第26話『続・国王陛下との謁見』
「俺がラグナレク王国・第17代国王。ゼロディアス・ラグナレクだ」
玉座から俺たちを見下ろしながら、ニカッと笑うその顔はまさに、俺たちの知る商人のゼロさんその人だった。
「ええっ、ええええっ!?」
「まさか、ゼロさんが……王様!?」
「どーだ、驚いたか」
「えっと、国王陛下におかれましては、ご機嫌うるわしゅー」
呆気に取られていると、隣でルナが目を白黒させながら必死に取り繕う。あわて過ぎて舌が回ってない。
「ぶっ、わはははっ! 今更かしこまるな!」
ゼロさんは玉座の立派な肘置きを、それこそ壊さんほどの力でバンバンと叩く。「だってさぁ……」と、思わず気の抜けた声を出してしまう。
「……まったく、国王陛下もお人が悪い」
「いいじゃねーか。驚かしてやろうと思ったんだよ」
下がったはずのアグラスさんがいつの間にか玉座の近くにいた。もしかして、この二人にしてやられたのかな。
「まぁ、積もる話もある。向こうの部屋で話そうぜ」
ゼロさん……国王陛下はそう言うと、親指で玉座の奥に見える部屋を指差した。高そうなカーテンが掛けられているけど、何の部屋だろう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……予想外の再開すぎて、まだ頭の整理が追い付いていない中、国王陛下は俺たちを奥の部屋へと案内してくれた。
「ここは俺の私室だ。まぁ座ってくれ」
羽織っていた衣装の一部を脱ぎながら、見たこともないような立派なソファーを勧められたところで、すぐには身体が動かなかった。
「なんだよ。まだ緊張してんのか」
背筋がピンと伸びたままの俺たちを見て、苦笑しながら言う。
かと思うと、ゆっくりと近づいてきて、がっしと俺とルナの肩を掴んで抱き寄せる。
「あんなことがあった後だし、それもしょうがねぇか……大変だったな」
それは月並みの言葉のはずだけど、不思議と心に染み入ってくる気がした。言葉だけでなく、そこに込められた感情の重みが違う。焼け落ちる村から俺たちを助け出してくれたのはこの人なんだと、その時、改めて理解した。
「……ゼロさんこそ、助けてくれてありがとう」
その時、ルナが震え声でお礼を言う。俺もそれに続き、ようやくお礼が言えた。
「安心しな。俺は無条件でお前らの味方だ。この国にいる限り、俺が守ってやるからな」
嬉しさと安心感と驚きと。色々な感情が入り混じる中、俺たちは再会を果たした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……少しは落ち着いたか?」
その後、なんとかソファーに腰を落ち着けた俺たちに、ゼロさんは何も変わらぬ様子で飲み物を振る舞ってくれた。
何が出てくるのかと思ったら、以前もらった炭酸水だった。しかも、砂糖とリンゴ入り。
ルナの意見を取り入れて改良してみたらしく、一口飲むとふわっとしたリンゴの甘い香りと砂糖の甘さが口に広がる。なんか、味覚が一気に戻ってきた気がした。
「改めて言っておくが、お前らも変に緊張するな。敬語もいらねぇ。玉座で会う時以外、お前らの目の前にいるのは商人のゼロだ。いいな?」
まだ少し表情が硬いと思われたのか、そう言ってサムズアップする。服装こそ国王のそれだけど、やっぱりゼロさんなんだ。
「ねぇ、どうしてゼロさんは王様なのに、商人さんをやってるの?」
ルナが何故か挙手しながらそう質問する。確かに、それは俺も気になってはいたけど。
「世の中を見て回るためだな。庶民の目線じゃねーと見えないもの、たくさんあるだろ。立場上、国内の視察もするが、そんなもんじゃ現実はわからねぇ」
俺としちゃ、国王より商人のほうが性に合ってるんだがなー、と一言添えつつ、炭酸水を一口飲む。
「……鎧着こんだ兵士を簡単に殴り倒せるくらい腕っぷし強い商人なんて、変な話だとは思ってたけどさ」
同じように炭酸水を口に運びながら、思ったことを口にすると「国王が商人やってるなんて、言いふらすなよ?」と、悪戯っぽい顔で返された。いや、言ったところで誰も信じないから……。
「一部の大臣や、アグラスは俺がお忍びで商人やってるの知ってるよ。信頼できる奴だからな」
玉座でのやり取りを思い出してみれば、確かにアグラスさんは事情を知っている風だった。騎士団の人だし、忠義に厚いんだろう。
「……それでな。国王の立場として、お前らに言っておかないといけない事がある」
……それまでひょうひょうとしていたゼロさんが、一転真顔になる。
「セレーネ村の話だ。気乗りしないだろうが、聞いてくれ」
そう言って俺たちの目を見た後、静かに話しはじめた。
「……お前らを宿屋に送り届けた後、俺はすぐに王宮に戻って勅命を出し、近くに駐留していた軍を旧山道側と街道側からセレーネ村へ向かわせた」
わざわざ二手に分けたのか。それこそ、実際の現場を見たゼロさんだからこそ出せた判断だと思う。
「だが、夜明けとともに戻った兵の報告によると『すでに事態は収拾。村の生存者は隣村への避難を開始。村内、旧山道ともに犯人の痕跡なし』とのことだった」
「隣村ってことは、エラール村のことだよね……?」
「ああ。あそこは軍の駐屯地からも近いし、そうそう襲撃されることはないだろう。ひとまず安心だぞ」
ゼロさんはルナの方を見ながら言う。あえて『死傷者』という言葉を使わず『生存者』としたのは、ルナのことを思ってなんだと思う。
「……でも、結局村を襲ってきた連中の正体はわからないってことなのか」
「……残念ながら、そうなる。好き勝手暴れられて、悔しいことこの上ねぇが」
ため息混じりに、テーブルの上の炭酸水を飲み干す。さっきと同じ仕草のはずなのに、悔しさが滲み出ていた。
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