第2話 追跡行
「何これ、無茶苦茶美味しい!」
道中、罠にかけた幼い兎を煮込んだ鍋を、相棒は無邪気にがっついた。
誤解の無いように言っておくが、俺と野兎は近縁関係では全くない。言葉も通じなければ、心も通わない。全くのアカの他人だ。最も、俺は自分の種族についての情報を持たないので、実は兎の王だった、なんて事も有り得ない訳ではないかも知れないが。
それにしても、うちの相棒・・・剣の腕も背格好も、先日会ったあの女騎士と同じくらいだと言うのに、絶望的なまでに子どものままだ。出会って以来変わらない、何人切り捨てても、そこは変わるところがなかった。
まったく、忌々しい。
「当然だ。俺は料理人の息子だからな。港町では一番の人気店だったんだ」
それは嘘だ。種族について知らないのだから、当然自分が生まれた時のことは知らない。物心がついた時には、港町にあるパン屋の下働きとして人族たちに育てられた。料理は忙しい主人たちに変わって、賄いを担当している間、試行錯誤しながら覚えたものだ。俺は料理が好きだった。包丁は、剣よりも勝ると俺は思う。そこらでふんぞり返っている騎士たちよりも、俺は多くの命を殺め、そしてその分、多くの胃袋を満たし幸福を与えて来た。少なくとも、目の前のドレスの上に部分鎧を纏った、三つ編み前髪の女戦士よりも、俺は器用に刃物を使える自負がある。
「うさちゃんは、出会った時から料理上手かったろね。どうすれば、そんなに上手くられるの?」
肉の塊を奥歯で噛みしだきながら、桃色の髪の少女は尋ねた。
こいつの人生には、あるべきものが決定的に抜けている。
「・・・好きだから、だろうな。好きなものは、何時間、何年でも苦にならないし、もっと上手くなってやろうという気が湧いてくるもんさ」
「ふーん。そんなものなのね。うさちゃんの言葉は含蓄があってためになるね」
いや、どーせ、お前は何一つ覚えやしねーだろーが。
「あのな、人前ではもうその呼び名はやめてくれ」
「んー?うさちゃん?なんでまた?どしてー?」
「品格が落ちるんだ!おかげでいつも、俺は子ども扱いされるんだ」
「えー?いーじゃん別に、気にしなければさ、うさちゃん!うさちゃんは見栄っ張り屋さんなのです〜」
「信頼を失うからだ!軽く見られたくない!あのな、交渉事は俺の役割だろ。交渉に大事なのは、情報通であり決済力がある相手だと思われる事なんだ」
「その見た目で言う?呼び名だけで変わるー?」
こいつ、まじで殺す!
「うさちゃんは、うさちゃんのままがいいのです。その方が、素敵なのです。そして、私はそろそろ寝るのです」
「おい、たまには片付けくらい手伝え」
「グピー・・・」
相棒は椀の汁を一気に飲み干すと、まるで一連の動作かのようにその場に倒れ込み、恐らく寝息を真似たのであろう、間抜けた声を出しながら狸寝入りを初めてしまった。
まぁいい。初めから日常の仕事は俺一人でこなしているのだ。今更、どうもこうもない。
に、しても。うさちゃん、か。
相棒が静かになると、夜の森の静けさが世界を満たしていることに気づく。焚き火の音に混じって、昔聞いたことのある声が耳元で蘇ってきた。
「うさちゃん!すごーい!」
それは、今から遠い昔のある少女の声だ。
繰り返しになるが、俺は物心がついた時から、パン屋に育てられていた。最初はおかしな事に、外見の違いは気にならなかった。パン屋の夫婦は可愛がってくれたし、面倒見も良く、悪さをしたらしっかりと叱ってくれた。子どもをもったことは無いので想像でしかないが、恐らくよく言う「実の子のように」というやつだったと思う。俺の育ての父親は人間族、育ての母親はエルフ族だった。
