メスガキ君主外交書簡集

しげ・フォン・ニーダーサイタマ

宣戦布告

【原文】

「おじさんはこーんなにちっちゃい女の子にも勝てないよわよわ君主なんだよねー♡」


【清書】

「貴君は幼少短躯の女の身である予に対しても勝利を企図し得ないもやし野郎であるから、剣を取り軍をおこす気概は無いと確信するものである」


【解説】

 そもそも中世ヨーロッパにおいて女性君主は比較的少数であり、サリカ法典――女性に乱暴狼藉をはたらいた場合の罰金刑などを含む、女性保護的な側面も持つ法典。ただしそれは「法制化しなければならなかった」と読む事も可能であり、当時の女性の地位も伺える。また女性の土地相続を禁じた条項もあり、一概に女性保護的とも言えない――を拡大解釈し、女性の王侯位継承を認めない国もあった。よってメスガキ君主の地位の正統性は、幼齢という点を除いても疑われる場合があると考える事が可能である。


 また貴族は「戦う人」であり、その戦闘能力を疑い得る要素――――例えば短躯であるとか――――は好ましいとは言えない。


 これらの要素から、メスガキ君主は敵対者からしてみれば攻撃の口実に事欠かない存在であると考えられる。逆に言えば、これらの要素は「攻撃させるための口実」としても利用可能だ。


 「貴君は幼少短躯の女の身である予に対しても勝利を企図し得ないもやし野郎であるから」の部分は、「貴方は、このように正統性と貴族性に疑念を持ちうる私に対してすら勝利を期待出来ない軟弱者である」の意である。


 そして続く「剣を取り軍をおこす気概は無いと確信するものである」の一文で「私に挑戦する事も出来ない臆病者である」と挑発する。こうする事で相手は己の名誉にかけて武器を取らざるを得なくなり(仮に挑発に乗らなければそのまま「もやし野郎」の汚名を被る事になる!)、メスガキ君主にとっては「先に剣を取ったのは相手である」という大義名分を得られるようになる。



 これに対する相手の返答例も補足的に挙げる。


【原文】

「口の達者なメスガキめ、理解わからせてやる」


【清書】

「貴君が女々しくも文を認めている間、予が既に軍を招集していた事は、全ての領民の知る所である。よって予がもやし野郎ではない事は証明されており、得心のいっていない者は貴君とその郎党のみである。予はこれをただすべく軍を進めるものである」


【解説】

 これはやや悪手であるが、順に解説する。


 まず「貴君が女々しくも文を認めている間」でメスガキ君主が女性である事を非難するのは良いが、続く「予が既に軍を招集していた事は、全ての領民の知る所である」がまずい。意図としては「私は(女である貴女と違い)男らしく、最初から武力で物事を決着させる心づもりであった」というものであるが、これはメスガキ君主の意図通り「先に剣を取ったのは相手である」という大義名分をメスガキ君主に与えてしまう事になる。


「よって予がもやし野郎ではない事は証明されており」はメスガキ君主による誹りを明確に否定する一文である。


 続く「得心のいっていない者は貴君とその郎党のみである。予はこれをただすべく軍を進めるものである」の部分は、「私は"自分がもやし野郎である"という点を撤回させるべく軍事力を行使する」の意であり、戦争の落とし所をあくまでも「侮辱の撤回と謝罪」に定めている事が伺われる。


 ここで「貴国の全ての領民が我に跪くように」だとかを挿入してしまうと、領土欲を疑われ外交上不利になる可能性がある。やや力強さに欠ける――――理解らせ力の低い――――末文であるが、外交に配慮した、成人男性らしい理性ある末文であると言える。


 ただし全体的にはメスガキ君主の手の平の上であり、やはり成人男性はメスガキに勝てないという純然たる事実が垣間見える外交書簡であると結論付ける事が出来るであろう。

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