第194話 日輪祭終了

 レイラが何か言う前にジンは歩みを再開する。レイラは何か言いたいが何も言えずに出かかった声を飲み込むと、ジンには届かない声で「ありがとう」と呟く。

 ジンは教員達によって回収されて行くネムの元へ行く。ネムもジンの存在に気づいて教師に一言断りを入れて担架を地面においてもらう。


「嫌な役回りをさせたな」


 ネムの最初の一言はそれだった。


「なんだ、気づいてたのか」


 ネムはジンに向けるためにあげた顔を担架に戻す。


「そこまで馬鹿でも無知でも無いからな。レイラ嬢には同情する。けれど僕には何も出来ないと思っていたが、お前はすごいな」


「はは、お前の方こそ大丈夫なのか?護衛対象に一発見舞ってたが」


「あ?ああ、問題ないだろ。俺には関係ない話だ」


「......そうか」


 もういいですか?と横入りが入り教師二人がネムの担架を持ち上げる。


「今回は完敗だったが、次はそうはいかないぞ」


「やめろよ、勝った気なんてこれっぽっちしてないんだから」


 ジンがそう返すとお互い笑い合ってネムが運ばれていった。

 ジンはそれを見送ると、審判をしていた騎士がジンの前に歩いて来る。


「ジン・オオトリ、この後すぐに閉会式の流れになる。陛下が言っていたように優勝した君には陛下から褒美があるだろう。考えておけ」


 そう言って離れて行く。

 ジンはイーサンやリナリー達の元に行きたかったが、すでに教師陣が閉会式の準備に入っていたので、ため息をつきつつ、まだ気を抜けないと気持ちを切り替えて、その場で待つ事にした。

 

「それでは第ハ十四回、日輪祭の全日程終了を宣言いたします!」


 校長であるティナシーがそう宣言する。

 日輪祭が始まって以降、ティナシーを見た記憶がジンにはなかった。

 更に言えば、コロシアムにいるが現在ジン一人。負傷しているイーサンは別としても、優勝者であるジン達以外参加していない、それが日輪祭の習わしだった。


「そして栄光ある日輪祭を制したのは、留学生チームである。ジン・オオトリ、イーサン・ウォレットの二名です!皆さま大きな拍手を!」


 ティナシーは声高らかにそう言うが、離れた場所にいるジンにもわかるほど、その敵意を隠そうともしていなかった。


(まぁ、可愛い子供にあれだけ恥をかかせた張本人だからな、仕方ないか)


 ジンにとってティナシーの敵意など毛程も気にしない。なぜならこの先にはもっと大きな存在と対面する事を知っているからだ。


「ただいまイーサン・ウォレット君は負傷のため、この場にはジン・オオトリ君だけとなっていますが、皆さんご了承ください」


 コロシアムの真ん中にイーサンがいない理由を観客に説明したティナシーは頭を下げ、上げるとジンに視線を向ける。

 その視線は先程同様、敵意を孕んではいたが、ジンはそれを正面から受け止めて頭を下げる。


「さて、それでは優勝者であるジン君、あなたの願いを聞きましょう」


 これもまた、日輪祭恒例の流れだ。

 日輪祭を制したと言う事は学生の中で一番の武を持つと言うこと。それは、将来は引くて数多である。そのため優勝者である者の願いを聞くことで将来何になりたいのか聞くと言うのが習わしだった。

 つまり優勝者に求められるのは将来の夢だ。将軍になりたいと言えば、そこに行き着くまでの最短の道が用意され、近衛になりたいと言えばそれまでの最短の道が用意される。だが、今回優勝したのは留学生であるジンとイーサンだ。観客や生徒、教師陣もジンの願う物が何か気になり耳を傾けていた。

 ジンは少しの沈黙の後、ゆっくりと体の向きを変えると、ヴァーレンハイトがいるVIP席に体を向ける。


「私の願いは、陛下との対談です」


 そう言い切ったジンにその場は静寂に包まれる。ジンの視界の中にいるヴァーレンハイトは何か騎士から報告を受けて、立ち上がると一歩前に出て宣言した。


「その願い、このホイル王国、国王ヴァーレンハイトがその名にかけて叶えよう」


 そう言うと、美麗な仕草でもう一度席に座り、ティナシーに視線で合図をだす。

 ティナシーはヴァーレンハイトに向けた視線をジンに戻す。


「優勝者である、貴方の願いはしかと聞きました。それではこれにて日輪祭を終了いたします。皆さま今一度、大きな拍手を」


 静寂であったコロシアムは観客達の拍手の音に包まれ、大いに荒れた日輪祭が終了した。

 ジンは踵を返すと、堂々とコロシアムを後にするだった。

 この日の出来事は後にホイル王国の歴史書に初めてジンの名前が出てくる歴史的な一幕だったが、その一文にはこう書かれていた。


『日輪祭を制したのは若き日のジン・オオトリ、イーサン、ウォレットであった。恐らくこの日の縁が、後の第一次大陸大戦にてホイル王国の命運を変えたのだろう』と。

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