第21話 不和

 デイダラとテンゼンがジゲン邸に居着いてから一ヶ月が経とうとしていたある日ジンはジゲンの呼び出しで書斎の前に居た。


「親父殿、入るぞ」


 ジンはノックをした後一言声をかけて入室する。


「来たか」


「今日はどうしたの?」


「そろそろデイダラ達もこの家に慣れてきた頃だからな、騎士団に顔合わせと入団を明後日にでも行う予定だ」


「ああ、そういえばデイダラさん達も入るんだっけか」


「少し因縁があってな、わしから誘ったんだ」


「ふーん」


 ジンは詳しくは聞かなかった。


「では、伝えたからな」


「わかった、心構えはしとくよ」


 ジゲンはジンに伝え終えると書類に目を落とすのだった。

 二日後ジンは正装に着替えて腰に刀を刺して馬車に乗っていた、この刀は修行中適当に買った刀だ、ガクゼンに修行の身で上等な刀はいらないだろうと言うことで何処にでもある普通の刀である。

 そして騎士団入団のため城へ向かう面子はジンにジゲン、デイダラ、テンゼンと馬車の運転をするジャスだ。

 馬車に揺られながら剣術について語ること数十分馬車が止まる。


「旦那様、到着いたしました」


 ジャスが馬車の扉を開けながら声をかけるとジゲンが「わかった」と短く答えて一行は馬車から降りる。

 王城の門番はジゲンの顔を見て姿勢を正しくしジゲンはその前を堂々と歩く、それにジャスを抜かした一行が続いた。

 王城に入るとメイドに案内されて一室に通される。

 メイドは「少々お待ちください」と一礼してから退出していく。


「すぐに騎士団に合流するんじゃなかったの?」


 ジンは言われていた段取りと少し違うことを疑問に思いジゲンに問いかける。


「どうやらお前とデイダラ達に会いたいと言うお方がいるらしくてな」


 ジゲンの「お方」と言う言葉に嫌な予感がしたジンはどうやってこの場から退場するかを少し考えたところで部屋の扉が開く。


「やぁ!ジン!久方ぶりだな!」


 ジンは嫌な予感の的中とこの件を知っていたであろうジゲンを睨みながら返答を返す。


「殿下、私はいいですがデイダラ殿やテンゼン殿もおりますよ」


 大きな音と共に入ってきたのはロイと男女一人づつの少年と少女だった。


「む、そうだな、申し訳ないお客人礼節をかいた」


 ジンに言われてすぐに頭を下げるロイ、王族としてはなかなかない行動にデイダラですら少し驚いている。


「いや!いいんですよ、殿下これから騎士団に入ろうって身なんですから」


 デイダラは慌てて取り繕う、いくらデイダラが放浪の剣術家であろうとも一国の王子いつも見たいな軽い対応は難しいらしい。それに続いてテンゼンも一礼をする。

 デイダラがなぜ驚いたかといえば今まで何人かの王族を見てきたが一伯爵の子息に言われてすぐに非礼を詫びるなどあり得ないことだったからだ。


「うむ、これから我が国をよろしく頼む。ジゲンもよくきてくれた忙しい中時間をとってもらってすまないな」


 頭を上げてニカっと笑うロイにデイダラはハハハと乾いた笑い声を上げるだけだった。


「いえ、殿下が息子と会いたいと言うのであれば大歓迎ですよ」


 ロイがデイダラとテンゼンに非礼を侘びる、ジゲンに挨拶を済ませるとジンの方に顔を向ける。

 これでいいだろう?と顔に描かれたロイにジンは困ったように頷くのだった。


「よし!久しいなジン!」


「殿下、三ヶ月ぶりは久しいとは言わないのではないでしょうか?」


「細かいことを言うな、俺からしたら久しいのだ、頷いておけ、それとその喋りもやめろいつも通りで構わん」


「そーかよ、全くロイ、急すぎるんだよ毎回お前は、少しは考えてだな」


 ジンが急に口調を変えると捲し立てるようにロイを非難しようとする。

 すると後ろに控えていた少年が大声をあげる。


「貴様!殿下になんて口を聞くんだ!」


 急に怒鳴られて停止するジン。

 ロイはやれやれと言った表情で少年に話しかける。


「コール、こいつには無礼を許してある、ここに来る前に話したであろう?」


「しかし殿下!」


「いい、これ以上言わすな」


 ロイは一言で断ち切るとジンに向き直る。


「すまんな、ジン。付きの者が」


「いやいい、普通はこういうもんだ」


 ジンは首を振る。


「ところでそっちの彼と彼女はどちらんさん?」


 ジンは自分を睨む少年と特に顔に変化の見えない少女が誰であるのかロイに問いかける。


「ああ、紹介がまだだったな、コールとクロエだ。最近俺の側近になった」


「そうか、よろしくコールさん、クロエさん」


「よろしくお願いします」


 クロエと呼ばれた少女は紫色に輝く艶やかな髪を一つにまとめたポニーテールで顔にはずっと笑顔を貼り付けていた。

 コールは先程の件からかずっとジンを睨みつけていて特徴といえば坊ちゃん刈りでそばかすが少々あるくらいだった。


「よろしく」


 ジンは先程のことは何も考えずとりあえず挨拶をしておく。


「よろしくお願いします」


 クロエは綺麗にお辞儀をするがコールはジンの挨拶を無視した。


「コール!」


 ジンの挨拶を無視したコールに対してロイが嗜める。


「いいよ、ロイこれじゃ話が進まねー」


「む、しかしだな」


「いいって、気にしていないさ」


 ジンは自分がどう言う存在か正しく理解していた、幼少の頃より忌み子だと言われて育ったのだ、五歳以降そう言った目でジンを見る人間は少なくはなったがそれでも一定数は存在していた。


「それでロイ、俺に会いたいって三ヶ月ぶりの再会を喜びに来たってわけでもないだろう」


「まぁ、八割それなんだが」


「割合多いな」


 ジンは呆れたように笑うとロイも釣られたように笑う。

 ジンとロイが笑い合ってるとまた部屋がノックされる。


「ジゲン殿、陛下が少しお話があると呼ばれております」


 ドアの向こうから男でジゲンを呼びに来たと告げる。


「ふむ、では殿下我らは一度退席します。ジン無礼のないようにな」


「そいつはロイに言ってくれ、俺が無礼をしようが笑い話にしちまう」


「ふ、では殿下失礼します」


「ああ、父上によろしくな」


「デイダラ、テンゼンお前らもいくぞ、多分その話だろうしな」


「わかったよん」


 軽い調子でデイダラが返事をする、テンゼンは何も言わずに頷く。

 ジゲンたちが退室して最初に口を開いたのはロイだった。


「先程八割は再会を喜びに来たと言っていたが、残り二割は違う」


 そう言うとロイは少し沈黙をして後ろを振り返る。


「クロエ、コールお前たちは退室していろ」


 ロイがそういうとコールが噛みつく。


「ですが殿下!そこな得体の知れない忌み子と二人などと!」


「コール!言葉すぎるぞ!ジンは私の友人だ!」


「ですが!」


「くどい!これは命令だ!」


「くっ!」


 黙って見ていたジンを親の仇でも見るように睨みつけたコールはこれ以上ロイの反感を買うのも危ういと思い退室していく。

 クロエはそれを見た後綺麗に一礼して退室するのだった。

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