落零〈rakurei〉~番外伝~

河内三比呂

番外一話 まさかの潜入捜査

「……おい」


 怒気を含んだ声で、鬼神おにがみが口を開く。だが、それに答えを言えるものはいない。


「なんっで! 俺様が男装なんざしなきゃなんねーんだ!」


 そう。今の彼女は髪を結い、胸はサラシで潰して、男子用のブレザーを着ている。その姿を、五奇いつき等依とうい空飛あきひの三人はただなんとも言えない表情で見つめていた。


「誰かなんとか言えや!」


 いたたまれなくなり、五奇がゆっくりと言葉を紡ぐ。


「その……似合ってる……よ? 鬼神さん?」


「そーそー。まぁ、これも世のため人のためってヤツっスねー」


 なぜ鬼神が男装しているのか? それは一時間ほど前に遡る。


 ****


 一時間前。

 齋藤に呼び出されたEチームの面々は、渡された資料を見て、言葉を失った。


「っざけんな!!」


 資料を破りそうな勢いで、鬼神がキレる。五奇も改めて読み返してみるが、そこに書かれていたのは……。


『妖魔が関与していると思われる違法男装カフェあり。調査せよ』


 という文言が書かれていたのだ。もちろん、Eチームに男装ができる者など、一人しかいない。


 ****


 そんなわけで、違法男装カフェに潜入することになった鬼神である。五奇が再び声をかけようとした瞬間、彼女がキレながら吐き捨てる。


「ちっ! 覚えてろよ! クソが!」


 そうして、何も言えずにいる五奇達を置いて、店内へと入って行った。残された男達はというと、


「……では。鬼神さんを待ちつつ、警戒しつつ、探りましょうか?」


「そうっスね~。オレちゃんの簡易式神も何体か貸してるし、だいじょぶっしょ」


「そうでございますね。存外、生身でもお強いお方ですし、はい」


 どこか自分達を納得させるかのように、口々にそう言うと待機場所へと移動して行くのだった。


 ****


 その頃、男装カフェ内にて。


「アナタが新入りの……陰野おんのオトちゃん? ふぅ~ん……」


 偽名を名乗った鬼神に対し、なにかも見定めるような声色を放つマスターの女? 男? は、マジマジと見つめた後、


「ご・う・か・く! よん! アナタいいわ~! 頑張ってねん?」


 あっさり合格を出されたことに、鬼神は内心で、


(クソが……!)


 悪態を吐くと、源氏名オトとしてデビューすることになったのだった。


 ****


「へぇ~アナタが新入りのえーっと……」


「……オトだ。俺さ……俺と話してぇなら、金だせや」


 接客など当然慣れていない鬼神は、なんとかそう言葉を絞り出せば、女性客は楽し気に、


「きゃー! 俺様系とか新しい! 気に入っちゃったから、バンバン入れちゃおう~!」


「……お、おう」


「わ? もしかして照れてる~? いいわね~!」


 段々恥ずかしくなってきた鬼神は、早くこの時間が終われと、妖魔の仕業なら絶対にぶん殴ると心に誓うのだった。


 ****


 その後。

 違法ではあったものの、妖魔の仕業ではなかったことが判明し、鬼神は怒りで五奇達に当たり散らすのであった。

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