港が見える絶景の立地、商人や働き手たちが多く行き来する通り沿い。間違いなく、人気店だったはずだ。毎朝、父はまだ俺が寝ているうちからパン種を仕込み、母親が整形と様々な薬味やハーブなどでアレンジを施し、そして父が焼き上げる。店内の清掃と道具の洗浄、焼き上がったパンの陳列と接客が俺の主な仕事だった。父の仕事を早く教わりたかったが、お前にはまだ早い、の一点張りだった。パン生地の発酵までの手順で、その日のパンの良し悪しが決まってしまうのだそうだ。港町だけに、初見の客も少なくない。「これは美味い!」と思われなければ、客は一人またひとりと他の店に行ってしまうのだと言う。観察眼と洞察と手先の器用さには、いささか自負があった俺は、手順さえ教われば、すぐにでも自分一人で作れると思い込んでいた。だから、機会があればいつでも作れるようにと、壊れた道具や買い替えの道具のお古を捨てずに修理し、自分だけの発酵かごまで隠し持っていたものだ。
ある日、常連の中でも最も重要な客がやって来た。
丘の上の城館に住む領主の母娘たちだ。
庶民の出という気さくで、悪目立ちすることのない賢そうな奥方様と、城館の暮らしに飽きていそうな、やんちゃな一人娘は、この一年というもの父の店を週3回以上通ってくれていた。その一人娘は、随分と俺に馴れ馴れしく、突然抱きついて来たり「うさちゃん、うさちゃん」と何度も話しかけて来た。随分、懐かれたもんだとその当時は思っていた。今思えば、周囲からは逆に映ったことだったろう。うさぎが嬢ちゃんに懐いた、と。この娘はどうやらうさぎが作ったパンを売る店、とでも思い込んでいたのかも知れない。それとも、ただのマスコットとの交流を楽しみにしていたのだろうか。
この日は、剣の神のお祭りということで、俺に前掛けをプレゼントしてくれた。しっかりと厚い布で、ほつれの無い新品だった。
嬉しかった。
お店の常連さんたちには、いつもよくしてもらっていたが、プレゼントなんて初めてだった。広げてみると、俺の背丈にちゃんと合わせて作られていた。
「どう?気に入った?」
「・・・もちろん!ありがとう!」
満面の笑みの少女の顔に、心の奥から感謝の気持ちが湧いて来た。
でも、お返しできるものを何も持っていなかった。その時にポッケに入っていたのは、一つの金属片。パンの表面に切れ目模様を入れる為の小さな刃物で、手を怪我しないように切り抜かれた内側が刃になっているものだ。本来ならば柄についているべきそれは、金属部分のみ。ゴミ箱にあったそれを拾い、修理して自分の道具にしようと思っていたものだった。俺は金属片を取り出し、ため息をついた。自分の物といえば、いずれも似たり寄ったり、こんなガラクタまがいの物しか、俺は持っていないのだ。
「それは、パン作りの道具?」
「あ、あぁ。壊れてるけど・・・」
「壊れているの?じゃぁ、もらってもいい!?使えないものならば、いいよね?頂戴!」
いや、使えないわけじゃ、無いんだけども。
「いやいや、お返しには、もっと良い物を探そう。後でお届けします、お嬢さん」
二人のやりとりを後ろから見ていた父親が割って入ってきた。そうだ、ちゃんとした物をお返ししないと、失礼に当たるだろう。さすがは父だ。きっと、適当なものをアドバイスしてくれるだろう。お小遣いで買える範囲で・・・お願いします。
だが、お嬢さんの反応は意外なものだった。
「これが、いい!くださいな」
そう言いながら俺の手からそれを奪うと、何か特別な力でも秘めている宝物でも見るような眼差しで、壊れた金属片を太陽に翳していた。
「・・・パン屋になりたいの?」
「これ、なんて失礼な!」
父が慌てて叱りつける。この場合は、フォローというべきか?
