人ともマンイーターの消火液で服がどろどろに汚れていたし、彼らが民族衣装を用意してくれたらしい。白を基調とした生地で、首元や袖のところに青い線がいくつも入っている。すごく清楚な印象を受ける衣装だ。


「えへへ、どう? 似合うかな?」


 ルナが俺の前でくるりと回ってみせる。マンイーターに襲われたってのに、呑気なもんだなぁ。


「ルナには似合うけど、あたしには似合わないわねー。すっごく動きにくいし」


 そう言うソラナは、どうもこの衣装が苦手らしい。前も言ってたように、ヒラヒラな服は動きにくそうだしな。


 ……ちなみに、ソラナは白い帽子も一緒に被っていた。たぶん、耳を隠すために貸してもらったんだろう。


「それでは、客人も揃ったところで宴を始めよう。国王陛下の来訪に感謝を」


 やがて長老のそんな言葉とともに杯が掲げられ、宴が始まった。正直、ゼロさん以外の俺たち三人は場に合わせるのに必死だった。


「……なんか、すごいことになっちゃったね」


 目の前に出された山盛りの料理を前に、ルナが苦笑しながら言う。閉鎖的な種族だって聞いてたから、ここまで歓迎されるとは思わなかった。ゼロさんの力ってのもあるんだろうけど、わからないもんだよな。


「ささ、お酒をどうぞ―」


 その時、二人の子供が俺たちにお酌をしてくれた。


「いや、俺たちは呑めないんだ。まだ17歳だからさ」と答えて遠慮すると、「えー、見た目は私たちより大人なのに」とクスクスと笑う。どういうことだろう。


 俺たちが困惑していると「あたしたち、19歳だよ」と教えてくれた。嘘だろ。どう見ても10歳くらいにしか見えないのに。さすがエルフ族、見た目と実年齢が一致しないらしい。




「国王陛下、本日は村までわざわざお越しくださり、お礼申し上げます」


 困惑しつつも宴を楽しんでいると、先程の長老が杯を手にこちらにやってきた。


「まぁ……色々あってな。悪いが世話になる」


 ……なんだろう。あのゼロさんがどこか話しにくそうにしていた。なんか珍しい。


「ほっほっほ。鼻垂れ坊主じゃったお主が、今や国王とは、世も末じゃのー」


「ぶっ!?」


 よほど動揺したのか、ゼロさんは飲みかけていた酒を吹き出していた。え、鼻垂れ坊主?


「父親にいいところを見せようと、勇み足で木に登っての。降りられなくなって泣きじゃくり……」


「ちょ、ちょっと待てじーさん、その話、今するんじゃねぇ」


「ほっほっほー。では、梟の声に怯えて眠れず、女官の傍らで眠った話でも」


「いつの時の話をしてるんだ! それは本当にガキの頃だぞ!」


 ……つまり、ゼロさんは子供の頃、この村へ頻繁に足を運んでいて、その頃の恥ずかしい思い出とか、沢山あると。


 俺には分からないけど、実家に帰るような気分なのかも。それに、相手は長命のエルフ族だ。子供の頃の話をいつまでも覚えていられるというのは、恥ずかしいことこの上ないと思う。


 ……今更ながら、ゼロさんがエルフの村に行くのを渋っていた理由が分かった気がした。


 そして隣を見ると、ルナやソラナも必死で笑いを堪えていた。いや、ソラナに至っては堪えきれてなかった。後ろを向いて、ばしばしと床を叩いていた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「……して、皆さまはどうしてこの村に?」


 一通り昔話をした後、長老は姿勢を正して言う。結構酒を飲んでいるはずなのに、酔っている気配はない。


「人を探しているんだが、この中にロッドという者がいるか?」


「ロッドですかな? おりますが……この宴には参加していないようですな」


 同じく全然酔った気配のないゼロさんに問われ、室内を見渡しながら言う。そしてため息混じりに「元々、騒ぐことが苦手な職人気質でしてな。すぐに呼び出しましょう」と続け、目配せする。


 すると、入口に立っていた青年が頷き、外へ出ていった。あの人が呼んできてくれるのかな。


「あの、長老さま、少し聞きたいことがあるんですけど」


 その姿を見送った直後、ルナが長老に尋ねる。


「ソーンさんって、この村に戻ってきてませんか?」


「ふーむ……わしは会っておらんが……誰か、ここ最近ソーンの姿を見た者はおるか?」


 騒いでいる集団に対して問う。ほとんどの村人が首を傾げる中「この間見たぜ」と、一人だけ手を挙げる人がいた。


「10年くらい前に、錬金術の基礎を教えてくれと頼まれたな」


「そ、そうですか……ありがとうございます」


 ルナは反応に困ったような顔でお礼を言う。”この間”が10年前。エルフ族との時間間隔の違いに驚くばかりで、ソーンさんに関しては、特に有益な情報は得られなかった。


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