第7話 剣とは

 オウカを抱きしめていると書斎部屋のドアがノックされる。

 ジゲンが誰だ?と問うとドア越しから男が答える。


「はい!グルーシオです!ジゲン様にお客様なのですが、お通ししてもよろしいでしょうか?」


「む、今は無理だ。後日にするよう伝えてくれるか?」


「はっ!ですが、王からの命だと伺っています!」


「なに?陛下から......ジャスちょっと頼めるか?」


「畏まりました」


 ジゲンに命じられたジャスは姿勢良く一礼して部屋から出て行く。するとジゲンがジンに喋りかける。


「なんだジン、わしを裏切った償いにオウカを寄越したか?」


「それは違うよ、親父殿。オウカが話があるって言うから連れてきたのさ」


「何?オウカが?」


 ジンが諦めたように言うと、ジゲンがオウカに顔を向ける。するとオウカが元気に返事をする。


「うん!あのね!とーしゃま!おうかけんのおけいこしたいの!」


「剣の稽古?」


「うん!」


「なんでまた、剣の稽古がしたいんだ?」


「あのね!にーしゃまととーしゃまがけんのおけいこするのみてたらおうかもしたいくなったの!」


 一生懸命に説明するオウカにジゲンは少し考えてから結論を出す。


「わかった。だがオウカ、一年待て、一年待ってそれでも剣の稽古がしたかったら許可しよう、だがそれまでは見学だけだ。わかったか?」


「なんでいちねんまたなきゃダメなの?」


 オウカは涙目で上目遣いにジゲンを見る。 

 これはオウカの必殺技だ。この技に逆らえる家族は今のところルイ以外はいない。

 だが今回のジゲンはしっかりとオウカの目を見て答えた。


「まだオウカに剣は早い。それにどこまで行っても剣とは人を傷つけるものだ。それを持つのには覚悟がいる男は戦場に出る生き物だが女は違う。女は女の幸せがあるそれはどこまで行っても男とは違う価値観だ。だから一年、父達を見てそれでも剣が習いたいのならわしも許可しよう」


 ジゲンの意思が硬いことを悟ったのだろう、オウカはコクンと頷いた。

 そのタイミングを見計らったように部屋のドアがノックされる。


「ジャスか」


「はい、旦那様。お客様ですが応接間にお通ししています。正式な使者の方でありますのでお急ぎ、お会いしていただきたい」


「あい、わかった」


 ジゲンはオウカをゆっくり降ろすと、オウカに笑いかけ、ジンに真剣な目で見つめてから一言。「行ってくる」とだけ言って部屋を出て行った。

 さっき言っていたことはオウカを通してジンにも言った言葉だ。

 剣を持つならば覚悟をみ持てと。

 ジンはジゲンが出て行ったドアを見つめ剣を持つ覚悟とは何かを真剣に考えた。



 オウカを部屋に戻してジンは一人、自室で考えに耽っていた、ジゲンとオウカの先程の会話を思い出して『剣を持つ覚悟』とは何かを考えていた。

 剣は人の命を奪う道具だ。

 騎士がどれだけ守る者のために正当化されようとも戦争は起こりうるし起きれば人の命を奪う。つまるところ殺人である。

 この世界では命の重みなど前世とは比べ物にならないくらいに軽い。

 ならば人の命を奪うことの重みも軽いのかと言われればそうではないだろう。

 人の命を奪うとはそんな軽い話ではないのだ、だがジンは騎士を志しているつまり人を殺さねばならない立場に置かれると言うことだ。

 だがジンは騎士以外の選択肢はなかった、ならば奪う覚悟と守り抜く覚悟を決めてその道を歩くしかない。

 

(覚悟は持とう)


 覚悟などしたことがないし、持とうと思って持てるものでもない、だが持とうと思う気さえあれば全く持っていないよりはマシだろうと、ジンは自分に言い聞かせるのだった。

 自室で覚悟について考えていたジンはドアのノックする音で思考の渦から現実に引き戻される。

 

「坊っちゃま、お食事の用意ができました」


「わかった、すぐにいくよ」


 ジョゼの報告にもうそんな時間かと思ったジン。どうやらジンは思いのほか長い間考えていたらしい。

 ジンは軽く服装整えて、部屋を出てリビングまで行くとジン以外の家族はもう席についていた。

 ジンが席につくと食前の挨拶を済ませて食事が始まる。

 いつもなら誰かしらが今日あった事や何かしらの話題を振るのだが今日はすぐにジゲンが真剣な顔で話し始める。


「今日、陛下から城に謁見の召集命令がかかった。明日わしは城に行ってくる、ジンお前はわしと共に城に来い」


「俺が?」


「そうだ陛下からの御達しでな、どうやら歳の近い殿下と合わせるらしい」


「いやいや、でもうちは男爵だよ?殿下とは仲良くなっても身分があまりにも違くはないかな?」


「わしもそう思うが、どうやら殿下は少し特殊な方らしくてな、わしも二度くらいしか会ったことがないからあまりわからんがジンとは話が合うやも知れぬと陛下がな」


「まぁ、別にいいけど。俺が粗相をして親父殿の首が飛ぶのは見たくないぜ?」


「それはわしもごめんだが、まぁ大事なかろう」


 なんの気無しにいうジゲン。


(まぁ、いいか)


 とジンは割と適当に頷くのだった。

 この先、ジン・オオトリとロイストス・バン・ベータルとの歴史に残る初対面が決まった瞬間だった。



 翌日、早朝の鍛錬を終えたジンとジゲンは順番で風呂に入り王宮へ向かう準備をしていた。

 ちなみにオオトリ家の風呂は和式で外見は洋式の屋敷なのに室内は至る所が和風な作りをしているその一つが風呂である。初めジンも和式の風呂に驚いたものだ。

 準備の終えたジンとジゲンは家族に挨拶をして屋敷をでる。

 

「そういえばさ」


 ジンは昨日考えていたことをジゲンに聞いてみようと思い口を開く。


「昨日のことなんだけど、剣を持つ覚悟ってやつ」



「ああ、そのことか」


「俺も今まで覚悟して刀は振ってなかった」


「であろうな、だからお前の前であの話をしたのだからな」


「やっぱりか......俺は覚悟ってのはまだよくわかんないけど剣の重みはわかったよ」


「そうだな、お前くらいの歳ならそれで十分だろう」


 そう言ってジゲンは息子がしっかりと剣について、人の命について考えていることが誇らしい気持ちになった。

 嬉しくなったジゲンはガシガシとジンの頭を乱暴に撫でるのだった。



 ジンとジゲンは王宮につき、ジンは王宮というか王城の大きさに唖然としていた。

 家から見てもデカかったのだ近づけばそりゃあでかいのだが、前世の記憶でもここまで大きな建物は知らない、これは単純にジンが前世の記憶を断片的にしか所有していないためであるが、ジゲンはジンの新鮮な驚きに少しニヤリとしていた。

 ジンは前世の記憶の断片があるため割と何を見ても驚かないからである。


「お待ちしておりました」


 門が空き二名のメイドが現れ一礼する。

 メイドさんとは思えないほど優雅なメイドさんにまた驚くジンはここにきた驚くことばかりだと、ちょっとワクワクし始めていた。

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