第29話 血の繋がりは無くとも

 ドールが部屋を退室した後、部屋には少し沈黙が流れる。

 その沈黙を破ったのはキリルである。


「さて、話を戻そう。ジン君」


「はい」


「まぁ、殿下ちょっと冷静になった方がいいが、確かに君にはまだリナリーとの婚約を進めるわけにはいかない」


「それは」


「勘違いしないでくれよ」


 ジンがキリルの言葉に先程ドールが言ったように少しムッとしたように尋ねようとして、あらかじめキリルがそれを遮る。


「ジゲンは私の友人だし、その功績も評価している。だが、私は君に対しての評価は、中の上と言ったところだ」

 

 ジンは今まだドールに成り上がりの貴族と言われて内心では大きな憤りを感じていた。

 勤めて冷静に話をしていたが、それはディノケイドの御前でもあったし、相手が王子だからである。

 その憤りを感じ取ったキリルがその線を否定して、問題はジン自身であると告げた。


「......わかりました。では私が認めて頂くにはどうしたらいいでしょうか?」


 ジンは機嫌をすぐに取り戻すとキリルに質問する。


「そうだな、あと三年だね」


「三年?」


「三年間の間に君にはそれ相応の私に期待される何かを見せて欲しい」


「お父様!」


 そこでリナリーが少し声を荒げる。

 それは淑女として黙認されるギリギリの声量だった。


「わかりました、必ずや期待に応えましょう」


 ジンはそう言うとしっかりと頭を下げた。


「そうか期待しておく、ん〜さてこれで君との約束も終わったこただし私の話は以上ですが」


 そう言いながらディノケイドに目配せをするキリル。

 ディノケイドは息子の失態からやっと立ち直りキリルの目配せに応じる。


「そうか、では君たちに話は以上だ。そうだな、少し二人でそこら辺を散歩でもしてきなさい、私たちは少し大人の話合いをせねばならん」


 そう言われてジンは、承知しました。と言ってリナリーをエスコートする。

 それは婚約のエスコートではなく騎士が使える者にするエスコートであるが、これを見てキリルはまた関心した。


(これは、条件など必要なかったかな)


「では、少しお付き合い願えますか?リナリー嬢」


「ええ喜んで」


 ジンの行動にまだ婚約を受け入れていないぞと言うキリルの言葉を汲み取った行動だと思い、キリルは関心し、リナリーは緊張しながらもジンと話せることを喜こび、跪いて手を出すジンの手を取る。だが、ジンは騎士風のエスコートをしたのはたまたまであって、婚約に対するエスコートを学んでいなかったためであるが、キリルにはそんなこと知るよしもないことだった。

 二人が部屋を出て行くと、ディノケイドはまたしても大きなため息をついて口を開く。


「ジゲン、そろそろ帰ってこい」


「あえ!俺は一体なにを!」


 途中から話についていけずショートしていたジゲンはやっと正気を取り戻す。


「はぁ、ひとまず一から説明してやれ、キリル」


「その方が良さそうだな、相変わらずお前は色恋には疎いな」


「久々に会って、中々の物いいじゃないか?親友よ」


「いやいや、君はルイの時といい、鈍すぎる」


「それを言われると、何も言い返せないではないか」


 ジゲンが歳に似合わず拗ねたように言うと久々の笑い声が部屋に満ちる。

 笑い声が収まるとキリルが今日あった事をジゲンに話始める。


「なるほどな」


 これまでのジンの経緯を聞き終えたジゲンは少し困ったように笑った。


「迷惑をかけたなキリル」


「まぁ、少し悩みはしたがいい判断だと自分でも思っているから問題ないよ」


「そう言ってくれると助かる。ディノもすまんな」


「構わんさ、わしはちとあやつを甘く育てすぎた」


 ディノケイドはドールを思い出して少し憂鬱になる。


「しかし、一目惚れで求婚、しかも自分より家柄がいい娘にとは、なんだかどっかの誰かさんを見てるみたいだよ」


「む?それはわしのことか」


 ジゲンは眉を顰めて言う。


「他にいないだろう、婚約者が決まっていなかったと言う点は違うけどね。安心していいよ血は繋がってなくとも彼は君の子だ」


 キリルはジゲンとジンの関係を知る数少ない人物である。


「かっかっか」


 ジゲンは愉快そうに笑う。


「さて、じゃあジゲン、この件は私の出した条件をこのまま進めて行くと言うことで大丈夫かな?」


「問題ないだろう、あいつならわしより出世するだろうからな」


「なんともまぁ、期待しておくよ」


 キリルはジゲンの自信に思わず笑うと自分を棚に上げて親バカだなと思った。


「それで、殿下の方はどうするんだ?」


 ジゲンが少し困ったようにディノケイドを見る。


「構わんさ、奴もいつか理解するだろう、しなかった時はそれまでと言うことだ」


 父親ではなく王として喋るディノケイドにジゲンは何も言わず頷く。


「さて、それでは話は以上とする、すまんなジゲンよ、急に呼び立てて」


「いやいいさ、当事者の親であるしな」


 そう言って今回の騒動は一旦の解決をしたのであった。

 一方その頃、ドールは寝室で憤りを爆発させていた。


「くそ!!」


 部屋の椅子を蹴りあげる。


「なんで、俺様が!!」


 不満をどうしても払拭出来ずに自室へ戻ってから荒れに荒れていた。

 そんなドールの部屋をノックする音は聞こえる。


「入れ!」


 ドールはそれが誰であるか知っているかのようにすぐに部屋に招く。

 それはメイドであった。


「貴様、しっかりと聞いてきたんだろうな?」


「は、はい、ジン・オオトリは三年以内つまり学園入学までに何かしらの功績を立てよとの条件が課せられました」


「なに?三年以内」


 (三年以内に何か功績だと?建てられるわけがない、あんな平民上がり風情が)


 そこまで思考してドールはやっと怒りを落ち着かせると、メイドに目を向ける。


「奴の素性をさぐれ、この俺に恥をかかせてくれたのだ、成り上がりのゴミの分際でだ」


「か、かしこまりました」


 そう言うとメイドは一切の音もなく一礼して部屋から出て行った。


「まっててくれリナリー、君は俺の物だ」


 ジンが脅威ではないと考えを改めるとすぐに存在を忘れてリナリーのことに胸を馳せるドールは気づかない。

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