第19話『村からの脱出』
「……くそ。ここも見張りの兵士がいる」
暗闇に紛れながら教会の周囲を偵察してみたけど、その表側には見張りの兵士がいて、何やら話をしていた。
俺はルナと一緒に物陰に隠れながら、その会話を聞き取ろうと耳をそばだてる。
「……村の娘はあらかた調べ終わったが、未だにペンダントを持つ者は見つからないな。本当にこの村にいるのか?」
「隊長を疑うのか? もし本人の耳に入ったら大変だぞ」
「そういうわけじゃないが……この村、どことなく故郷の村に似てるんだよ。抵抗するからって、村人に手を掛けるのは……」
「気持ちはわからんでもないが……これも仕事だ。いちいち気にしていたらやってられないぞ」
「それはそうだが……それにしても、中を調べに行ったあいつはまだ戻ってこないな」
「ちょっと中を見てくる。お前達、気は抜くなよ」
……そんな話の流れから、見張りをしていた兵士の一人が教会へと入っていった。これは、俺が倒した兵士が見つかるのも時間の問題だな。
だけど、これで教会の前にいる兵士は二人。突破を狙うなら、今しかない。
「……よし。ルナ、走るぞ!」
ひと声かけて、ルナと手をつないだまま物陰から飛び出す。目指すは村の北側だ。
「おい! お前達!」
……直後、俺たちに気づいた兵士が声を荒げ、当然のごとく追いかけてきた。そう簡単に捕まるわけにはいかない。
その声を聞きながら、俺は左の掌いっぱいに無数の小さな火球を生み出す。例によって熱さは感じない。まるで無数の豆を掴んでいるみたいだ。
「……これでも、食らえ!」
それを振り向きざまにばらまく。豆粒のような火球は地面に当たると同時に破裂し、無数の閃光と音が響き渡る。
「うわぁっ!?」
予想外の攻撃だったのか、背後から戸惑いの声が聞こえたけど、元々この魔法であの兵士たちを倒せるなんて思ってない。追いすがる二人の足を少しでも鈍らせられれば、それでいい。
「すごいね。ウォルスくん、あんなこともできたの?」
「お、俺だって修行してるんだ。いいから、村の北に向かって走るぞ!」
思わずそう言ったけど、火球の大きさをや形を変えられるようになったのは、ついさっきだ。
理由はわからないけど、ルナを守るために必死になった結果かもしれない。なんか、力が増幅されてる気がするし。
頭の片隅でそんなことを考えながら、ルナの手を引いて村の中をひた走る。
……道中、壊れた井戸や、ほとんど焼け落ちた家が目に入る。その傍らには、黒く焦げた人のようなものが横たわっているのも見えた。
「……」
すぐ近くを走るルナは何も言わないけど、たぶん、色々見てしまっている。大好きな村で何が起こってるのか、気づいている。
「……そういえば、ソーンさんはどうしたんだ?」
「えっ、ソーンさん……?」
呆然自失となっていたルナにそう話しかけ、無理矢理意識を引き戻す。
「ソーンさんは……『ベッドの下に隠れていろ。絶対に部屋から出るな』って言って、外に出て行っちゃったの」
声を沈ませながらそう言う。やっぱり、俺の予想は当たっていたんだ。
「あの人のことだし、きっとうまく立ちまわってるよ。大丈夫さ」
……そんな希望的観測を口にしながら走り続けていると、村の北の端……ゲレスじーさんの家が見えてきた。
この前の採集で時に使ったけど、あそこの裏庭には村の外へ通じる抜け道がある。
背後からの足音はだいぶ遠いし、このままいけばなんとか村から脱出できる……!
「お前達、止まれ!」
少しだけ安堵した、次の瞬間。俺たちの前に二人の兵士が立ちはだかった。
……嘘だろ。こいつら、何人いるんだよ。
思わず足を止めると、後ろを追ってきていた兵士二人も追いついてきた。気付けば、四人の兵士に囲まれてしまっている。
「くそっ……」
俺はルナを背中に庇いながら、両手に生み出した火球で彼らを牽制する。だけど見え見えの攻撃は難なくかわされ、全く脅威になっていないようだった。
結果、じわじわと四方から距離を詰められていく。これは非常にまずい。万事休すだ。
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