保のグルメ乱文乱筆
保
第1話 なぜ企業は自社のグッズを売らずにプレゼントで応募させるのはどうしてか
昔(といっても2年前ぐらいだけど)、とある企業が「自社製品を模したデカいクッション」をつくり、それをプレゼント応募の賞品で何百名様に差し上げます、的なキャンペーンをやっていたので、それに応募したことがある。
もともと個人的にノベルティのたぐいが好きだというのもあるんだけど、そのプレゼント対象であるクッションが、一般的な応募で貰える賞品としてみるとかなり出来がよく、またおれの好きなブランド・食品ということもあり、これは応募してみるか、という気持ちにめずらしくなったのだ。
そもそも懸賞などはあまり送る方でなく、今までなんとなく送って当たったものといえば「永谷園の東海道五十三次カードフルセット」「自治体でやってたアンケートの謝礼としてクオカード500円ぶん」ぐらいで、いずれも特に欲しいとは思っていなかったので、別に当たらなくてもいいやという心持ちだったことが少なくない。
しかしその「デカいクッション」は、めずらしくおれにしてみては欲しいと思えるもので、数百名という狭き門だけどとにかく数で攻めればいけるんじゃないか?という気持ちになり、さっそくその日から応募要件となる「パッケージのバーコード集め」を始めるに至った。
元来「懸賞なんて当たらなくて普通」という価値観でもってこの40年間を生きてきたおれだが、その「デカいクッション」は、何かこう、当たる予感のようなものがビンビンに漂っており、おれはその商品を1日1個食うかたちで(もともと好きな商品ではあるんだけど、ボリュームがあるので1日1個はけっこうキツい)、地道にバーコードを集めていった。
幸いなことに、その商品は「いろいろな味のタイプ」があるものだったので、1日ごとに味の種類を替えたり、または料理に使ってみるなどしたりして、なんとか飽きずに、バーコード枚数で実に150枚程度を集めることができた。
150枚!
募集要項は「はがき1枚にバーコードを5枚」ということだったので、5枚揃ったら貼って住所を書き、5枚揃ったら貼って住所を書き、とやっていき、最終的には30枚の応募ハガキを出すに至った。
まあ150個(正確には1個が小分けになっているのでもっと多いんだけど)食べたし、30枚送れたし、これはいけるでしょ、という自信たっぷりの状態で応募期間を経たのち、結果発表となったのだが・・・どうもはずれたらしい。待てども待てども賞品は届かず、ついに公式の「すべての景品の発送が終わりました」というツイートを確認して、この戦いは幕を閉じた。
ものすごい虚無感と、ただならぬ嫌悪感がおれを襲った。あれだけ好きな食べ物を、多少つらい思いをしてまでも完食し、きちんとバーコードを貼って応募しても、ひとりで30枚応募しても、ダメなものはダメか。じゃあ当たった人は一人で何枚送ったのよこれ、いやまあでも運なのかやっぱり、でも30枚送って1枚もかすらないなんて、おれの賞品に対する愛が足りなかったのか、それともパワー不足だったのか・・・。
結果として、おれはその商品に対してすっかり興味をなくしてしまい、以降、その商品を買うことも、食べることもしなくなった。もう完全に「好き」の糸が切れてしまったのだ。スーパーやコンビニで商品を見かけることはあるが、もう買いたいとも、食べたいとも思わなくなった。別なメーカの別な商品は食べるけど、その懸賞の商品を積極的に選ぶことは、もうない。なんというか、自分が行く先々で頻繁に元カノを目にするみたいな、ばつの悪さがその商品を見かけるたびに蘇ってくるのが、たまらなく不快になってしまった。
プレゼント応募というと「それとなく欲しい人がそれとなく応募して当たったら嬉しいもの」というイメージがおれの中にずっとあったのだが、この商品の一件で、その考え方もずいぶん変わった。と同時に、本当に欲しい人のところに賞品が行き渡らず、ひたすらパワーにまかせて応募するような人間のことを、疎ましく思うようになった。転売が悪である、という言説の根拠が、ようやく身を以て実感できたと思っている。
と同時に、こういった心の機敏をわかってかわからずか、安易に「これプレゼント応募にしてめっちゃ商品買わせましょう」みたいなことを画策する企業に対し、自分はこの度、
「売ってくれれば普通に買うグッズをわざと抽選プレゼントの狭き門に置いて消費者の心を弄ぶ企業を許さない連絡協議会・会長」
という立場で以て、このような悲しい出来事が繰り返されないよう、啓蒙していくことができればと思ってやまない。
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