「私、パン屋さん大好き!どうしたらこんな美味しくて、良い香りのパンが焼けるのか、ずっと不思議で、実は魔法使いなんじゃないかって最近まで本気で思っていたのよ。だって、エルフのお母様とうさぎのお子さんのいるパン屋さんなんて、不思議がいっぱいじゃない」
そういうと、少女はキラキラした笑みを浮かべた。
数日後、来店した彼女の前髪には、加工された金属片が収まっていた。
「それ、すごく良くなったね!」
「ふふふ、執事がね、彫刻師に頼んでくれたの。私はそのままでいい、って言ったんだけどもお母様のお眼鏡に適わないと捨てられてしまうからって。・・・うちってひどいでしょ?だから、飾りを彫ってもらってね、髪飾りとして加工もしてもらったのよ。私が街で買ってきたと、執事には口裏を合わせてもらったわ。私の個人的なお気に入りならば、そう易々と捨てられたりはしないから」
似合う?と言いながら彼女は笑いながら身を翻してみせた。
「うん!すごく似合うよ」
貴族の娘というのも、案外大変な環境なのかも知れない。
「街の散歩と買い出しの時は、この髪飾りを付けるね」
随分と立派なアクセサリーに昇格した切れ込み刃よりも、俺の瞳は彼女の明るい笑顔に吸い付いて離れようとしなかった。
それから1週間後、深夜に起きた落雷による火災で、領主の館は全焼した。
逃げ延びたのは、数人の使用人のみだったと言う。
火災の跡は元の姿を想像できないくらいに、めちゃくちゃなものだった。それはまるで子どもが、作りかけの積み木を気まぐれに薙ぎ倒したかのようなものだった。石造の厚い外壁は残っているが、薄い内壁は所々に崩れ、木製の梁と天井、床板は炭の塊となって四散していた。当然、上階の物も1階に落ちて、他の様々な物たちと同じように黒い灰の塊と化していた。
領民たちから慕われていた証に、焼け跡には沢山の献花が山を成した。これから先の世を嘆く老人。どうか無事に逃げ延びていますように、と神々に祈るおばさんたち。俺はまだその時は、人の死についてはっきりと認識ができていなかったように思う。ただ、もう、あの少女は戻っては来ない、再びあのキラキラした笑顔を見ることは無い。そう理解した。
それでも、なんとか平和が続いていた港町に、絶望的な悲劇が襲ったのは、それからさらに1ヶ月ほど後の秋だった。
麦の収穫が終わり、畑を耕し直し、早春に咲く花の種を蒔いた後の事だった。
教皇庁の紋章を掲げた船が一艘、寄港しようとやってきた。
見知らぬ誰かが、港を叫びながら通り過ぎて行ったと言う。
「蛮族だ、あれは蛮族の船だぞ!今すぐ逃げるか、さもなくば戦え!全てを失うぞ!家も財産も家族も愛人も将来の夢さえも!俺の言葉を聞くんだ、早く!」
蛮族の襲撃は、港町にとって想定内の脅威だった。どこの町や村も、見張りの塔を建てて、蛮族の接近と知るや、逃げ隠れるか、徹底抗戦のどちらか、或いはその両方の備えをしている。俺の町では、子どもも全員知っていた。蛮族が来たら、お年寄りと子どもと女たちは山奥の隠れ里に落ち、海が荒れる冬まで身を隠す決まりになっていた。しかし、領主を失ったばかりの港町は、脅威に対する反応が日和見がちになっていた。被害が絶望的と知って、初めて恐怖し、混乱が伝播した。組織的な反抗をすることもできぬままに、抵抗した大人たちは容赦なく首を刎ねられ、抵抗しなかった多くの老人と小さな子どもたちも腹を刺され、降伏した大人たちと大きな子どもたちは首に縄を掛けて数珠繋ぎに船に乗せられた。悲惨なのは、船にこれ以上乗せられないと知るや、海がまだ暖かいことを良いことに、紐で首を繋いだまま海に落とされた。妙な発音の異国の言葉を話す半裸の巨人たちにとって、人族の命はこれほどまでに価値が低いものと悟り、その光景に目眩がしてきた。これならば、食用として重宝される大ガエルの方が、よほどありがたられているではないか。
