第5話 決意
なんとも情けない。言い争いなんて恥ずかしいから他所でやってよ。でもそうか、姉ちゃんは私が羨ましかったのか…私は友達の多い姉ちゃんの方が羨ましかったけどね。兄とは年が離れすぎていてあまり記憶にない。
さくらの姉は器用だ。すべてのことに卒なくこなす。
少学生の頃に担任の先生から「お姉ちゃんは優秀だったのに、妹のあなたはどうしてこんなに出来が悪いの?」とみんなのいる前で言われたことがある。
正直びっくりした。双子でも性格は違ってくるのに姉妹だからと言って同じなわけないじゃんと小学生ながら冷静に思ったものだった。
親戚のおばちゃんや自分の実の祖母からも似たような事は言われて育っていたからか、担任に言われても平気だったわけだが、教師歴うん十年でそんなことも分からないなんて今まで何してきたんだろうと思った。
さくらは目がつり上がっている。目つきが悪いと散々言われて育ってきた。母と姉はたれ目でみんなから愛されていたのに、さくらは父親に似てしまったようだ。
女の子で愛嬌がないのは死活問題で生きて行くのに苦労した。9歳の頃から家に誰もいない生活を送ると子供は無表情になるようだ。その上つり目である。姉は部活で帰って来ない。兄はバイトで帰って来ない。父親も仕事で帰って来ない。父親はのちにパチンコに行っていたのだと確信した。帰って来る時間が毎日同じだったからだ。22時過ぎにいつも帰って来る。パチンコが閉まるのがどうやら22時の様なのだ。それを知った時はショックだった。仕事だからだと思っていたからひとりでも我慢していたのに、父はさくらを残してギャンブルをしていた。早く帰って来て一緒に居てくれてもよかったではないのか。今と違って学童なんてものもない。さくらは15時頃から夜21時頃までひとりでいたこともある。
小学生の頃はイライラしている父に気に入らないと殴られていた。しかし、中学生になり、さくらも思春期になると抵抗した。父に怒鳴られたら怒鳴り返した。
だってみんなが好きな事をしている。じゃあ私だって好きな事していいよね。そう思った。
食べる物もないので親の金を盗んで買い食いを始めた。中学生の頃からスーパーに入り浸り好きな物を買い出した。小学生の頃は朝食パン1枚、昼給食、夜食パンあるだけという生活をしていたのだ。
絵を描くことが好きだったので、ノートや色鉛筆、絵具も買い出した。しかし金を盗んでいるのがバレて殴られた。描いていた絵はビリビリに破かれ、絵具は捨てられた。高校生になり、バイトを始めた。17時から22時まで土日も休まず働いた。好きな物が買えて、好きなだけ絵も描けた。父は意地になったのかそんなさくらを見て夜帰ってくるのが遅いと殴って来た。もう話もしなくなった。
高校を卒業する頃には預金額は400万を超えていた。ほとんど毎月すべてを貯金に回していたからだ。そのお金でアニメ専門学校に通った。都心にある学校だったので兄に頼み、保証人になってもらって部屋を借りた。ボロでトイレも汚く狭いアパートだった。それでも快適だった。自分のお金で好きな事が出来る。アニメ専門学校に行きながら少しはバイトもしていたが2年で400万も底が付いた。しかし、アニメを作製する会社に就職できアニメーターになることが出来た。その頃はまだ夜中の1・2時でも残業を強いられていた。でもその分お金が貰えるならと月100時間以上の残業も苦ではなかった。
会社の社宅に住んでいたさくらは安く住むことが出来、その分預金に回した。そして若くしてマンションを購入するまでになったのだ。社宅にずっと住んでもよかったのだが社宅はペット禁止の物件だったため、思い切ってペット可のマンションを購入したのだ。25年ローン、50歳で払い終わる予定であった。
姉はさくらがアニメーターとして成功して、自分のマンションも購入して今まで見下していた妹が自力で成功したことに嫉妬した。
「あとは結婚ね。相手はいるの?会社でいい人とかいるんじゃない?アピールしなさいよ」
「いや、姉ちゃんも知っていると思うけど、一回振られたじゃん。もういいよ。私みたいな若さしか勝負できない女が25歳過ぎて相手なんて見つかるわけないでしょ」
「アニメーターとして成功してるでしょ?」
「成功って会社で仕事しているだけだし…」
「こんなマンションまで買っちゃって、いいなぁ。ねぇ私もこっちに住んでいい?」
「姉ちゃんは10年付き合っている彼氏いるじゃん。早く結婚すれば?」
「ん~違う人と付き合ってみたいな…」
「あんな優しい人なのに?」
「優柔不断なだけよ。プロポーズもしてこないし」
姉はさくらに相手なんて出来ないと分かっているのにそんな話を頻繁にした。一度、コンパで知り合った人たちとクループ交際に発展して、そのうちの一人とお付き合いする事が出来た。3年ほど楽しくお付き合いをしたが、二股されていた。さくらも仕事が中心だった為、あまり文句も言えずお別れをしたのだ。
しかし、それは20歳の頃の事。ダサくても若いとカワイイが年を取るとダサいのは怠けているとしか見えない。なので仕事をしながら頑張ってダイエットをして髪のお手入れをし、服や靴にお金を掛けコンパにお見合いパーティーに頑張ったが35歳で心が折れた。もういい。仕事は順調だし猫は可愛いし、マンションはある。
さくらはひとりで生きて行こうと決めたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます