第8話 気に入った
「それではオオトリ様、陛下のもとまでお送りします」
「あい、わかった」
「御子息様はこちらのローゼが殿下のもとまでお送りいたします。彼女は目が見えませんが問題ありませんので」
ローゼと呼ばれた金髪のメイドが一礼する。
この世界では目が悪い人でも視力が弱いというより見えないと表現するためジンはあまり気にしなかった。
「したらばジン、帰りに迎えに行く」
「わかった」
短い会話をしてジゲンとジンがわかられのだった。
ジンは先行するローゼの後について行く。
何もかもでかい城にジンはキョロキョロしてしまう。
「城は初めてでございますか?」
「ん?ああ、すいません田舎者ぽくて」
「いえ、貴族様のご令息は皆さん同じ反応をなさいます。それと私に敬語は入りません、私は王宮支えではありますが平民の出です」
「と言われても、歳上の人にはこんな感じになってしまうんですよ、それに男爵なんてもんは平民の方々と大差ないでしょう」
「......そうですか、ではそろそろ部屋に着きますので失礼します」
急に立ち止まるローゼはサッと振り向いて少し曲がったジンの蝶ネクタイを直す。
目は瞑られていたのによくわかるものだとジンは感心してしまう。
「あはは、すみません」
ジンは少しなせけなさそうに笑って感謝を告げるとローゼは「ふふふ」と笑って一礼した。
ジンの身嗜みが整うとローゼはドアに向かってノックをする。
「はい」
少年といっても差し支えない声変わりのしていない返事が聞こえる。
「オオトリ男爵ご令息のジン様をお連れしました」
「そうか、入ってもらって構わない」
「失礼します」
ローゼとジンは部屋に入ると執事服を着た少年が部屋に立っていた。
容姿は整っていて美少年と言える金色の髪に金色の瞳なんとも芸術的な少年だった。
「はじめまして、ジン様。私はロイストス殿下の専属執事をしております。ソラルカと申します」
ソラルカは右手を胸に添えて優雅に一礼する。
「オオトリ家が長男ジン・オオトリです。よろしくお願いします」
ジンはソラルカに同じ仕草で一礼あうる。
「ふむ、ではローゼ下がってください」
「はい、では失礼します」
ローゼはソラルカに言われてジンに挨拶をして部屋を出て行った。
ローゼが出て行くのを確認するとソラルカはジンに椅子に座るように促す。
「申し訳ありません、主人は少し所用で遅れております。その間僭越ながら私目が少しだけお話しさせていただきます」
「あー、えーっとこれは私を試しているとか何かでしょうか?」
「?」
何を言っているのか全然わからないといったふうな顔をするソラルカにジンは、あれ?間違ったかなと思いながら続きを話す。
「いえ、殿下は私の目の前にいます。それなのに所用はないでしょう、だから私を試しているのかなと思って」
「......いやまったく、面白い方だ。なぜそう思ったかお伺いしても?」
ニヤっと笑うソラルカにジンは自分の考えはあながち間違いではないのかなと思った。
ジンはソラルカに促せるままに自分の考えを話す。
「まず初めに挨拶ですね右手を胸に添えて挨拶するのは貴族の挨拶です。使用人などは逆の手を添えますので」
「なるほど確かに、これは失敗しましたね。ですがそれではまだ私が殿下であると決まったわけではありません」
「次にその髪と目でしょう。この国には金の髪と目を持つのは王族しかいません」
「なるほど、よくご存知ですね。どうやら私よりも二つか三つほど歳下であると思いますが?」
「今年で6歳です」
自分でもなんとも子供らしくない子供だと納得するジン。
「そして最後に......」
「最後に?」
「陛下との雰囲気が似てましたから」
「雰囲気、ですか?」
「ええ、雰囲気です」
「ふふ、あっはははは」
ソラルカはひとしきり笑うと目尻に浮かべた涙を拭って答える。
「いや、見事正解だ。これはすごいなまさか見破られるとは思っていなかった」
「お褒めに預かり光栄です」
「ジンと言ったな、敬語はなしだ。お前の目利きに免じて許す」
「いや、それはちょっとなんていうか恐れ多いと言うか身分違いとういかですね」
「構わん、俺が許すと言っている」
「うっ!わかった.......」
これ以上頑なに断れば逆に失礼に当たる。ジンは仕方なくソラルカの言葉を受け入れる。
「いや、久々に愉快だ。おっと忘れていた改めて、ロイストス・バン・ベータルだ」
そう言って右手を突き出すロイストスにジンは少し困った様な笑みで握手を交わすのあった。
握手の後にジンと向かい合う様に座ったロイストスはジンを真っ直ぐ見つめる。
「さて、ジンよ気付いたのはそれだけかな?」
「そぉですね、一つ聞きたいことはあります」
「ふむ、敬語は?」
「なしだったな」
はははと乾いた笑いをするジン。
まぁいいかとロイストスは咳払いをして話を中断させたため再開させる。
「それで、聞きたいこととは?」
「俺を案内してくれたメイドさん、あの方は殿下の親族かなぁとは思ったね」
「ふむ、なぜかな?」
「いやすまない、これは本当にただの勘だな。溢れる気品と金髪っていうとまぁそうかもな程度だな」
「なるほど、いやお前は気に入った」
「正解か?」
「正解だ、私の姉上だからな」
「姉......てことは」
ジンが言いかけたときに先程入ってきたドアが開く。
ジンがそちらに目を向けると先程案内してくれたメイドさんが煌びやかなドレスに着替えて立っていた。
「改めて、ご挨拶させていただきます。ベータル王国第一王女サファイア・バン・ベータルと申します」
「あ、えっと王女殿下とはつゆ知らず、先程のご無礼お許しください」
ジンは確かに王族の親戚ではないかと思ってはいたがまさか相手が第一王女であるなどとは思っても見なかった。
焦り散らかすジンにサファイアはふふふと笑って優しく落ち着いた声で喋る。
「いいのよ、先に無礼があったのは間違いなく私たちですもの。ね?ロイ?」
「ええ、姉上の言う通りです。すみません私の戯言につきあって頂き」
「いいのよ、私も楽しかったわ」
そう言いながらまたも朗らかに笑うサファイアにジンは今日何回目になるかわからない乾いた笑いをするのだった。
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