この後、しばらくの間の記憶は曖昧になっている。うまく思い出せないのだ。
うさぎと似た外見の俺は、たちまちまな板に載せられた事は覚えている。何と言って一命を取り留めたのだろうか。判っている事は、生き残るためにありとあらゆる努力をした、ということだ。
そこで功を奏した事は二つあった。言葉の習得と、料理の腕前を披露することだ。俺はそれから約十年に渡り、蛮族の海賊船で調理担当をする事になった。自分が人族の端くれとしても、人間やエルフ、ドワーフなどから遠い姿形をしていることに、俺は俺の創造主に対して、心から感謝した。うさぎ姿は俺のみで、間違って喰われる心配だけはなかった。役に立ち続ける事、それが俺の至上命題となった。だが、パン屋の賄いとは違い、蛮族の海賊船専属料理長が扱う食材は、魚、亀、豚、羊、山羊から人族、果ては蛮族に至るまで多種多様なレパートリーを網羅するものとなった。常に自らの死を意識しつつ、俺は片言の蛮族語を話しながら、そのいかれた料理をただひたすら、作り続けた。
「全く、嫌な想い出ばかりだ」
夜空を眺めながら、毒付いた。皿を綺麗に舐めてから少量の水と布で拭き取り、火で炙ってから、乾いた布で煤が消えるまで丹念に磨き上げる。船で何度か腹を壊しながら、俺は独自に調理器具を清潔に保つ方法を考え出した。これが正解かどうかは、知らん。ただ、このやり方でしばらく続けている、というだけだ。調理器具の片付けが終わると、相棒はぐっすりと深い寝息を立てていた。
翌朝、硬く焼き締めたパンの欠片と水を口に含む。生理現象の大きい方を済ますと、辺境騎士団たちの足跡を辿り、北上する。途中の集落にある畑は、全て根を抜き取られ、麦も穂先がまだ青いまま刈り取られ、捨て置かれていた。穂の中はまだ水っぽく、食べられる時期では無かった。
「もったいないね・・・どうして」
相棒が切なそうな表情を浮かべた。
剣を抜いていなければ、ごく普通の少女だ。ただ、いくらか世間を知らなすぎて、いつでも無邪気でムードを読めないことがチャームポイントといったところだ。そんな彼女が珍しく、静かにそう呟いた。
山の民は、辺境騎士団の接近を知って領民に焦土戦略を強いたようだ。そして、どの村ももぬけの殻。私財を担いで住民たちはどこに行ったのか。
食料の残りを探そうと、民家を漁っていた俺は、今の天井に貼られた布地の絵柄を見た。それは、山を模した三角形の頂点に、光と心臓の絵。どの家にも、大きさや場所は若干の差はあるが、天井にこれに酷似した絵が飾られていた。今まで、見たことは無い習慣だ。人族・蛮族の世界は、魔剣をはじめとする魔装具を纏った神々への信仰“魔剣信仰“がスタンダードだ。地場の神々を信仰する民族も数多いが、魔剣信仰はそれに共存して広まっているものだと俺は思い込んでいた。どの家にも、魔剣の神々に纏わる絵画や彫像は存在しなかった。
奇妙な土地だ。絵を見るに、山を信仰の対象としているようなので、恐らく姿を消した民たちは、山の民の本拠地へ向かったのかも知れない。詰まるところ、辺境騎士団たちもそこに陣を張っているはずだ。
食べ物の残りは何一つ見つからなかった。それもそのはずだ。焦土戦略なのだから。
スリングで鳥でも仕留めようかと、腹を決めて外に出たその時、砂利の上を走る音を聞いた。相棒を振り返ると、彼女は家の中から飛び出し、疾走に移っていた。無言で俺を追い越し、音の出どころ、五軒ほど先の民家の影まで、矢のように飛んでいく。
悲鳴がふたつ。俺が追いつくと、男女の人間が相棒に首を押さえつけられ倒れていた。特に左側の男は生きた心地がしなかったろう。相棒の左手は筒のような形状の頑丈な籠手に覆われ、先端から十字の短刀が生えているのだ。
「思わず捕まえたけど、これって正解?」
「・・・あぁ、満点だ。殺すなよ。聞きたいことがある」
「一人殺すと、口が軽くなるらしい」
「・・・待て、待て。それは、“お前からの提案“か?」
青ざめる男女に鋭い眼光を放ちつつ、彼女はゆっくりと首を振ってみせた。
やれやれ。今のお前は、人間というよりも猫科の何か、だ。
「じゃぁ、却下だ。俺は命を尊ぶ数少ない賢者の一人だ。命のやりとりは命のある者 同士で決めるべきだ。さて、お二人さん。言葉は大体、分かっているな?なぜ、村に残っていた。他の皆は山に行ったんだろう?」
「殺すな、正直。それの通り、でも山の神、信じない二人とも、皆と一緒できない」
「あー、信仰の違いか。山の神の総本山には行きづらいという訳だな。お前たちと同じ神を信じるのは、全体でどれくらいだ?」
「全体で?正確じゃない・・・剣信じるは10人に6人くらい。山に行きたくない私たちは、10人に1人くらい」
「どういうわけだ?山の神はいつからある?新しい神なのか?」
「古くからある。でも山の神、力貸さない。剣の神、傷や病気治してくれた」
「じゃぁ、なぜ皆、山の神を家に祀るんだ?」
「山の王、決めた」
「ふん、なるほど。じゃ、話を変えよう。食べ物はあるか?」
実際のところ、地場の神の話なぞ、俺らにはどうでも良い。
二人は顔を見合わせると、意を決したように頷くと腰巻の中から乾物の塊を出した。
よく見ると、鹿肉と林檎と檸檬の乾燥保存食だ。
「困っているんで、悪いがこれらはもらう。それ以上は望まん。だが、食料も無くして、あんたらも困るだろう。そしたら、北に向かといいぞ」
「北、山。みんないる。戻れない」
「別のキラキラ輝く鎧を着た連中がいるはずだ。そいつらに、山の民の話をしてやれ。きっとよくしてくれるはずだ。わかったか?」
二人は真剣な眼差しで、何度も首を縦に振る。
相棒が身体を退けると、二人は手を取り合って走り去っていった。
「これは、強奪と言わない?」
「・・・なんだって?本気で言ってるのか?馬鹿らしい!本人たちが進んで差し出したのを見ただろう?この食糧で生きていけるのは、せいぜい七日がいいところだ。それに対して、俺は彼らがこの先、安全を確保するに都合の良い身の振り方まで教えてやったんだ。俺が言わなきゃ、彼らは辺境騎士団の存在すら知らなかったかも知れん。これは相互利益というやつだ」
「でも、その辺境騎士団のリーダーは、私と戦って死んでしまうかも知れないじゃない。もちろん、私が負ける可能性もあるけども。果たして、頼れる相手かしら?」
「再戦は、先方の戦闘がひと段落するまで控える約束だ。それに、騎士や領主なんぞ、常に戦いの中にいるご時世なんだ。安全が保証された場所なんて、果たして本当にあるとは思えん。それに、相手を必ず殺す訳ではないだろう?今までと同じように」
「うさちゃんは、そうやっていつも都合が悪くなると、そもそも論で煙に蒔くのはどーかなと思うよ!」
「なんだよ、いつも俺だけ悪者みたいに言いやがって。お前だってこの飯を食うんだろう?いーや、何を今言ったって、絶対お前は食う!お前はそういう奴だ。俺に礼こそ言えども、人道を説くのは辞めてもらいたいね。なんせ、俺、人じゃねーし」
「うさちゃん、ごめーん!そんなつもりで言ったんじゃないよ〜そんな事言うのは、私、悲しいよぉ」
「抱きつくな、じゃぁ、俺のことをうさちゃんと呼ぶのをやめろ」
「違うよ、全然違う話だよ!それに、私もやっぱり食べる!だから美味しく料理して」
俺は、相棒の顔を足蹴にして、だっこから逃れた。
こんな馬鹿げたやりとりは、いつもの事だった。
木立の中、手を繋いで逃げる二人の姿が見えた。
俺は女の背中に視線を奪われる。
昔、逃してやった女の事を思い出した。
あいつは、無事に逃げ延びたのだろうか。
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